下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

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全ての始まりと終わり

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「揚げ物は位置が高いから私がするわ。じゃあ、天つゆ作ってくれる?大根おろしも欲しいかな」

「分かった!」

大根の皮を剥いておろすが、前まで力が入らずにしゃぶしゃぶの大根おろししかできなかったが、毎日釣りをしたり出掛けたりし、手摺で腕の力もだいぶ入るようになったので、ちょっと疲れたがしっかりとした物ができた。それを器に盛りつけながら、膝に載せて土間の机に置く。

板の間からは那智の怒鳴り声と、それを窘める冬弥の声が聞こえてきて、帰ってきたんだなと実感する。

「栞さん、今のうちに宮司さんの家に行ってもいい?お土産おきに行きたいけど、お饅頭でいいかな?」

「ええ、よろしく伝えてね」

部屋にお土産を取りに行ってから土間の裏口から出て宮司さんの家のインターホンを鳴らす。

栞の実家に遊びに行かせてもらったとお土産を渡し、元来た道を戻る。

「雪翔君、あっちは片付きそうにないから今日はここで食べましょうか」

「うん、じゃあ降りないと……」

流石に土間の机は高いので、木の椅子に座る時には車椅子から降りて座り直すことにしている。

机に掴まって座ろうとした時に、脇を持ち上げられてヒョイっと椅子に座らされる。

「冬弥さん……これくらい出来るよ?」

「いえ、つい。まだまだ軽いですねぇ。もう少し体力をつけた方がいいかもしれません」

体力よりも持ち上げられて座らされたのが赤ちゃんぽくてとても恥ずかしいとも言えずに、つい下を向いてしまう。

「最後の書類だけ書いてくれ。あとは俺が手続きに持っていくから」

「はいはい」

撫で撫で撫で撫で……

夕食は衣がサクサクで美味しく、珍しく那智にも大根おろしがしっかり出来ていると褒められた。

「今更ですけど、雪翔の事有難う御座いました。まさか那智が子育てを……」

「今回は約束だったしな……まぁ、楽しかったが……」

「栞さんも大変だったでしょう?」

「私はそんな事は。でも、みんなが手伝ってくれたので。 今回はみんなが当番制で掃除とか手伝ってくれたし、那智様が特に色々と動いてくださったので助かりました」

まぁ飲めとばかりに、来たばかりの日本酒を瓶のまま御猪口ではなく湯のみに入れている。

「おい、湯のみはないだろう?」

「細かいことはそのくらいで。私の部屋の酒……全部飲んだでしょう?」

「俺だけじゃないがな」

「だとしてもです。中々手に入らないお酒もあったのに……」

「そう言うな……」

「さて、今後なんですけどねぇ。診察は明後日。それはついて行きます。リハビリはバスで行きます?」

「うん」

「これから夏休みがが終わるまであと少ししかありません。完全に思い出す手助けはできます。どうしますか?」

「完全に?」

「そう、雪翔が思い出したのは、こんな事があったと言う事実まで。本当に思い出すと言うのは、その時の痛みや苦しみ、怒りなども含めてのことを言います」

「それは……前にも頼んだけど、学校の中に入って、その場所が見てみたいんだ……」

「那智、手続きお願いしますね?」

「はいはい。明日にでも行けるようにできるけどどうする?」

「……行く」
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