悪徳騎士と恋のダンス

那原涼

文字の大きさ
上 下
65 / 92
第三章

おまけで来た

しおりを挟む







ウィオルたちが駆けつけた頃、ボルは無事だった。ガラックがボルに駆け寄って切られた手首の手当てに当たっていた。

周りを見渡すと、どこにもシュナインの姿が見当たらない。ボルに聞こうにも意識不明だ。

すでに犯人の3人は捕まっている。全員ギルデウスが一発で仕留めた。

どこに行ったんだ。

「誰かシュナインを見なかったか?」

「ここです」

背後から声がしてウィオルがバッと振り向く。顔に血痕をつけたシュナインがいた。

「い、いつからいたんだ」

「ついさっきです」

シュナインが袖口で顔の血をふく。

わずかに火薬のにおいがした。

「ん?火薬にでも触ったのか?」

「そういうわけじゃないけど、爆弾は確かにありました。それを分解していました」

「爆弾?」

それは嫌な響きでしかない。湖のことでも屋敷の地下でも、今のウィオルにとって爆弾はもっとも神経に触れる言葉だった。

「どこでそんなものを?」

ん、とシュナインがほんのり血がついた指を上に向けた。

「あそこ」

「天井に?」

「たぶんだいぶ前に置かれていたはずです。湿ってて、もともと使い物にならないし」

ウィオルは考えるようにうつむいた。まさか偶然にもモレスと関係はないかと考える。

じーとした視線を感じて顔を上げると、無感動な目がスッとウィオルの後ろに向かれる。その視線の高さを見てウィオルがハッとする。

振り返ると今度はギルデウスが真後ろに立っていた。

「ど、どうしたんだ?」

「眠い」

ウィオルはまさかと考える。自分が他の人と話して嫉妬したのでは?と。しかし、ギルデウスがウィオルの背中によじ登ると本当に寝てしまった。どうにも嫉妬しているようには思えない。

はあ、やっぱりそんな都合のいいことはないか。

犯人を縛って駐屯所に帰ると3人を三つ葉のように地面に置いた。

囲んで、騎士たちがそれぞれ手に剣を持っている。

「食人とはいい趣味してやがる!」

そう言うアルバートは怒っていた。

「どうしますか?帝都に差し出しますか?」

「前回は薬関係だからあっちが直々に来たが、今度は俺たちが行かねばならねぇかもしれんな。とりあえず手紙書くか」

「わかりました。私が書いておきます」

「ウィオルありがとー!」

「はい……」

こういった事務的な仕事もウィオルが担当することが多くなった。最終的にチェックするのはアルバートだが、ちゃんとしているのかどうかが疑わしい。










そして数日後、なんとフレングが来ていた。

「え?」

正門まで来て出迎えた人物がフレングだと知ってウィオルが固まる。

「なぜあなたがここへ……」

「食人集団のことで来たよ?ついでにウィオルのことも見に来た!はい、ハグ!」

「ちょっと待ってください」

バクを避けてウィオルが数歩退がる。

「このことも翼竜騎士団と関係があるのですか?」

「というより、僕はおまけ」

「どういうことですか?」

「あっちに帝国騎士たちが来てるよ」

あっち、と指された方向を見ると、濃緑の騎士服を来た一般騎士が数人いた。

ウィオルは軽く頭を下げた。

「この度はわざわざ来てくださってありがとうございます」

「いやいや、むしろこっちがありがとうって言いたい!こいつらのせいで大変な思いしたからな。ちょうど帰りついでにいたぶってやらねぇとな」

リーダーらしき中年の騎士が明るく笑って手に持った鎖を振ってみせた。そしてギロッと縛られた犯人3人を見て、

「ちゃんと責任持って牢にぶち込んでやるよ」

3人は大人しく鎖をかけられて一列に繋がれた。騎士たちはそのまま帰って行ったが、なぜかフレングが居残っている。

「あなたは帰らないんですか?」

「帰るよ。その前に遊ぼうと思って!」

「ご自身の身分を忘れたのですか……」

「そんなに固くならないでよ~」

なぜこの人が翼竜騎士団の団長になれたのか、それは帝国永遠の謎である。

フレングを駐屯所に連れ帰ったのを見て、他の騎士たちが目を丸くした。

アルバートが「チッ」と大きな舌打ちをして顔をそらす。

奥にいるギルデウスが温度のない目でフレングを見ていた。ゆらっと立ち上がって近づいたかと思うと突然殴りかかった。

「どうしたんだ!?」

びっくりしたウィオルが慌ててフレングを起こす。

「大丈夫ですか?」

「いてて……もう、痛いなぁ」

「……………」

ギルデウスが無言でまだも殴りかがろうとする。ウィオルはその前に立って振り上げられた腕をつかんだ。

「落ち着け!何があった!」

「どけっ!」

「っ!まずは拳をおろしてくれ!」

その剣幕に他の騎士たちは逃げる姿勢を保ちながら手伝おうかどうかを決めかねていた。今襲われているのは他ならぬ翼竜騎士団の団長である。何かあっては飛び火が移る。

「そんなに怒らないでよ。僕がやりたいことの結果はきみも望んでいるんでしょ?」

ぴくっとギルデウスの動きが止まった。まだ怒りが収まらないのか、その目がジロッとウィオルを見た。

「え?ん"むっ!?」

思い切り口を重ねられて唇を噛まれた。口の中に血の味が広がり、鋭いような鈍いような痛みが伝わってくる。

フレングはポケッとした表情で2人を見た。

不思議とウィオルはこの口付けが嫌いじゃなかった。もちろんこれを口付けと呼べるかどうかは議論が必要なのかもしれない。

ギルデウスは散々荒い口付けをすると気がすんだのか、最後にフレングをにらんでから二階へ行ってしまった。

「2人の関係って……」

噛まれすぎてズキズキ痛い口を押さえながらウィオルが振り返る。

「説明…つぅっ!……します」

痛いな。

ウィオルが唇の惨状を少し見たいと思った。ギルデウスにつけてもらった傷跡を目に焼きついておきたい。が、そう考えている自分に対して少し変態じみたものを感じた。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

番なんて要らない

桜 晴樹
BL
初めてのオメガバースです。 設定は、ふわふわな感じで。 Ω柊あおい α紅拓人 主人公あおいはα嫌い。てか、第二の性であるα、β、Ω全てが嫌い。 番なんて運命の相手が1番嫌い。 Ωに生まれて人生恨んでる根暗が主人公です。 ↑根暗の筈だったのに物語が進むに連れておバカな子へと突き進んでいってます。‥どうしてそうなった‥。(5/8時点) そんな感じなので、初めはα拓人との絡みがほぼ無いし、エロくも無いので、オメガバースっぽくないかもしれませんが、それでも読んでくれれば幸いです。 主人公以外の視点の時は※マーク入ります。 高校生編(気になるあいつ編)から絡み少しあります。 あるものに対しては、タイトルの後に⭐︎入れます。 基本行き当たりばったりな、思い付いたままに創ってるので、読み辛いでしょうが、最後まで頑張りますので宜しくお願いします。 番外編も更新しました。番外編は、18禁エロ有りです。 編集中です。 読み辛い所とか足りない所とかを付け加えている作業中です。 編集中の所も読める様にしています。 編集完了は、随時即UPしている為、日時が変更されています。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...