転生と未来の悪役

那原涼

文字の大きさ
上 下
143 / 241
第四章

打ち明け

しおりを挟む









カナトがそわそわしながら部屋の中を行ったり来たりしてシドが帰って来るのを待った。

アレストならすぐに来そうだけど、忙しくて来れないかも知れないしなぁ。

その時、ドアがガチャと開けられた。

「来たぁ!!」

緊張しすぎて思わず口に出してしまった。

「カナト?」

「あ、いやなんでもない!よく来た!ほら座って!」

カナトがベッドに座ってパフパフと隣をたたく。

「わかった」

アレストは後ろ手にドアを閉めるとカナトの隣に腰かけた。

「どうかしたのか?」

「その、驚かないで聞いてほしいんだけど……」

指先をからめてなんとか考えた話の順序を思い出そうとするが、緊張するあまりすっかり内容が抜けてしまった。

何から言うべきだったっけ!?

「平気か?」

「へっ、平気だ!すぐ思い出すから少し待ってくれ!」

だが思い出そうとすればするほど緊張して何も出てこない。

ど、どうしよう……!

それを見てアレストは落ち着かせるためにカナトの背中をなでた。

「大丈夫、落ち着いて。深呼吸してみて」

ゆっくりなでられるとカナトも少しずつと緊張が収り、大きく息を吸って吐き出した。

よし、言うぞ!

「アレスト!実は俺この世界の人じゃない!」

「………」

「本当なんだよ!!嘘じゃない!ほら俺色々と変な言葉言ったりするだろ!?俺がいた世界でもーー」

「知っている」

「え?」

「カナトがこの世界に属さない人なんじゃないかと思ったことはある。きみが父様のことを知ったり、今までおかしな言動をとったことはすべてそれが原因なんだな?」

「う、うん……実はお前やユシルたちがいるこの世界は、その…驚くかも知れないけど、小説の世界で、俺は読んだことがあるからある程度内容を知っていて、それでお前があとあと大変なことになるから助けたくて、でもなんだかうまくいかなくてクローリー親子を巻き込んでしまって、あーだからその、アグラウは死んちゃいけないから、助けたくて、結果としてお前の未来に繋がるからこのまま……」

手振り身振りで説明するが、内容がまとまらず、言いたいことと説明がごっちゃ混ぜになりながらしゃべることになってしまった。

それでもアレストはただそんなカナトをいつもの笑みで見つめ、黙って聞いている。

「なんと言うか、ほら前回俺が消えてしまっただろ?俺が暮らしていたあちら側の世界では家族がいて、兄と両親が……っていらないところまでしゃべっている!」

「そんなことない」

「……本当か?」

「きみのことがもっと知りたい。あちらの世界で家族がいたんだな」

「そう!兄はいつも気にかけてくれていたけど、俺何も返せなくてさ、こっち側に帰る時も何回も死んだから、その度に泣かせてしまって」

「何回も死んだ?以前もそんなこと言っていたな」

「そ、そうか?全然覚えてないな。まあ、こちら側に戻るには来たと同じように死なないといけないし、それですらユシルが教えてくれたんだ」

「やっぱりユシルはすごいな」

アレストがユシルのことを素直にほめたことに驚いてカナトがギョッと見た。

「ユシルのおかげできみが帰って来れた、そうだろ?」

「そ、そう!!ユシルのおかげ!だからまた会えたし、うん!ユシルはいい人だよ!」

ここぞとばかりにユシルの株を上げようとする。アレストもいやな顔せずに笑った。

「ははは!必死だな。まあ、そうだな。カナトがなんでこの話をしようとしたのかわかった気がする。とりあえずリアムは解放できる。でも、クローリーさんは今はまだダメだ」

「え、と……?」

「リアムはもう大丈夫だってことだよ」

「本当か?」

「本当だ。その代わり、カナトがいた世界のことや、きみ自身のこともっと教えてくれないか?」

「も、もちろん!いくらでも言う!」

「楽しみだな。それじゃまた仕事終わったら、話してくれるか?」

「話す!仕事中なのに呼び出して来て悪かったな!」

「そんなことない。きみがどこにいても必ず行くから」

そう言われてカナトが少し恥ずかしそうにした。同時にホッとした。

言ってよかった!クローリーさんのことは今はまだダメってことは、今後解放することはあるって意味だよな?

