天満堂へようこそ 4

浅井 ことは

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氷の地

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屋敷に戻ると奏太の側にノアがくっついていた。
心配なのは分かるが、余程奏太のことが気になるのだろう。
初めてついた主人が奏太で、ノアも良かったのかもしれない。

「ノア……」

「姫様……ルーカス様は?」

「城だ。お前は知らんだろうが、奏太を連れて城までの抜け道を行く。半分くらいまでは野生の魔獣も出るが、ルーカスが城から兵を連れてくる。お前と私は奏太と荷台に乗って進むが、それでいいな?」

「やはり天界に連れていかれるのですか?」

「その方が魔力が安定する」

「私もお供します。姫様許可を……」

「分かってる。そう騒ぐな!目は覚ましてないか?」

「まだ……ただ、婆ちゃんと何度か……」

「そうか……」

脈を測り、熱を見るが異常は無い。
このまま長く眠るのか先ほどのように起きるのかは奏太次第になってくる。

「ノア、今のうちにお前は休んでおけ」

「でも……」

「お前が倒れたら困るのは奏太だぞ?」

「わ、分かりました」

ノアを退出させ、奏太に触れ魔力を探る。例えを言えば普段は落ち着いた海としたら、大荒れの海のように荒れていると言った方がわかりやすいだろうか?こんな荒れ方は私でも無い。多分ルーカスにも……どれだけの力を秘めているんだろうか。

布団を掛け、ニコルとルーカスが戻る前に食事だけでもと席を立つと、袖を引っ張られる。

「結月さん……」

「起きたか」

「俺、行かないと……」

「行くって何処へ……」

「時計塔」

「思い出したのか?でも今はまだダメだ!寝てないと……」

「今じゃなきゃダメなんだ!お願い行かせて……」

ここまで言うのだから何か少しでも思い出したのかもしれないと思い、休ませたばかりだったがノアを呼ぶ。

「犬車の用意を。奏太を時計塔まで連れていく」

「今からですか?」

「誰に似たのか言うことを聞くような奴じゃないから仕方ない」

着替えさせて暫くすると、犬車の用意が出来たというので、ノアに奏太を運ばせて中に寝かせる。

「奏太10分ほどで着くが、それまで横になってろ」

「場所わかるの?」

「見てきたばかりだから分かる。ノア、ちゃんと見張ってろよ」

そう言い屋敷を出て時計塔へ行く。
見つけた隠し扉は元通りに直してきた……そこに奏太が気付くかどうか。ただ見たとしてもその一部しか記憶が戻らないこともあれば、すべて思い出してしまうこともある。
奏太はそのどちらなのだろう……

犬車を止め、ノアに奏太を降ろしてもらい中に入る。

「ノア、いいよ。手摺があるから……」

「上に行くのか?」

「うん」

「何故?」

「分かんないけど、懐かしい感じがする……」
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