下宿屋 東風荘 2

浅井 ことは

文字の大きさ
上 下
30 / 102
記憶

.

しおりを挟む
「や……辞めましょう。確かにその方が雪翔君には良いのかも。でも、いつか思い出す気がするの」

「そうだな……」

「辛い日々じゃぞ?修行よりもな」

「構うもんか。俺も雪翔には世話になった分恩返ししないと!」

「俺も……だな」

「わかった。あぁ、ちなみに婆さんは仙狐じゃよ?」

「ええ?」みんなが驚く中、ほっほっほと陽気に笑い病室に戻っていく姿はただの老人。だが、元天狐と知って口を開くものは誰もいなかった。

そんな中、「俺さ……天狐様にじいさん呼ばわりしてたんだよな?」

「そうなるわね……私も何度かお茶を入れていただいたわ……」

「ま、まぁ。気にしなくていいんじゃないか?と言っても頭がついて行かんが……」

「一度病室に行ってきますね。泊まるところを母屋にしようと思って……」

「俺は学校の方へ行かないと……」

「俺、兄貴の社とか見回ってくる!」


「しーちゃん、やめ、て!」

「ダメです!紫狐が怒られます。寝てくださいー!」

「何してるの?」

「栞様。ゆっきーが、本を読むって聞かないんですっ!」

「今は……無理よ?テレビはどう?」

「う、ん……」

「テレビとな!婆さん、確か沢山ボタンがついたやつを押すんじゃったか?」

「ええ、書物にそう書いてありましたねぇ」

「雪翔君、お爺さん達に教えてあげたらどうかしら」

「うん」

「はい、リモコン」

辿々しいながらも、電源の入れ方や選局の仕方を教えている。
落ち着いている時は良いが、何がいけないのかはメモしておこうとノートに『友達』と書く。
これをみんなで見せ合えば、会いに来る時もみんな大丈夫だろう……

「あの、夜何ですけど、母屋の方にお布団を用意しました。食事も用意してありますので……」

「いいのかね?」

「あらありがとう。でも栞さんも無理しないで?そうだ、雪翔君の好きなものお婆ちゃん作ってあげるわ。何が好き?」

「え?すきな、もの?」

「そう、私お料理が好きなの」

「に、にく、じゃが……」

「わかったわ。明日、楽しみにしててね?そうね、後は紫狐ちゃん、私の狐も一緒に遊んであげてくれるかしら? はなちゃん、出ておいで」

可愛い小狐が出てきて、ペコッとお辞儀をする。

「し、紫狐です。宜しくお願いします」

「花です……よろしく」と、すぐにお婆さんの後ろに隠れてしまう。

どんな能力の子なのかなと見ていたら、幻影だが、たくさんのお花がヒラヒラと降ってきたり、新緑の香りがしたり、癒しの中でも特殊に当たる能力があるようだ。

「凄いです!紫狐はまだ何にもできません……」

「何を言うておるか。雪翔の良き……ほらあれだ。」

「いつも一緒です!」

「それじゃ!なかなかできん事だぞ?紫狐は偉い!」

「花もー」

「はい、花も偉いな!」

「花ちゃんは癒しの?」

「ええ、凛さんがいるからいいかなと思ったんだけれど、1人じゃ疲れるかと思ってねぇ。仲良くしてね?」

すると、凛もペコッとお辞儀をし、3匹でベッドの周りで遊び始めてしまった。

テレビを見ていると夕方のニュースで最新のニュースとテロップが流れた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

おいしい心残り〜癒し、幸せ、ときどき涙〜

山いい奈
キャラ文芸
謙太と知朗は味噌ラーメン屋を経営する友人同士。 ある日ふたりは火災事故に巻き込まれ、生命を落とす。 気付いたら、生と死の間の世界に連れ込まれていた。 そこで、とどまっている魂にドリンクを作ってあげて欲しいと頼まれる。 ふたりは「モスコミュールが飲みたい」というお婆ちゃんにご希望のものを作ってあげ、飲んでもらうと、満足したお婆ちゃんはその場から消えた。 その空間のご意見番の様なお爺ちゃんいわく、お婆ちゃんはこれで転生の流れに向かったというのだ。 こうして満足してもらうことで、魂を救うことができるのだ。 謙太と知朗は空間の謎を解こうとしながら、人々の心残りを叶えるため、ご飯やスイーツを作って行く。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

甘灯の思いつき短編集

甘灯
キャラ文芸
 作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)                              ※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
 深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。  そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。 「貴方の匣、開けてみませんか?」  匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。 「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」 ※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

鬼の御宿の嫁入り狐

梅野小吹
キャラ文芸
【書籍化します!】【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】  鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。  彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。  優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。 「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」  劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。  そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?  育ててくれた鬼の家族。  自分と同じ妖狐の一族。  腹部に残る火傷痕。  人々が語る『狐の嫁入り』──。  空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。

処理中です...