下宿屋 東風荘

浅井 ことは

文字の大きさ
上 下
67 / 73
子供

.

しおりを挟む
 雪翔が回復するまでそれなりに時間はかかったが、意識が戻ったので、毎日昼に面会に行き、洗濯などを持ち帰って洗ったり、食べ物も食べられるようになったので、ゼリーなど食べやすいものを持っていく日が続いていた。

 そんな中、お金が全く無いことに気付いた親は会社の資金ぐりに困り、いくつか銀行も回るが、預貯金もないので貸してくれるところはなく、新築の家を手放すことにし、二束三文で売り払い、6畳ひと間の安いアパートを借りたと報告が入る。
 会社も傾き、今まで不自由なく暮らしていたのと一変して、毎日の食事にも困るようになっていく様にしたのは勿論頭の切れる藍狐。狐の祟りというものだ。

 順調に回復していく雪翔に対して、子を捨てた罪は重いので、生活を一変させた上で、親に術をかけて雪翔の戸籍を抜き、下宿屋に全てを移す。

「やりすぎでは?」と栞にも言われたが、これでいいと言い張り、退院の日を待つ。

「退院おめでとう!」夕餉時にようやく熱が下がり退院した雪翔の祝いをしているときに、薬屋の店主を母親が来たときに呼ぶことを忘れていたと思い出す。

 何度も世話になっているが、薬屋の店主も人ではない。

 自分たちとはまた違うが、今いる子の人間の世界と繋がっているところにある幻界という所の姫と、いつも付き従っているユーリは姫の従者だ。
 怒らせてら怖いのはわかっているのだが、母親がいきなり来たのだから呼んでいる時間もなかったので、今度また書物でも貸し出せばいいかと、久しぶりの酒に舌鼓をうつ。

「やはり家での食事が一番おいしいですねぇ……」

「沢山食べてください。玉子料理は賢司さんがしてくれて助かりました」

 目の前のチーズオムレツを食べ程よい味加減に旨いと太鼓判をおす。

 栞の作ってくれたものは、厚揚げと鶏肉のすき焼き風煮込み。牛スジのポン酢和え。ポテトサラダにブリの塩焼き。他にも菜の花の和え物や茶わん蒸しなどたくさん並べられている。

「これだけ作るのは大変だったでしょう?」

「ほとんど本を見て作ったのでお恥ずかしい限りですけど」

「今までは食事はどうされていたんですか?」

「本当に簡単なものばかりで、よく豆腐など食べていました。それに、あまり買い物などは行かなかったので、山菜や木の実などが多かったです……」

「そこまで気にする必要はないと思うのですけどねぇ」

「私、あの社が初めてなんです。最初の頃は出ていたんですけど、町もかなり変わったので余計に出なくなってしまって」

「今は平気ですか?」

「はい。なので一人で病院までも行けました」

 話しながら飲み、たまには飲んでもいいのではないかと栞にも日本酒を勧める。
 雪翔はみんなから何の病気だったのか聞かれ困っていたが、同じ年ごろの子供が帰って来たことに一番喜んでいるのは海都かもしれない。

「楽しそうですねぇ」

「夕飯時になるとたまに海都君と二人の時もあってちょっと寂しい日もあったので。みんなが揃うとやはりいいですね」

「私もそう思います。毎日お弁当もありがとうございました」

 とんでもないと手を振るが、助かったのは本当なのだから、何かお礼をと栞に言う。

「皆さん食べたら片付けてくださいよ?大きなものは浸けておいてください」

「え?今何時?」

「もうすぐ20時になりますけど……」

「やべっ!俺、母ちゃんに電話しないと!」

「何かあったんですか?」

「この間数学のテストがあって、それが80点以上だったらバイトしていいって言ってくれたから」

「で?」

「堀内さんに教えてもらったから、ばっちし!87点だったよ」

「嘘だろ?いつも赤点なのに?」

「ふふふ!これテスト」そう言いズボンからテスト用紙を出して隆弘に見せつけているのを覗き込むと、今まで見たことのない点数が表れていて、87とちゃんと書いてある。

「真面目に頑張ってたし、やらないだけなんですよ。海都は。教えたらすぐに飲み込みましたし、漫画読む時間勉強すればもっと成績も上げると思いますよ?」

「これで賢司さんのところの居酒屋でバイトできる!」

「お母様にも言われると思いますけど、学業優先ですからね?」

 相当嬉しかったのだろう、喜んで電話を掛けに行き、笑顔で戻ってくる。

「良いって!賢司さん店長に話しておいてよ」

「おう!これで俺も少しは楽出来るかな」

「そんなにお店忙しいんですか?」

「店長復帰した途端、また混み出して最近満員御礼状態だよ」

「一度行ってみたいですねぇ」

「私も行ったことがないので興味あります」

「なら、みんなで行きましょうか。次にみんなが揃った時ですけど」

「俺がバイトしてる時に来てよね?」

「ダメだしいっぱいしてもらえ!」

「それはやだ!」

 みんながワイワイとやっているので、いらないお皿とお膳を下げて食器を洗ってから、新しいお酒を持って戻り、ほかの子もみんな洗いに行ってから、飲むものだけが残り、テレビを見ながら酒を飲む。

「22時には皆さん寝てくださいよ?特に高校生は」

「はーい」

 最近 居なかったせいか、みんながなかなか戻らず、お開きは23時を回っていた。

「楽しかったですが、疲れましたねぇ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

後宮の記録女官は真実を記す

悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】 中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。 「──嫌、でございます」  男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。  彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

処理中です...