天満堂へようこそ 6

浅井 ことは

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即位

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焼け野原となった幻界の城。

泣き崩れていた結月も、さすがは姫。
涙を拭き、城へと1歩ずつ足を進める。

逃げてきた人々は怪我をしている者もいる。

「姫……」

「姫様……」

沢山の人が結月を呼ぶが、前だけを見て城へと向かっていく。

ルーカスの兵たちが、中の人を助けながら消火もし、怪我のないものも魔法の使えるものは魔法で水をかけ何とか火が収まっている状態だった。

城の門から結月が駆け出したので、それを追いかけていき、王の間へと入る。

「母!母上!!!」

「ジョナス!」

「はい!」

「聞こえるか?結月だ!母よ……」

「ゆ……づき?無事なのね?」

「喋るな!すぐに治す……ユーリ結界を!」

「結月、よく……お聞きなさい。私はもう……あなたが、この界を……」

「何を馬鹿な!おい、おい!聞こえるか?おい!!!」

女王の手は既に下にさがり、目を閉じてまるで眠っているようにさえ見える。

「結月……もう」とルーカスが首を横に振る。

「姫、ここももう危ないです。女王をつれて姫の城の方へ」

「わかってる!臣はどうした?どこだ!!!」

「姫様……申し訳ありません」

ボロボロになった臣下の老人がいまにも倒れそうなほど疲弊しながらやって来る。それをノアが受け止め、事情を聴く。

「王の命令で私たちは他の者を逃がしておりました。必ず天界へと逃げると約束されたのですが、ゲートが開かなかったのです。それで王も他の者を逃がすことに集中されている間に火の手が回り……」

「母は水の魔法が使えたはずだ。転移もできた……」

「それも何かの魔法で防がれていたようです。私共も魔法が一切使えずこのようなことに……」

「いい、分かった。責めて済まない。私の城へ母を連れていってくれないか?ここを出れば魔法は使えるはずだ……」

「畏まりまして」

「ジョナス、お前もついていってくれ。あちらの城の事はわかっているだろう?警備を厳重にしておけ」

「御意。して、姫様は?」

「ここの民を放ってはおけないだろう……薬の貯蔵があったはずだ。ユーリ、外で重症と軽傷と分けてこい」

「俺も行くよ。そのぐらいなら出来る」

「ノア奏太の側から離れるなよ?ルーカス兵を半分貸してくれ。怪我人を運ぶのに……」

「よし、俺が指揮を取ろう。代わりにユーリが薬の方を手伝え」

「わかりました」

「奏太行くぞ」

「うん」

ルーカスについて外に出ると、来たときにはわからなかったが、かなりの怪我人がいる。

近づいてきた兵にルーカスが指示し、城の中に残っているシーツなど使えるものを下に敷き、動かせる人は動かし、軽傷の人も動ける人はみんなで手伝って救助する。

「瓦礫の下になった人は……」

「もう……」

「冷たいようだが生きたもの優先だ。すべて運んでから出してやるしかない。俺の兵にやらせればいい……慣れてる」

「慣れてるって?」

「魔界は争いが絶えない。そう言うことだ」
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