32 / 99
七泊八日
.
しおりを挟む
部屋へは周太郎がついてきて、八百屋や魚屋などの街は特に変わったことがなく、明日から新しい人が配達に来てくれると言う。
「坊ちゃん、足の方は?」
「擦り傷だけ。お風呂で洗ったし、もう血も出てないから平気だよ」
「いけません」
ちょっと待っててと言われ、戻ってくると少し大きめの箱を抱えていて、その中に消毒の薬などが入っており軟膏を塗られる。
「色は悪いですけど傷薬です。よく効くので今夜はこの包帯は取らないでください」
「分かった。ありがとう」
お礼を言ってろうそくを消してもらい、布団に入るとすぐに寝てしまった。
キュー!
「翡翠寝かせてよ」
キュイッ……
「寝かせてってば……」
カタカタカタカタカタ__
キュィキュイッ!!!
「何?」
月の薄明かりで見える範囲では特に何も見えず、またぐずっているのだろうと撫でるが、それでも威嚇しているように見えるので目を凝らして窓の外を見ると、光るものが二つ……
「……誰かいるの?」
入口の方に引っ張っていこうとする翡翠がおかしいと思ったのか、黒ずくめの昼とは違う人が自分の前に降り立ち「御館様の元へ」と一言言ってから窓に近づく。
車椅子を押して祖父の部屋に行き声を掛けると、もう連絡が行っていたようですぐに中に入れられる。
「雪翔、紫狐はどうした」
「え?」
「翡翠は出てきたのか?」
「え、うん。そうだけど」
「とにかく落ち着け。残党じゃろうて……」
「なんで僕を狙いに来るの?」
明かりをつけ、祖母が持ってきてくれた布団に座って聞くと、実は……と話し出してくれた。
「冬弥が天狐になった時に、名前を出したじゃろう?その時に雪翔が人間の子供で、冬弥の養子となったことも知れ渡った。そこまではいいのじゃが、その人間の子が術師だと噂が流れてのぉ……そんなことは無いと放っておいたんじゃよ。中にはやはり人を毛嫌いする輩もおる。陰陽師と狐は繋がりがあると言うてもまた別の話じゃ。多分紫狐が出てこれぬのは、無意識に体内に気が回っておるからかもしれん」
「こっちに僕が来たから……」
「それは気にせんでもいい。興味を持って見に来る輩もおるしの。儂は反対したんじゃよ。天狐の名を出す事で、本当にいると存在は分かるようになるが、本当にそれでいいのかとな……天狐の枠は七つ。地位や金で買えるものではないし、排除しようにも力の差は歴然としておる。儂も衰えたとはいえ元天狐じゃ。それは皆知らぬし、本来屋敷に入ってくる馬鹿共はおらんのじゃが……」
「僕を狙ってもいいことなんてないよ?」
「今はな。城に行ったじゃろう?」
「うん」
「儂はあ奴らが誰かをここに偵察にこさせたと思うておる」
「なんで?」
「雪翔、もしもよ?もしもだけど、力を使えたとしたら、雪翔の力を欲しがるものはたくさんいるの。それも、昔からの伝説にこだわる者達はね。私も仙だったから話はいくつか聞いたことがあるけど、言い伝えは言い伝えと信じてなかったのよねぇ……。城でも言われたでしょう?」
「うん……腹が立ってあまり覚えてないけど……」
「坊ちゃん、足の方は?」
「擦り傷だけ。お風呂で洗ったし、もう血も出てないから平気だよ」
「いけません」
ちょっと待っててと言われ、戻ってくると少し大きめの箱を抱えていて、その中に消毒の薬などが入っており軟膏を塗られる。
「色は悪いですけど傷薬です。よく効くので今夜はこの包帯は取らないでください」
「分かった。ありがとう」
お礼を言ってろうそくを消してもらい、布団に入るとすぐに寝てしまった。
キュー!
「翡翠寝かせてよ」
キュイッ……
「寝かせてってば……」
カタカタカタカタカタ__
キュィキュイッ!!!
「何?」
月の薄明かりで見える範囲では特に何も見えず、またぐずっているのだろうと撫でるが、それでも威嚇しているように見えるので目を凝らして窓の外を見ると、光るものが二つ……
「……誰かいるの?」
入口の方に引っ張っていこうとする翡翠がおかしいと思ったのか、黒ずくめの昼とは違う人が自分の前に降り立ち「御館様の元へ」と一言言ってから窓に近づく。
車椅子を押して祖父の部屋に行き声を掛けると、もう連絡が行っていたようですぐに中に入れられる。
「雪翔、紫狐はどうした」
「え?」
「翡翠は出てきたのか?」
「え、うん。そうだけど」
「とにかく落ち着け。残党じゃろうて……」
「なんで僕を狙いに来るの?」
明かりをつけ、祖母が持ってきてくれた布団に座って聞くと、実は……と話し出してくれた。
「冬弥が天狐になった時に、名前を出したじゃろう?その時に雪翔が人間の子供で、冬弥の養子となったことも知れ渡った。そこまではいいのじゃが、その人間の子が術師だと噂が流れてのぉ……そんなことは無いと放っておいたんじゃよ。中にはやはり人を毛嫌いする輩もおる。陰陽師と狐は繋がりがあると言うてもまた別の話じゃ。多分紫狐が出てこれぬのは、無意識に体内に気が回っておるからかもしれん」
「こっちに僕が来たから……」
「それは気にせんでもいい。興味を持って見に来る輩もおるしの。儂は反対したんじゃよ。天狐の名を出す事で、本当にいると存在は分かるようになるが、本当にそれでいいのかとな……天狐の枠は七つ。地位や金で買えるものではないし、排除しようにも力の差は歴然としておる。儂も衰えたとはいえ元天狐じゃ。それは皆知らぬし、本来屋敷に入ってくる馬鹿共はおらんのじゃが……」
「僕を狙ってもいいことなんてないよ?」
「今はな。城に行ったじゃろう?」
「うん」
「儂はあ奴らが誰かをここに偵察にこさせたと思うておる」
「なんで?」
「雪翔、もしもよ?もしもだけど、力を使えたとしたら、雪翔の力を欲しがるものはたくさんいるの。それも、昔からの伝説にこだわる者達はね。私も仙だったから話はいくつか聞いたことがあるけど、言い伝えは言い伝えと信じてなかったのよねぇ……。城でも言われたでしょう?」
「うん……腹が立ってあまり覚えてないけど……」
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
下宿屋 東風荘 5
浅井 ことは
キャラ文芸
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*゜☆.。.:*゚☆
下宿屋を営む天狐の養子となった雪翔。
車椅子生活を送りながらも、みんなに助けられながらリハビリを続け、少しだけ掴まりながら歩けるようにまでなった。
そんな雪翔と新しい下宿屋で再開した幼馴染の航平。
彼にも何かの能力が?
そんな幼馴染に狐の養子になったことを気づかれ、一緒に狐の国に行くが、そこで思わぬハプニングが__
雪翔にのんびり学生生活は戻ってくるのか!?
☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*°☆.。.:*☆.。.:*゚☆
イラストの無断使用は固くお断りさせて頂いております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる