上 下
14 / 17
第2部『意識の魔道士』

第14話 颯希"姫"は御立腹でございます

しおりを挟む
 風の国ウィニゲスタ……。

 高い山脈に囲まれて、山下ろしの風が吹きつけるこの地の呼称である。

 その山々は自然の要害ようがいとして機能しているが、同時に全方位上方から踏み込まれることを意味する危うき場所。

 しかしこの地に生を受け、衣食住を営む彼等は、この風をこよなく愛し、むし恩恵おんけいとして利用してきた。

 寄って異国の衆は、そのしたたかさぶりに、争いではなく共生を良しとしてきた歴史がある。

 代々王家としてこの国を治める『ウィニゲスタ』家。決して王という地位の上に胡座あぐらのかかず、民と同様の視点でつつましくを美徳としている。

 16代当主『ゼカタイ・ウィニゲスタ』とて例外ではない。ただ彼は生まれつき身体が弱かった。

 たが卓越した技術力と、誰にでも分けへだてなく注ぐ愛情から、民の信頼を集めていた。

 この国王ただ1人の世継ぎにして、風の精霊の優秀なる使い手が『フィルニア・ウィニゲスタ』皇女殿下こうじょでんかである。

 未だよわい15で在りながら、親譲りの民想いは人一倍強く、かざらない性格すらそのままなので、既に民から溺愛できあいされている。

 そんな彼女のただ1人の従者じゅうしゃ。その名は『カミル』

 フィルニアより頭一つ低い背丈せたけの男子であるが実にかしこく、それでいて鼻に掛けない処が気に入られている。

 ~~~

 ───嗚呼……昼間の弘美相手に引き続き、またしてもやらかしている。判っているのに歯止めが利かない。

 NELN通話というの向こう側。

 不甲斐ふがいない自分に今にも泣き出しそうな声を出してる颯希いぶきなだめようとしているがそのカミルなのだ。

 颯希いぶきの中にフィルニア風の精霊術士を見た僕にしてみれば、このカミル従者のやり方こそ、説得材料を持つさいたる者だと思い込んだ。

 これは完全たる余談。風の国、風を愛する強かな民、彼等をたばねるか弱きとも民からの信頼厚き王。

 トドメというべき風の担い手フィルニア…………『その者蒼き衣の何たらかんたら……』まで足し算すれば、僕自身、苦笑を禁じ得ない尊敬リスペクトが知れるだろう。

 ───まあ、取り合えずソレは置いておこうか。

「友達…………今確かに大切な友達って言った?」

「はい、確かにそう言いました。それが何か……」

 これが僕、風祭疾斗かざまつりはやとの枠をはみ出せない証だと直ぐに思い知る羽目になる。

 昼間の随分ずいぶん失礼な俺野郎は風の国の隣国、火の国の傲慢ごうまんなる第6皇子『フィアマンダ・パルメギア』だ。

 このフィアマンダを引き合いに出そうが、カミルに化けてうながそうが、僕の本質朴念仁は変わらない、変えようがないのだ。

「あ、ああ…………良いの! それさえ聞ければ私は満足っ!」

「そう……ですか。これは異なことをおおせになるであらせますれば……」

「えっ……」

 ときが止まる……とはこういう状況を差すのであろう。が余計な口走りをしたことにしばらく気がつかなった。

「………ァ?」
「わわわわっ忘れてくれぇ! その記憶をどうか消してくれぇぇっ!!」

 ──成りきり過ぎた、余りにも。僕の中のカミルが告げる『貴女ランが余りにもフィルニア様に似過ぎてるからいけないのです!』

 後の祭りだ、口から飛び出し颯希姫いぶきひめの耳に飛び込んだ奴だ。最早彼女の心の中ではりつけしょされてるに決まっている。

 颯希の「姫様ァ?」にはとてもそら恐ろしいものを感じる。最高にいじ甲斐がいのある飼い犬ペットを得た魔女の様だ。

「ち、ち、違うんだ! その位爵藍ラン素敵チャーミングっていう意味で……」

 ───僕はこのに及んでさらに仕出しでかしてゆく。

 自分でこれ以上傷口を拡げるを重ねるとは……。

「…………爵藍ら……ん?」
「え、え、あ、はい?」

 すごい間を置いた言い回し。『取り消せよ今の言葉』そんな高飛車たかびしゃぶりがを通じ伝わって来た。

「…………判りました、忘れましょう………そ・の・か・わ・り」
「??」

 待って、待ってください。颯希姫ってこんなんだったっけ!? 確かに押しの一手こそ強かったけど、こんな全てを見下したかのような態度を取るのか? 

 ───これじゃどっちかと言えば女王様だよ! 僕のカミル従者フィアマンダ第6皇子の方が余程可愛げがあるよ!?

「但し金輪際こんりんざい、私の事はって呼びなさい。そして貴方のこともぜぇぇ~たぁぁ~い、疾斗って下の名前で呼ぶから」

 ───こ、これは! 暴走した俺野郎フィアマンダがやらかしたやつの逆方式リバース!?

 まさかの颯希様からの下の名前お近づき宣言せん・げんッ! ………んっ? 待てよ?

 ───そうか、そういうことでございますね颯希皇女殿下フィルニア様。『弘美と疾斗だけなんて決して許しませんことよ』

「い、Yes! YourHighness!」

「フンッ、精々覚悟なさい!」

 事、此処に至れば最早ふざけ倒すしかない。全く以って望んだ結果ではないのだが、の元気を取り戻す報酬条件ステージクリアだけは達せられた。

「………と、処で話は変わるんですが、い、颯希…さん」

「コラッ! ちゃんと颯希って呼び捨てなさいっ! 出ないと月曜日にクラスで姫様呼ばわりされたって言いふらすよっ!」

「ひぃぃーっ! 止めてそれだけはァッ!」

 俄然がぜん元気を取り戻した颯希の声がスマホを通して耳をつらぬく。それだけは断固だんこ死守しなくてならぬ。

 嫁候補逢沢弘美が差し置いて、転入生を姫呼ばわりだ。クラスから僕の居場所は完全に失われるのが道理だ。

「わ、判った、わ・か・り・ま・し・た! だから僕の話を聞いてくれ!」

 負けじと取り合えず声を張ってみる。何にせよ話を聞いてくれないことには始まらない。

「はぁい、で、何なのよ?」

「ぼ、僕も………に興味を持ってさ………」

「え…………」

 ───これだ、これでようやく僕も望んだコートに立てた気分だ。颯希のその驚き声が聞きたかった引き出したかった
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎ ——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。 ※連載当時のものです。

処理中です...