カナトがうれしそうにするのを見て、アレストも表面上微笑ましく見つめた。心の中でカナトの言葉を組み立てながら考える。

小説、別の世界……なるほど。少し納得してきたな。

カナトが酔っ払った時に言っていたことも、今までカナトが教えられてもいないことを知っていたのも、先ほど教えられたことと合わせると合点がいく。

「それじゃ、また夕方に来る」

「ああ!いってらっしゃい!」

「いってきます」

アレストは部屋を出てドアを閉めると、保ち続けていた笑顔をすっと消した。

「顔芸か?」

冷たい視線がシドをとらえ、そして口もとのみの笑みを浮かべた。

「自分の仕事はわかっているな」

カナトに聞こえないようにするためか、声のトーンはいくばくか落とされた。シドもそれに合わせて言う。

「わかっている。お前もあまりやりすぎるな」

「その心配はお前の管轄かんかつ外だ」

去っていく背中を見つめてシドが重たいため息を吐き出した。











夕方前、温室で遊んできたカナトがシドとともに部屋へ帰ると2人分の姿がその前に立っているのを見た。

うちの1人はすぐにわかった。

「まさか、リアム!」

カナトが慌てて走って近づくとリアムと一緒にいた人物が一歩前に出た。

「カナトさん、アレスト様からの伝言です」

「お?お前……あの看守使用人!」

「そういえば名乗ったことないですね。ぜひレックとお呼びください。それで、このリアムという子どもの話なんですけど、アレスト様が言うには絶対に部屋に入らせないこと、そして一緒にいる時は必ずそばに誰か置くこと。できればシドを置いてください」

「わかった!じゃあ今からリアムはもう安全なんだな!」

「はい。それじゃあ仕事がありますので失礼します」

軽く頭を下げるとレックは去っていった。

途端にカナトは気まずく頭をかきながら、リアムにどう声をかけようか迷った。

「あ、あのさ……会話聞こえているだろうから、知っていると思うけど……その、本当に悪かった。えと、必ずお前の母親も助けるから!」

母親と聞いてリアムが顔を上げた。暗く沈んだ目でカナトを見上げ、そして少しずつと水溜りができていく。

「リアム……?」

「カナト!」

そう叫んでリアムはカナトに抱きついた。

「ありがとう……うっ、今まで悪い態度取ってごめん!」

「え?あ、いや全然気にしてない!」

「母さんのこと必ず助けて!お願い、もうカナトしか頼れない」

「必ずなんとかする!」

「うん」

すすり泣くリアムの背をなでながらカナトも少し涙ぐんだ。

しかし、背中をなでてもらう一方でリアムは最初に目が合った時の暗い目をしていた。カナトにしがみつくように抱いていた手をぎゅっと力込む。

そろそろリアムが泣き止んだ頃、帰ると言って離れて行こうとした。

「待って!その、送ってあげようか?」

「え?いいよ!ぼくの部屋も屋敷のなかにあるし、今は1人でいたいから」

「そ、そうだよな!何かあったらなんでも言ってくれ!」

「ありがとう!」

リアムが見えなくなるまで見送ると、シドはカナトが抱きつかれた時から出していた暗器をそっと袖の中に押し込んだ。

「お前も早く部屋に戻っていろ」

「でもリアムが心配だな」

「アレストが帰ってくるぞ」

「そうか!俺のこと話す予定だしな!」

カナトが慌てて部屋に戻った。ドアを閉める前に頭を出して、

「明日の予定はあるか?」

「ないが、どうした」

「明日はリアムと一緒に温室に行こうと思って!」

「……はあ、いいけど」

「じゃあ明日よろしくな!予定入れるなよ!?」

そう言ってドアがバタンと閉められた。

シドはただ仕事が余計に増えた気がして頭痛を感じた。

危機感のないガキだな。いや、もう成人しているか。









自分の部屋でリアムは厨房から持ってきた果物ナイフを見つめたまま、ぶつぶつとつぶやいた。

「……ぃ、…。全部……お前のせいじゃないか。お前さえいなければアレスト様はああならなかった。母さんも罰を与えられることはなかった。全部、全部お前のやったことなのに、なんで、なんで……」

ナイフは冷たく鈍い光を放って憎しみのこもった目を映し出した。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

BLゲームのモブとして転生したはずが、推し王子からの溺愛が止まらない~俺、壁になりたいって言いましたよね!~

志波咲良
BL
主人公――子爵家三男ノエル・フィニアンは、不慮の事故をきっかけに生前大好きだったBLゲームの世界に転生してしまう。 舞台は、高等学園。夢だった、美男子らの恋愛模様を壁となって見つめる日々。 そんなある日、推し――エヴァン第二王子の破局シーンに立ち会う。 次々に展開される名シーンに感極まっていたノエルだったが、偶然推しの裏の顔を知ってしまい――? 「さて。知ってしまったからには、俺に協力してもらおう」 ずっと壁(モブ)でいたかったノエルは、突然ゲーム内で勃発する色恋沙汰に巻き込まれてしまう!? □ ・感想があると作者が喜びやすいです ・お気に入り登録お願いします!

