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第三章
おまけで来た
しおりを挟むウィオルたちが駆けつけた頃、ボルは無事だった。ガラックがボルに駆け寄って切られた手首の手当てに当たっていた。
周りを見渡すと、どこにもシュナインの姿が見当たらない。ボルに聞こうにも意識不明だ。
すでに犯人の3人は捕まっている。全員ギルデウスが一発で仕留めた。
どこに行ったんだ。
「誰かシュナインを見なかったか?」
「ここです」
背後から声がしてウィオルがバッと振り向く。顔に血痕をつけたシュナインがいた。
「い、いつからいたんだ」
「ついさっきです」
シュナインが袖口で顔の血をふく。
わずかに火薬のにおいがした。
「ん?火薬にでも触ったのか?」
「そういうわけじゃないけど、爆弾は確かにありました。それを分解していました」
「爆弾?」
それは嫌な響きでしかない。湖のことでも屋敷の地下でも、今のウィオルにとって爆弾はもっとも神経に触れる言葉だった。
「どこでそんなものを?」
ん、とシュナインがほんのり血がついた指を上に向けた。
「あそこ」
「天井に?」
「たぶんだいぶ前に置かれていたはずです。湿ってて、もともと使い物にならないし」
ウィオルは考えるようにうつむいた。まさか偶然にもモレスと関係はないかと考える。
じーとした視線を感じて顔を上げると、無感動な目がスッとウィオルの後ろに向かれる。その視線の高さを見てウィオルがハッとする。
振り返ると今度はギルデウスが真後ろに立っていた。
「ど、どうしたんだ?」
「眠い」
ウィオルはまさかと考える。自分が他の人と話して嫉妬したのでは?と。しかし、ギルデウスがウィオルの背中によじ登ると本当に寝てしまった。どうにも嫉妬しているようには思えない。
はあ、やっぱりそんな都合のいいことはないか。
犯人を縛って駐屯所に帰ると3人を三つ葉のように地面に置いた。
囲んで、騎士たちがそれぞれ手に剣を持っている。
「食人とはいい趣味してやがる!」
そう言うアルバートは怒っていた。
「どうしますか?帝都に差し出しますか?」
「前回は薬関係だからあっちが直々に来たが、今度は俺たちが行かねばならねぇかもしれんな。とりあえず手紙書くか」
「わかりました。私が書いておきます」
「ウィオルありがとー!」
「はい……」
こういった事務的な仕事もウィオルが担当することが多くなった。最終的にチェックするのはアルバートだが、ちゃんとしているのかどうかが疑わしい。
そして数日後、なんとフレングが来ていた。
「え?」
正門まで来て出迎えた人物がフレングだと知ってウィオルが固まる。
「なぜあなたがここへ……」
「食人集団のことで来たよ?ついでにウィオルのことも見に来た!はい、ハグ!」
「ちょっと待ってください」
バクを避けてウィオルが数歩退がる。
「このことも翼竜騎士団と関係があるのですか?」
「というより、僕はおまけ」
「どういうことですか?」
「あっちに帝国騎士たちが来てるよ」
あっち、と指された方向を見ると、濃緑の騎士服を来た一般騎士が数人いた。
ウィオルは軽く頭を下げた。
「この度はわざわざ来てくださってありがとうございます」
「いやいや、むしろこっちがありがとうって言いたい!こいつらのせいで大変な思いしたからな。ちょうど帰りついでにいたぶってやらねぇとな」
リーダーらしき中年の騎士が明るく笑って手に持った鎖を振ってみせた。そしてギロッと縛られた犯人3人を見て、
「ちゃんと責任持って牢にぶち込んでやるよ」
3人は大人しく鎖をかけられて一列に繋がれた。騎士たちはそのまま帰って行ったが、なぜかフレングが居残っている。
「あなたは帰らないんですか?」
「帰るよ。その前に遊ぼうと思って!」
「ご自身の身分を忘れたのですか……」
「そんなに固くならないでよ~」
なぜこの人が翼竜騎士団の団長になれたのか、それは帝国永遠の謎である。
フレングを駐屯所に連れ帰ったのを見て、他の騎士たちが目を丸くした。
アルバートが「チッ」と大きな舌打ちをして顔をそらす。
奥にいるギルデウスが温度のない目でフレングを見ていた。ゆらっと立ち上がって近づいたかと思うと突然殴りかかった。
「どうしたんだ!?」
びっくりしたウィオルが慌ててフレングを起こす。
「大丈夫ですか?」
「いてて……もう、痛いなぁ」
「……………」
ギルデウスが無言でまだも殴りかがろうとする。ウィオルはその前に立って振り上げられた腕をつかんだ。
「落ち着け!何があった!」
「どけっ!」
「っ!まずは拳をおろしてくれ!」
その剣幕に他の騎士たちは逃げる姿勢を保ちながら手伝おうかどうかを決めかねていた。今襲われているのは他ならぬ翼竜騎士団の団長である。何かあっては飛び火が移る。
「そんなに怒らないでよ。僕がやりたいことの結果はきみも望んでいるんでしょ?」
ぴくっとギルデウスの動きが止まった。まだ怒りが収まらないのか、その目がジロッとウィオルを見た。
「え?ん"むっ!?」
思い切り口を重ねられて唇を噛まれた。口の中に血の味が広がり、鋭いような鈍いような痛みが伝わってくる。
フレングはポケッとした表情で2人を見た。
不思議とウィオルはこの口付けが嫌いじゃなかった。もちろんこれを口付けと呼べるかどうかは議論が必要なのかもしれない。
ギルデウスは散々荒い口付けをすると気がすんだのか、最後にフレングをにらんでから二階へ行ってしまった。
「2人の関係って……」
噛まれすぎてズキズキ痛い口を押さえながらウィオルが振り返る。
「説明…つぅっ!……します」
痛いな。
ウィオルが唇の惨状を少し見たいと思った。ギルデウスにつけてもらった傷跡を目に焼きついておきたい。が、そう考えている自分に対して少し変態じみたものを感じた。
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