下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

文字の大きさ
上 下
33 / 99
七泊八日

.

しおりを挟む
「その辺も調べさせておる。しばらく紫狐を出しておきなさい。儂等の狐は出れなくなる前に戻ってきておる」

「分かったけど、その天狐の人は伝説って信じてるのかな?」

「確かめに来ておるのじゃ。それと昼のことはまた別と思うがの」

その後報告があり、今日はここで休めと言われて祖父母の間で寝る。

しーちゃんも、金銀も誰かの布団に潜り込んで寝ているが、窮屈ではなくちょっと心地よかった。


パタパタと足音が聞こえ、幸さんに起こされてから顔を洗って朝食の席に行く。

「起こしてくれたら良かったのに」

「よく寝ておったからの。それよりほれ沢山食べなさい。今日は沢山玉子も産んだそうじゃ」

「いただきます」

玉子焼きに白身魚の塩焼き、味噌汁に漬物。それだけでも十分なのだが、和物や豆腐などが付いてくるとどうしてもおかずでお腹がいっぱいになってしまう。

「あ、お婆ちゃんの櫛」

「似合う?」

「うん。似合ってるよ」

「良いですね。私も簪にしてもらいたいくらいです」

「次は幸さんに作るよ!」

喜んでもらうとやはり嬉しくて、棟梁に習っていて良かったと思う。

「京弥さん帰ってこなかったの?」

「ええ。たまにあるから気にしてないんですけど、帰らないといつまでも帰ってこないので……」

「今だけじゃろう。年が明けたらまた仕事も落ち着くじゃろうし、気にするとほれ、腹の子に障るから気にせんでもええ」

「はい」

「冬弥はどちらかと言うとのんびりしているけど、京弥は真面目1本ですからねぇ……たまには息抜きもと思いますよ?私も」

「じゃがなぁ、あやつも役人じゃからこればかりはのう……」

「ねえ、役人てなんのお役人なの?」

「人間の世界で言うと、警察の偉いさんじゃ。総括ではないが、この東全体をまとめる……そう、署長とかいうやつにあたるかの」

「え?それ凄いんだけど」

「じゃから、どうしても京弥でなければ駄目な事もあるんじゃよ。儂の後釜じゃが、最年少であの地位についたものは京弥が初めてじゃ」

「すごい人旦那さんに持ったんだ。生まれてくる子も役人かな?」

「分からんぞ?社の狐になるかもしれんし、障子屋になるかもしれんしのぅ」

「家とか継ぐんじゃないの?」

「この家ではそれほど拘ってはおらんよ。冬弥が良い例じゃ。それに、儂も元は役人から社に移り天狐になったからのぅ」

「京弥さんは?」

「あ奴は特別上級校、大学に当たるが……そこでかなりすっ飛ばして位を上げておる。知恵も技もそのへんのものには負けまい」

「へぇ。頭も良くてかっこよくて強いってモテそう」

「そう、それがねぇ。京弥の一目惚れなのよ?幸さんは」

「どこで知り合ったの?本屋とか学校とか?」

「いえ、団子屋で」

「団子屋?」

「私が母の使いで買いに行った時に並んでたんです。新しく出来た団子屋で買ってきてと言われて。その時に私お財布を摺られてしまって……捕まえてくれたのが京弥さんでした」

「おおー」とつい拍手してしまう。

「でも、お礼をと言ったら……」

「言ったら?」

と紫狐まで出てきて正座して聞いている。

「結婚してくださいって……私もうびっくりして」

「一目惚れですね!」

「しーちゃん……」

「ごめんなさい。紫狐はこのような話がとても好きです。ドキドキワクワクするのです」

「ミーハーだったとは……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

フェンリルに育てられた転生幼女は『創作魔法』で異世界を満喫したい!