断罪フラグを回避したらヒロインの攻略対象者である自分の兄に監禁されました。

BL
あるきっかけで前世の記憶を思い出し、ここが『王宮ラビンス ~冷酷王の熱い眼差しに晒されて』という乙女ゲームの中だと気付く。そのうえ自分がまさかのゲームの中の悪役で、しかも悪役は悪役でもゲームの序盤で死亡予定の超脇役。近いうちに腹違いの兄王に処刑されるという断罪フラグを回避するため兄王の目に入らないよう接触を避け、目立たないようにしてきたのに、断罪フラグを回避できたと思ったら兄王にまさかの監禁されました。 『オーディ… こうして兄を翻弄させるとは、一体どこでそんな技を覚えてきた?』 「ま、待って!待ってください兄上…ッ この鎖は何ですか!?」 ジャラリと音が鳴る足元。どうしてですかね… なんで起きたら足首に鎖が繋いでるんでしょうかッ!? 『ああ、よく似合ってる… 愛しいオーディ…。もう二度と離さない』 すみません。もの凄く別の意味で身の危険を感じるんですが!蕩けるような熱を持った眼差しを向けてくる兄上。…ちょっと待ってください!今の僕、7歳!あなた10歳以上も離れてる兄ですよね…ッ!?しかも同性ですよね!?ショタ?ショタなんですかこの国の王様は!?僕の兄上は!??そもそも、あなたのお相手のヒロインは違うでしょう!?Σちょ、どこ触ってるんですか!? ゲームの展開と誤差が出始め、やがて国に犯罪の合法化の案を検討し始めた兄王に…。さらにはゲームの裏設定!?なんですか、それ!?国の未来と自分の身の貞操を守るために隙を見て逃げ出した――。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

主人公に「消えろ」と言われたので

えの
BL
10歳になったある日、前世の記憶というものを思い出した。そして俺が悪役令息である事もだ。この世界は前世でいう小説の中。断罪されるなんてゴメンだ。「消えろ」というなら望み通り消えてやる。そして出会った獣人は…。※地雷あります気をつけて!!タグには入れておりません!何でも大丈夫!!バッチコーイ!!の方のみ閲覧お願いします。 他のサイトで掲載していました。

元会計には首輪がついている

笹坂寧
BL
 【帝華学園】の生徒会会計を務め、無事卒業した俺。  こんな恐ろしい学園とっとと離れてやる、とばかりに一般入試を受けて遠く遠くの公立高校に入学し、無事、魔の学園から逃げ果すことが出来た。  卒業式から入学式前日まで、誘拐やらなんやらされて無理くり連れ戻されでもしないか戦々恐々としながら前後左右全ての気配を探って生き抜いた毎日が今では懐かしい。  俺は無事高校に入学を果たし、無事毎日登学して講義を受け、無事部活に入って友人を作り、無事彼女まで手に入れることが出来たのだ。    なのに。 「逃げられると思ったか?颯夏」 「ーーな、んで」  目の前に立つ恐ろしい男を前にして、こうも身体が動かないなんて。

【完結】前世の記憶が転生先で全く役に立たないのだが?! ~逆チートの俺が異世界で生き延びる方法~

.mizutama.
BL
☆本編完結しました!!番外編を続々更新予定!!☆  由緒正しい家柄である騎士団長の夫妻に拾われた赤ん坊の俺、アントンには日本人だった前世の記憶があった。  夫妻に溺愛されてすくすくと成長した俺だが、キラキラしたこの異世界での場違い感が半端ない!  そして、夫妻の実子である一歳年下の弟・アルベルトの冷たい視線が突き刺さる!  見た目がザ・平民の俺は、貴族の子弟が通う学園でクラスメートからほぼいない者として扱われ、16歳になるのに婚約者さえ決まらない!  体力もなければ、魔力もない。選ばれし勇者でもなければ、神子でもない。  この物語は、そんな俺がこの異世界を生き抜き、なんとか安らげる居場所を求めてあがいた生々しい記録である!! 【R18】 完全無欠美貌騎士の弟×平凡無自覚兄 (※その他攻めキャラいろいろ・・・・) ※注意事項※ 愛されという名の総受け。 ギャグですが、R18要素は多め!(R18シーンは予告なく、突然に始まります!) 攻めはイケメンですが、全員変態です。 それでもいいという方のみご覧ください!!! 【お願い】 ネタバレ感想はネタバレフィルターかけさせていただきます。あしからずご了承ください!アンチ感想・感想という名の展開予測はご遠慮ください。

え?なんでオレが犯されてるの!?

四季
BL
目が覚めたら、超絶イケメンに犯されてる。 なぜ? 俺なんかしたっけ? ってか、俺男ですけど?

処理中です...