下宿屋 東風荘

浅井 ことは

文字の大きさ
上 下
59 / 73
四社

.

しおりを挟む
 人数が少ないこともあり、簡単にハンバーグにしようと玉ねぎをみじん切りにし、ふやかしたパン粉と混ぜてひき肉を入れ塩コショウをして軽く混ぜる。

 手の暖かさで肉に火が通るので水で手を冷たくして混ぜてから形を整えフライパンで蒸し焼きにする。

 いつもと違いスパゲティサラダとハンバーグ。コンソメスープを夕食に作り、隆弘の分だけラップして置いておく。

「手抜きですよねぇ」

「そうですか?」

「あ、大根おろししておいて下さい」

「はい」

 そのあとハウスへと行き、大葉を人数分詰んでから、洗ってハンバーグの上において、その上に大根おろしを乗せる。

 後は和風ドレッシングをかけたら、おろしハンバーグの出来上がりだ。

 たまには飲まない日も作っているので、今日は摘みはいいだろう。

 まだ時間があったので栞と銭湯へと行き、中待合でフルーツ牛乳を飲んで待つ。
 たまに飲むと美味しいと思うのだが、これを一気飲みする彼らのお腹はどうなっているのだろうとつくづく思う。

 夕食を済ませそれぞれが部屋に行ったのを見てから、水狐に代わりを頼み、姿を消して栞と冬の神社へと行く。

「ん?何か用か?」

「寛いでますねぇ。そこらじゅう臭いですよ?」

「ここは何なんだ?次から次へと悪いモノも悪狐もウジャウジャ出て来るけど」

「私の所とここは頭と尾なので狙われやすいんですよ」

「あー、そうだったな」

「新しい宮司が来たようですね?」

「取り敢えず通いだが。いないよりはマシだろ?」

「そうですけど。あまり散らかさないでくださいよ?」

「気をつけてはいるんだが」

「それと、これ……」

 虹色に輝く珠を手のひらに乗せて玲の目の前に出す。

 ふわっと浮いたと思ったら、すぅーっと体の中に入って行ってしまった。

「冬弥様、あれは……」

「ええ、私が預かっていました。もし玲が本当にここに選ばれてなかったら、珠も体には入りません」

「疑ってたのか?」

「いえ。ただ簡単に返せるものではないと思ってはいました。まだ早いとも。ですが、ちゃんと社を守っているあなたを見ていたら、爺さんやその先代の魂のこもった珠は早めに渡さないとと思いましてねぇ」

