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石長比売の決断

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「大国様、話して頂かないと、ここで預かるにしても何をして良いのか……」

「源三郎……。いや、そうだな……」

大国さんは手に持っていたポテチを口に入れて、麦茶を飲んだあとに、今までの療養の話をしてくれた。

流石に色んな神が居る事と、八意さんが見張っていたのもあって、しばらくの間は大人しく寝ていたらしい。

でも、やはり食事を少量から摂る様になって、庭だけでもと歩かせていたのだが、先週兄の神気を持って大国さんが行った途端泣き崩れたという。

「なんで泣くの?」

「翔平、お前は女心がわからんのか?」

「へっ!?」

「嬉しかったのもあるだろう。さんざん醜女と言われ人間もそのように認識しているし、あんなに捻くれていた石長をここまでおおらかにさせたのは、佐野家の力だ。それに、神が人間の男に恋をする等あってはならぬし、結ばれることも無い。
その苦しみと、石長の恋心との葛藤と言うやつもある」

それに……と大国さんはみんなを見回し、「石長からしたら、こんなに優しくされたのは神として生まれてから初めてのことだからな」と言う。

そう言われれば、ずっと話や本だけでの知識で、会って話しをするまでは、石長さんは意地悪な神様だと思い込んでいた所がなかったとはいえない。

「あいつは、純平から自分の神気が抜けると、純平が弱ってしまうのではないかと恐れている。数日とはいえ、魂が離れていたこともあって、見た目と違ってまだ回復してないのではないかと。
なのに、少しずつではあるが、神気を純平から抜くことを嫌がっているんだ。
で、石長が出した答えは、純平。お前の元を去るという選択肢ただ一つ」

「え?」

「あ、兄貴止めなきゃ。俺達、石長さんにはとっても世話になったんだ。爺ちゃんが倒れた時も心配してくれて……」

「そうだな……。でも、それは石長さんの口からちゃんと聞かないと、俺には何も言えない」

「兄貴!」

「大国さん、石長さんが俺から離れたとして、何かが変わるのか?」

「そうだな……自身の社に篭れば、今まで溜まっていた気で回復も早くなるとは思うんだが、お前の元を去る事まではしなくていいと思うんだ。
だが、これはあいつなりのケジメなのかもしれんな」

「ケジメ?」

「あいつは、お前達家族に優しくされて変わった。
それはとてもいい事だと思うし、神としての格も上がるってもんなんだが、お前に恋をしているその心を閉ざしたいのかもな」

「なんで?」

「翔平、お前さっきから単語ばっかで意味わかってんのか?」

「恋心とかは全然?迦具土はわかるのかよ」

「分かるわけねーだろ?」

兄の方を見ると、腕を組んで難しい顔をしているが、それとは別に、祖父母は呑気に買い物でも行こうかなどと話をしている。

「石長さんを寝かせたのは迦具土だろ?どのくらいで起きる?」

「後、三時間くらいは起きてこねーと思うけど」

「大国さん、買い物行きましょ。買い物!きっと爺ちゃんがおやつかってくれますから」

「私か?」

「いいから!兄貴は石長さん見ててよね」

こっそりと、迦具土に石長さんの目が覚めるようにとお願いしてから、祖父母と共にみんなを外に連れ出すことには成功した。

おやつを買うという約束付きだが……
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