荒井竜馬
ファンタジー
旧題:フェンリルに育てられた転生幼女。その幼女はフェンリル譲りの魔力と力を片手に、『創作魔法』で料理をして異世界を満喫する。  赤ちゃんの頃にフェンリルに拾われたアン。ある日、彼女は冒険者のエルドと出会って自分が人間であることを知る。  アンは自分のことを本気でフェンリルだと思い込んでいたらしく、自分がフェンリルではなかったことに強い衝撃を受けて前世の記憶を思い出した。そして、自分が異世界からの転生者であることに気づく。  その記憶を思い出したと同時に、昔はなかったはずの転生特典のようなスキルを手に入れたアンは人間として生きていくために、エルドと共に人里に降りることを決める。  そして、そこには育ての父であるフェンリルのシキも同伴することになり、アンは育ての父であるフェンリルのシキと従魔契約をすることになる。  街に下りたアンは、そこで異世界の食事がシンプル過ぎることに着眼して、『創作魔法』を使って故郷の調味料を使った料理を作ることに。  しかし、その調味料は魔法を使って作ったこともあり、アンの作った調味料を使った料理は特別な効果をもたらす料理になってしまう。  魔法の調味料を使った料理で一儲け、温かい特別な料理で人助け。  フェンリルに育てられた転生幼女が、気ままに異世界を満喫するそんなお話。  ※ツギクルなどにも掲載しております。

【2章完結】あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~

椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。 あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。 特異な力を持った人間の娘を必要としていた。 彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。 『これは、あやかしの嫁取り戦』 身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ―― ※二章までで、いったん完結します。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

転職先には人間がいませんでした

沢渡奈々子
キャラ文芸
成宮智恵は、幼い頃から『人ならざるもの』が見えた。 先祖は遠い昔、関東K県の足濱山で悪行の限りを尽くした悪鬼・足濱童子を封印した伝説の神職・成宮智嗣で、今も実家の神社では智嗣を奉ると同時に、封印を維持し続けている。 ある夜、会社の倒産で職を失った智恵は、お別れ会の帰りに車に轢かれそうになったところを、日本人離れした風貌の青年・湊に助けられる。 彼は命を救ってくれただけでなく、無職になった智恵に仕事まで紹介してくれた。 もらった名刺の場所に行ってみれば、そこは妖怪・幻獣・幽霊・稀人の生活をサポートする『異類生活支援案内所』という組織だった。 所長の珠緒は絶世の美女だが、その正体は九尾の狐、そして湊は人狼と人間のハーフ、つまり半妖だった。 珠緒が言うには、智恵は世にも珍しい『異類との親和性が異様に高い人間』=『異情共親者』らしい。 貴重な人材を手放したくない珠緒から、是非働いてほしいと請われ、あれよあれよという間に就職が決まる。 日本三大怪談に登場する幽霊三人娘に日々振り回されたり。 平安時代からタイムスリップしてきた在原業平の元カノと仲良くなったり。 走欲を持て余すグリフォンのハーフ男子の悩みを解決したり。 智恵はその能力と人柄で、瞬く間に異類たちの信頼を勝ち取っていく。 しかし実は智恵の能力は、彼女の出自が大きく関わっているようで――    *** 昨年のキャラクター小説大賞(角川)の一次選考通過作品を修正加筆しました。 子どもが亡くなる描写があります。ご注意ください。 「小説家になろう」の方にも投稿しています。

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです 第一部 中学一年生編

釈 余白(しやく)
キャラ文芸
 現代日本と不釣り合いなとある山奥には、神社を中心とする妖討伐の一族が暮らす村があった。その一族を率いる櫛田八早月(くしだ やよい)は、わずか八歳で跡目を継いだ神職の巫(かんなぎ)である。その八早月はこの春いよいよ中学生となり少し離れた町の中学校へ通うことになった。  妖退治と変わった風習に囲まれ育った八早月は、初めて体験する普通の生活を想像し胸を高鳴らせていた。きっと今まで見たこともないものや未体験なこと、知らないことにも沢山触れるに違いないと。  この物語は、ちょっと変わった幼少期を経て中学生になった少女の、非日常的な日常を中心とした体験を綴ったものです。一体どんな日々が待ち受けているのでしょう。 ※外伝 ・限界集落で暮らす専業主婦のお仕事は『今も』あやかし退治なのです  https://www.alphapolis.co.jp/novel/398438394/874873298 ※当作品は完全なフィクションです。  登場する人物、地名、、法人名、行事名、その他すべての固有名詞は創作物ですので、もし同名な人や物が有り迷惑である場合はご連絡ください。  事前に実在のものと被らないか調べてはおりますが完全とは言い切れません。  当然各地の伝統文化や催事などを貶める意図もございませんが、万一似通ったものがあり問題だとお感じになられた場合はご容赦ください。

処理中です...