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第五章
意外な来店客
しおりを挟むお店に戻ると言ってから、カナトは本当にお店に戻れた。
キシューが何やら訝しげに戻って来たカナトの両脚と顔を交互に見ていたが、レリィに諌めの視線を向けられると肩をすくめてそっとその場を去った。
戻ってからは以前と変わらない生活を送っていたが、何かしなければという使命感にも似た衝動でカナトは少しずつお店に関わろうとした。
そんなおり、店には意外な来客が来た。
いつも通り貴族たちが話しかけてくるのをテキトーにあしらっていると、ドアベルがチリンチリンと鳴った。
人の隙間から見やると、なんと来たのはデオンである。
カナトが瞬時に怒りの表情を浮かべて近寄った。
「お前!よく来たな!」
「おー!うまくやっているようだな!」
「じゃねぇよ!俺のこと普通にしゃべってんじゃねぇか!」
「悪いな?」
「思ってねぇだろ!」
「まあ、怒るなよ。実はな、お前を俺の屋敷じゃなくて店を用意してやったのもあいつがあんたに会いやすくするためなんだけど、知ってたか?」
「貴様っ!」
「ハハハッ!」
「ハハハじゃねぇよ!」
怒り心頭のカナトに構わずデオンはますます楽しそうに笑った。そしてお詫びと言ってお店にある菓子をいくつか買って帰った。
「またなー」
「二度と来るな!」
デオンを見送ったカナトは思い切りドアを閉めた。
クソッ!
カウンターに戻ったはいいが、押し寄せてくる貴族たちをうっとうしく思い、ガルルルッ、とにらんで退治した。
もはや貴族たちにおだてられるのに慣れすぎて、対応がどんどん雑になって来ている。
そして夕方近くなってくるとさらに珍しい客が来た。
ドアベルの音とともにカナトが視線を向けると思い切り目をむいた。
「今、少しいいか?」
フードを深く被った人物がそのフードのふちを上げた。
「お前……」
「ん?……ああ!」
あちらもカナトを見て驚いた顔をした。
「なんでお前がここにいる!?」
「なんでも何も、俺ここの店長だし」
「はあ!?」
来店したのはなんとニワノエだった。顔を見るのは割と本当に久しぶりである。
あのトサカみたいな髪型がおちついて、今じゃ中分ショートになっている。
「お前髪型どうした?」
「お前が聞くな!バレないように目立たない格好にしたんだよ!」
目立っている自覚はあるのかこいつ……。
カナトがジト目になっていると、ニワノエは何やら思いつめた顔で歯噛みをした。
「ここで……せ……」
「あ?今なんて?」
「ここで働かせろ!」
「はい?」
カナトは目をまん丸にしてニワノエを見つめた。
さらに数日後。
ニワノエが店員として働き始めた。
なんだこの状況。
カナトはいそいそと開店準備の菓子並べをしているニワノエを見た。
なぜこの人がここで働きたいのか、いくら考えても理由が思いつかない。そもそも働かなくてもいいような人である。
季節は冬入りして、かなり冷え込み、カナトは厚着をするようになった。
そして肝心のアレストからのアタックは今のところない。
店に来るわけでも、誰かを寄越すわけでもない。
だからなのか、カナトがここ最近店の入り口をやけに気にするようになった。
ロンドール領の冬もかなり寒く、今日は大雪が吹き荒んでいる。
本来なら貴族でもほとんど来ない。とりわけ忠誠心を見せたいバカが来るが、寒さに早々退散していく。
だというのに、また誰か来たようである。
ファー付きのローブのフードを被り、よろよろと店の中に入ってくる。目にもまぶしい長い金髪が雪をつけてはらりと肩を滑った。
「な、何か食べ物を……」
そう言ったきり、バタンと倒れた。
「お、おい!」
カナトが慌てて近寄って抱き起こした。
フードを取ると、その顔にニワノエが来た時以上に驚いた。
「お前!!」
その大声に店員たちがぞろぞろと集まる。
「どうかしましたか?」
レリィが肩越しにのぞいた。
カナトは震える手で慌ててフードを引き下げた。
「な、なんでもない!なんか倒れたから部屋に連れて行く!」
言うなり慌ててフランをかついで部屋に駆け込んだ。
そう。店の中に倒れ込んできたのは、この国の第二王子、フランである。
なんでこうもおかしいヤツらばかり店に来るんだよ!!
フランをベッドの上に置いてその容態を見た。
「おい!意識あるか!」
頬をぺちぺち叩くと「うぅ」とうめき声をもらした。
「よし生きているな!」
「アレスト……許さない、お前だけは……」
フランはそう言うとがくりと意識を失った。
「なんだって?アレスト?おい、どういうことだ!」
しかしいくら揺れ動かしてもフランは目覚めなかった。
後々心配して入って来たレリィがカナトの暴挙を止め、なんとかフランの虫の息を取り留めた。
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