転生と未来の悪役

那原涼

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第四章

脱出

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檻に閉じ込められて更に1週間。

カナトたちについに機会が訪れた。

シドが何気なく置いた細長い鉄板のようなものがテーブルにある。しかも檻からそう遠くない。

「カナト、一緒に力を合わせて檻を倒そう」

「わかった!」

檻は少し縦長の四角である。鉄板がそう遠くないとはいえ、カナトやユシルの手足じゃまったく長さが足りない。なので一応檻を倒して距離を縮める必要がある。

何度もかけ声で体を檻にぶつけるが、体重が足りず一向に檻は倒れない。

疲労困憊でカナトが溶けているとユシルがぽつりとつぶやいた。

「あまりここで魔力は使いたくないけど、しょうがない」

「ユシル?」

「あの長い鉄板を引き寄せないか試してみる」

ユシルが手を鉄板に向けてかざすと淡い光が現れた。すると、鉄板がカタカタいいながら動き、カーンと檻にぶつかってきた。

「おわっ!すげぇ!」

カナトは枝のような細い足で必死に弾かれて少し距離のある鉄板を引き寄せようとした。

ユシルは自分の手を見てどこか戸惑いのある表情で首を傾げている。

おかしいな。なんだか魔力が増えている?まさかこの隠れ家はまだ森の中?

首都の水の流れは基本森に繋がっている。流された場所も木々に囲まれていた。

シドに捕まったとき、ユシルは視線をふさがれたため途中の地理は確認できなかったが、よく考えれば森の中は身を隠すのに一番いい。

そしてもう一つ、『コドク』である。暗殺組織である『コドク』の拠点はいまだに謎のままである。各地に拠点があるため、そこから依頼を受けることで組織を持続している。

あの男2人は暗殺者であることは疑いようがないけど、でもなんで『コドク』を乗っ取ろうとしたんだろう。

ユシルはなぜか胸騒ぎがした。ちょうどそこへ「取れた!」とカナトの声が響いてくる。

「ユシル!ほら、この鉄板で鍵穴に挿せばいいのか?」

「待ってて、鍵の形に変えてみる」

鍵の形を変えることでかなり魔力消費するため、さっきの場面でユシルはあまり魔法を使いたくなかったのである。本体と中身が分かれてから魔法の使用に制限がかかり、魔力が消費しやすくなっていた。

鉄板の先から鍵穴のあいだに薄っすらと光る糸が繋がり、鉄板の先がどんどん形を変えていく。

「やっぱりすげぇな……」

「カナトはこの世界の物語を知っているんだっけ」

「え?ああ、まあ、前言ったみたいに読んでいた小説だからな」

「『コドク』って誰かが乗っ取たの?」

「シドたちのことだな。そんな描写なかったと思うけど……俺やカツラギが来てからだいぶ変わってしまったし、断言はできないかもしれない」

「そっか……」

ユシルは不安げな顔をした。

大丈夫、だよね?

「まあ、心配するな!記憶が戻ったらみんな正気になるだろ!」

シドはともかく、ムカデは今はまだアレストの暗殺者である。何かよからぬことをしようものなら自分が泣き落としでもなんでも使ってアレストに止めさせればいい。

そう楽観的に考えたカナトは胸を張った。

ユシルにはその自信がどこからくるのかわからなかったが、なんだかついつい笑ってしまう。

「カナトがいてくれてよかった」

「そうか?」

「1人だったら落ち込んでいたかもしれない……でもカナトがいてくれるから、きっとうまくいく」

「おう!」

「あ、開いた」

ガチャンという音とともに錠が開いた。差し込んだままの鉄板と一緒に錠は浮き、テーブルの上で落ちた。

「よしゃあ!ユシル、あの窓から抜け出せるんじゃないか?」

木格子の隙間はちょうどカナトとユシルが通るのにいい大きさだった。

「行けそうだね」

「俺今鳥だし、足でつかんで飛べるはずだ!」

「だ、大丈夫なの?飛べるの?」

「任せろ!」

飛べることを証明しようとカナトが走って翼をはためかせるとーーそのまま落下した。

「へぶっ!?」

「カナト!!やっぱり鳥になっていきなり飛ぶのは難しいんだろうね」

なんとか翼の支えて顔を上げたカナトはクチバシの痛みに耐えながらつぶやいた。

「……クソッ、油断した」

その後何度も飛ぶ練習をし、やっとできた頃にはカナトはもう満身創痍だった。

「よし!飛ぶぞユシル!!」

窓辺でガシッと小さい両足でユシルの肩をつかんだカナトは闘志を燃え上がらせながら、ついに隠れ家から飛び出た。

「カナト、無理はしないでね!」

「任せろ、このくらい朝飯前だ!!」

カナトは必死に慣れないまま翼をはためかせた。
















シドたちがカナトたちの脱走に気づいたのはその日の夕方である。

隠れ家に戻ると朝にはいたはずの小動物たちがいなくなっていた。部屋に散らばった羽根、飛び散ったパンクズ、そして錠に刺さった細長い鉄板。

ムカデは檻のあるテーブル前に来て手を滑らせた。

「誰かが来た形跡はない」

「猫でも入ったか?」

「いや、それはない。窓の格子は猫が入るのに足りない。子猫でもない」

ムカデはテーブルから錠を持ち上げ、刺さっている鉄板を抜き出した。

「………」

「この鉄板朝に置いたばかりだぞ」

「夕方までの短期間でここまでぴったりな鍵を作るのは不可能だ」

「人間?」

部屋の中を見回したムカデはそれを否定した。

「違うと思う。何もあさられた形跡はない。相手の動機が不明だ」

「つまり小動物たちを狙った犯行か?」

「理由はわからないが、その可能性はある」

部屋の中に争ったのか、鳥の抜け毛が何枚か落ちていた。

それはただカナトが飛行練習の際にあちこちぶつけたために落ちた羽根である。














首都の邸宅に戻った2匹は偽ユシルが今ちょうどイグナスと別行動だと知り、ユシルはイグナスに会うために偽ユシルの部屋の窓を突き開けて入った。

そして止める間もなくカナトは、アレストを探してくる、とそのまま飛び立っていく。

「せっかちだなぁ。大丈夫かな、カナト。どうしよう……なんだか、ものすごくいやな予感がする」













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