「中で俺のと混ざり合う感じがする……」

「ならばあなたはちゃんと選ばれた狐ということになります」

 改めておめでとうと言い、本題に入る。

「実は、そろそろ祭りの飾り付けが行われます。そうするとどうしても私は社から離れずらくなり、行動が制限されてしまいます」

「千年か?」

「ええ。700を過ぎたあたりから感じ始めますよ?」

「で?なにか手伝えと?」

「まぁ。栞さんの社に交代で影は送ってますが、結界と影だけでは不安なのでたまに様子を見に行ってほしいんですよ。暇でしょう?夜以外」

「夜でもこの程度なら影に任せれるがな?」

「なら、見回りお願いできます?」

「良いけどさ、ほかの土地でも千年祭やるところもあるだろ?なんでこの土地ばっか狙われるんだ?」

「それなんですが、今回の千年祭はここだけなんですよねぇ……たまに繰り上げで一年早くする神社も増えてきてますけど。なのでいろんなものが活性化していて困ってます」

「困った顔してないけどな?」

「してますよ?ほら……」

「あー、もういい。男のそんな顔は見ても面白くない」

「そうですか?ちょっと、おねだり風にしてみたのですが」

「いや、だから男の顔見てもなぁ」

「まぁ、いいです。那智と秋彪はちゃんと動いてくれると思うので心配はしてないんですが、まだあなたの能力がわからないので今日来たんですけどねぇ」

「俺はもっぱら攻撃の方だな。特化してるといえば空中戦は得意だが」

「珍しいですね」

「昔からよく飛んでたからかもな」

「では、私が飛ぶ際は補助をお願いします。前はなんとかなりますが、後ろまで気が回らないので」

「了解した。それより、結局あの女狐はどうなったんだ?秋の話しじゃいまいちわからなくて、会ったら聞こうと思ってたんだ」

 知りえたことを簡潔に話して、しばらく警備もつくので安全だと思うといい、一旦社を後にする。

「これで終わりですか?」

「珠を渡したかったので。それに、彼は約束は たがえない男でしょう」

「そんな感じはしますね」

「栞さん。あなたも祭りの時は後方に下がっててくださいね?」

「はい。できる限りの事はします」

 翌朝、朝の卵焼きを多く作りすぎ、味噌汁に焼き魚までいつもと同じように作ってしまい、しまったと手をおでこに当てる。

 海都が居ないことに慣れていないので、ついいつも通りに作ってしまい、申し訳ないが……とお昼の食事に食べてもらうことにした。

「大丈夫ですか?」

「ええ。つい居ないと忘れてしまって。それに今日辺りから飾り付けが始まりそうですね……少し感覚がおかしくなってきているので間違いはないと思いますが」

「そんなに影響が?」

「かなりきます。境内の方が騒がしくなってる音とか、響きますね」

「あとは私がしますから、横になってください」

「そうも行きません。まだ布団も干さないといけませんし、買い物も……」

 クラッと立ちくらみがするのを影から狐が出てきて支え、自宅の布団まで運ばれる。

「今日は任せてください。商店街へのお買い物なら私でもできますし、冷蔵庫の中の残り物で夕飯の支度をしてもいいですし」

「ですが、栞さんはお客人です」

「分かってます。名ばかりの見合い相手ということも。ですが、まずは冬弥様が落ち着いて無ければ、飛べる鳥居も飛べなくなってしまいます」

「栞さん……」

「取り敢えず寝ていてください。えっと、朱狐さんをお借りします。中のことを教えてもらいたいので」

「朱狐でいいんですか?」

「はい。とても頑張る子ですよね?一緒にすればきっと出来ると思います。あわてんぼうなだけだと思うので」

「朱狐……」

「はい」

「栞さんのことをお願いします」

「任せてください。それと桜狐が冬弥様と同じような影響を受けております」

「妖力が落ち着けば問題ないと思いますよ?」

「昼餉は持ってきますので、休んでてくださいね?誰か見張っててくださると嬉しいんですけど」

 影からいくつも手が伸びたので、こら!と怒りはするが、みんなが手を挙げてしまったなら文句を言っても聞いてはくれないだろう。

「分かりました。大人しくしてます……」

「じゃあ、朱狐さん片付けと布団干しいきましょうか」

 二人して出ていき、すぐに皿でも割る音がするのだろうと思っていたが、静かなもので、聞こえてくるのは社からの綱を引く掛け声。

 目を瞑り、天気もいいので外で神輿の修理と掃除でもするのだろうと、耳をそばだてて聞いているうちにどうやらぐっすりと眠ってしまっていたようだ。

 枕元に、卵焼きとおにぎりが置いてあり、メモに『起きたら食べてください』と書いてある。

 上に肩掛けをかけておにぎりを食べ、お茶を入れようと立った瞬間足がもつれる。

「危ないではないか!」

「漆……」

「寝ておれ」

「アタシがするよ。漆が入れたら苦くて飲めたもんじゃない」

「琥珀も……社の方は?」

「水狐達に変わってもらった。儂等も少し影響が強くて頭に響く。来てみたら冬弥までも寝込んでいるとはだらしない」

 お茶を受け取り、だらしないとは酷い言い草だと文句を言う。

「冬弥。また鳥居は大きくなっている。時たまあの子供が階段を作っては伸ばしたり縮めたりしておるが」

「何の辺まで伸びてます?」

「あれは人間の力じゃぁないよ。漆でさえ尾が逆だってたからねぇ」

「お前、黙っておるからと儂の饅頭余分に食ったくせにばらすな!」

「そこまでにしておいて下さい。意味がわからないのですが」
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

彩鬼万華鏡奇譚 天の足夜のきせきがたり

響 蒼華
キャラ文芸
元は令嬢だったあやめは、現在、女中としてある作家の家で働いていた。 紡ぐ文章は美しく、されど生活能力皆無な締め切り破りの問題児である玄鳥。 手のかかる雇い主の元の面倒見ながら忙しく過ごす日々、ある時あやめは一つの万華鏡を見つける。 持ち主を失ってから色を無くした、何も映さない万華鏡。 その日から、月の美しい夜に玄鳥は物語をあやめに聞かせるようになる。 彩の名を持つ鬼と人との不思議な恋物語、それが語られる度に万華鏡は色を取り戻していき……。 過去と現在とが触れあい絡めとりながら、全ては一つへと収束していく――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。 イラスト:Suico 様

想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
 深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。  そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。 「貴方の匣、開けてみませんか?」  匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。 「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」 ※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

甘灯の思いつき短編集

甘灯
キャラ文芸
 作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)                              ※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

貸本屋七本三八の譚めぐり ~実井寧々子の墓標~

茶柱まちこ
キャラ文芸
時は大昌十年、東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)屈指の商人の町・『棚葉町』。 人の想い、思想、経験、空想を核とした書物・『譚本』だけを扱い続ける異端の貸本屋・七本屋を中心に巻き起こる譚たちの記録――第二弾。 七本屋で働く19歳の青年・菜摘芽唯助(なつめいすけ)は作家でもある店主・七本三八(ななもとみや)の弟子として、日々成長していた。 国をも巻き込んだ大騒動も落ち着き、平穏に過ごしていたある日、 七本屋の看板娘である音音(おとね)の前に菅谷という謎の男が現れたことから、六年もの間封じられていた彼女の譚は動き出す――!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

傍へで果報はまどろんで ―真白の忌み仔とやさしい夜の住人たち―

色数
キャラ文芸
「ああそうだ、――死んでしまえばいい」と、思ったのだ。 時は江戸。 開国の音高く世が騒乱に巻き込まれる少し前。 その異様な仔どもは生まれてしまった。 老人のような白髪に空を溶かしこんだ蒼の瞳。 バケモノと謗られ傷つけられて。 果ては誰にも顧みられず、幽閉されて独り育った。 願った幸福へ辿りつきかたを、仔どもは己の死以外に知らなかった。 ――だのに。 腹を裂いた仔どもの現実をひるがえして、くるりと現れたそこは【江戸裏】 正真正銘のバケモノたちの住まう夜の町。 魂となってさまよう仔どもはそこで風鈴細工を生業とする盲目のサトリに拾われる。 風鈴の音響く常夜の町で、死にたがりの仔どもが出逢ったこれは得がたい救いのはなし。

処理中です...