転生と未来の悪役

那原涼

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番外編

カナトの身分7

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「カナト、どこに行くんだ?」

「ああ、ちょっと猫たちと庭で遊んでくる!」





「カナト、今日は一緒に寝ないか?」

「いいけど、ああいうことはダメだからな!まだ腰治ってねぇし……」





「カナト、今日は何を食べた?」

「サンドイッチ!」





「カナト、何か欲しいものはないか?」

「カナト、前回言っていた菓子を作らせてみた」

「カナト、水浴び場を作った」

「カナト、この前……」

「カナト……」

「カナトーー」






「カナト、きみが今朝話しかけていた使用人だが、彼を別のところに異動させたんだ。次からはミツバチやレックと話すといい」












ーーーー……………

いやいやいやいやいや!!!!!最近のアレストおかしすぎないか!!!?

何していたのかめちゃくちゃ聞いてくるし、何気に言ったことを実現してくるし、果てには話しかけただけの人を異動させたし!

絶対何かおかしい!

朝食の場でカナトは無味乾燥とトーストを噛みながらちらりと対面を見た。

アレストは相変わらず貴族らしい優雅な所作で食後の紅茶を飲んでいる。

「ん?どうかしたのか?」

視線に気づいたアレストは優しく笑って首を傾げてみた。

「い、いや。なんでもない」

聞けねぇなぁ。なんて聞けばいいんだよ。お前最近変だぞ?って直接聞くか?

トーストを頬張りながら悶々と考えていると、ふと頬に暖かさを感じた。

急に触られて、びっくりしたカナトが思い切りのけぞり、まん丸にした目でアレストを見た。

「な、なんだ……?」

「ただ、悩んでいるみたいだから、よければ僕に言ってくれないか?」

「………」

悩みの根元がお前だよ!!

カナトは思い切り目を吊り上げてトーストを平らげると紅茶を一気に流し込んだ。

「お前だよ!お前なんだよ!」

「僕?」

「そうだ!最近なんかあったのか?やけに色々話しかけてくるし……」

「そんなつもりはなかったが、僕に話しかけられるのは嫌だったのか?」

「え?あ、いや。そんなことは……」

「不安なんだ」

「不安?」

「カナトは僕のせいでこの場所から出られないし、もし本当に出ようと思えば意識体で逃げ出せる。だから、ついつい……」

「に、逃げ出すつもりもいやと思うこともないんだぞ?俺けっこう今の暮らし好きだし」

「もしの話だけど、きみをここから連れ出せる人がいて、僕が手の届きにくいところでかくまってくれる人がいるなら、きみはついて行くか?」

「………」

どういう意図の質問だ?いや、それよりも早く答えないと迷っていると思われる!

「ついていかない!」

「そっか。そう言ってくれてうれしいな」

カナトもぎこちない笑みで笑い返した。

そして本人が仕事で事務室へ消えて行くと、カナトは思い切り隣のミツバチの腕をつかんだ。

「ミツバチ!アレストに何があったんだ!最近何かおかしいことでもあったのか!?」

「と言いますと?」

「例えば変なこと吹き込まれたとか!それならキトウとか怪しいな!」

「あれが原因だと思われます」

「あれ?キトウのことか?」

「いいえ、違います。少し前に総督殿がいらっしゃいました」

「え?ああ……そういえば来てたな」

「あの方と話してから様子が変わりましたので、おそらく関係があるかと思います」

「じゃあ、あいつのせいか!」

「おそらくは」

「クソッ!何を吹き込んだんだ!」

憤慨するカナトを観察しながらミツバチはただ黙って後ろについていった。















イクシードがふたたび訪れたのはその後間もない頃だった。

その情報を知ったカナトは馬車が到着すると同時に真っ先に外へ飛び出し、

「テメェ!前回アレストに何言ったんだ!」

馬車から降りてきた人物のえり首をつかみ、引き寄せでにらむ……が、バカを見るような目と合い、思わず目を瞬かせる。

「イグナス?」

「気安く名前を呼ぶな」

イグナスはつかんでくる手をぱっと無情にはらい、えり首を正した。

その後ろから降りてきた男が低い笑い声をもらす。

「ふふ。元気だなきみは」

ガタイの良さと違い、どこか穏やかと感じる低い声にカナトが目を向ける。

イクシードがあの黒い軍服を身にまとい、相変わらず銀の仮面をつけて降りてきた。

「お前アレストに何言ったんだよ!」

びしっと指を突きつけられてイクシードが首を傾げる。

「はて、何か言ったかな」

「とぼけるな!お前が来てからあいつの様子がおかしいんだよ!」

「あのことを伝えてないのか。心が痛いな」

「なんのことだ?」

イグナスはちらっとイクシードを見やり、諫めを込めた声で言った。

「この2人の事情は伝えたはずだ。余計なことは何もするな。今回は確認だけだ。いいな?」

「もちろん」

「ふ、2人ともなんの話だ?」

カナトは確認が何を指しているのか分からず、2人を交互に見ながら眉を寄せた。

そこへアレストが近づき、後ろからカナトに呼びかけた。

「カナト、こっちへ」

そう言ってからカナトの腰に腕を回す。

「伝えずにすまなかった。実は総督殿はきみの父親かもしれないんだ」

「はぁ、ちちお…………はあ!?」

「今回はシドも呼び寄せて、きみが総督殿とどういう関係か議論するつもりだよ」

「はぁあッ!!?」









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