94 / 124
救え! セーラン商店街編
94色 編み出せ! 商店街繁盛計画!
しおりを挟む
ショッピングモールを後にした私達は商店街のスミレのお店に帰ってきた。
「あ、おかえり……って、アカリたちもいるじゃないか、どうしたの」
先にきていたシーニは驚いて聞いてくる。 アカリはシーニのところに駆け寄る。
「シーニ!」
「アカリ達ともたまたまお会いまして、説明したら彼女達も協力してくれるとのことです」
シーニに説明すると、隣に座るネム少年ともう一人の少年に気が付き、私は少し目を見開いて驚く。
「おや、『緑風くん』じゃないですか」
私が彼に気が付くと彼はかわいい笑顔を向けて挨拶をしてくれる。
「まるうちさんこんにちは、それとみんなも」
「クロロン!」
アカリが驚きながらも彼の下に行くと、緑風くんはその周りをみて少し驚いた感じで聞いてくる。
「みんなで遊びにいったのかな?」
大世帯でいる私達をみて少し哀しそうな顔でいう緑風くんを抹消さんは慌てて弁明する。
「ち、違うよ! クウくんを仲間はずれにしたわけじゃなくて、まるうちさんたちとはショッピングモールの喫茶店でたまたまあったんだよ」
「ぼくも今日いったのに、あわなかったな」
「え!? そうなの!?」
緑風くんの返しに抹消さんを含めて私達も驚く。
「うん、そこのコーヒーゼリーがすごいおいしいってウワサをきいて食べにいったんだ」
「!?」
その言葉を聞いたスミレがカラダを少しビクッっとさせて反応する。
「……ぼくはひとりでコーヒーゼリーをコーヒーゼリーの様に渋く孤独を味わって食べにいってきたよ……ひとりで……」
滅茶苦茶『ひとり』を強調しますね。
「えっと、クウくんの為に二人には下見ついてきてもらっただけで、本当に仲間外れにしたわけじゃ」
下を向いて俯いていた緑風くんを抹消さんは必死に弁明する。 しかし、緑風くんはクスリと笑って顔を上げる。
「なんてね、冗談だよ」
「え?」
顔を上げた緑風くんはいたずらっぽく笑いながら、かわいい笑顔で言葉を続ける。
「ひとりでいったのは本当だけど、全然気にしてないし、むしろ楽しんできたから平気だよ」
「なんだよかった」
それを聞いた抹消さんは安堵の息を吐く。
「それで、何故、緑風くんはこちらに?」
私が素朴な質問をすると、すぐに答えてくれる。
「なんとなく、むらさきさんのお店のコーヒーゼリーが食べたいなーって思ってきてみたら、たまたまみっくんとあおいさんにあったんだ」
「このお店のちょっと離れたところでクウタくんにたまたまあってね。 行く場所が同じだったみたいだから一緒にきたんだ」
シーニが説明の付け足しをする。
「コーヒーゼリーを食べたのにまたコーヒーゼリーを食べたくなったの~?」
「うーん、ぼくもよくわからないけど……なんていうか……その……」
ノワルが不思議そうに聞くと、緑風くんも少し考える様に言葉をつなげていう。
「あそこのもおいしかったけど、なんていうか……ここのコーヒーゼリーは『また食べたい!』って感じがして、うまくいえないけど『ぼくの大好きな味』って感じがしたんだ」
彼は何も深い意味はないという感じで純粋に言ったのでしょうが、私がふと横目でスミレをみると目を少し見開いて驚いた顔をして少し頬を赤らめている様にみえた。
「それに大体のことは、あおいさんから聞いたから、できたらぼくも協力したいなって思って」
彼の真っ直ぐで純粋な目を向けられた私は断る理由がなかったので二つ返事でお願いする。
「ありがとうございます。 では、早速、緊急会議を開きましょうか」
私達は机を繋げて全員の顔が確認できる形を取った。
「さて、本題に入る前に皆様からみた、つまり、一般のお客様からみたショッピングモールはどうでしたか? 商店街との違いを教えて貰えるとさらにありがたいです。 遠慮なくズバズバと指摘してくれて構いません」
私は商店街組を除いたメンバーに聞いてみる。
「正直にいうと、そんなにはっきりとみていたわけじゃないから参考になるか分からないけど、服屋に限らずチェーン店が主体だからやっぱり『安心感』があったね。 それで、わたしも服をいくつか買っちゃったし」
シーニは頬を掻きながら隣の席に置いてある紙袋をみる。
「なるほど、当たり前のことかも知れませんが、かなり重要なことですね」
「そうなの?」
アカリが頭にハテナを浮かべながらいい、私は頷き説明する。
「はい、見慣れているという『安心感』はかなり重要だと思います。 例えば、味の全くしないシンプルな水とよくわからない色の液体どっちを飲むかと言われたら、大半の人が味がしなくても水を取るはずです。 なので、ブランド名というのはとても重要なんです」
「じゃあ、負け戦ってこと?」
ノワルの質問に今度は首を横に振り答える。
「いえ、そういう訳ではありません。 寧ろ『勝とう』だなんて『一ミリも考えてません』からね」
私の発言にみんな驚いた顔をする。 スミレは空かさず聞いてくる。
「勝つ気がないってどういうことよ!?」
「勝つ気がないのではなく『争う気がない』だけです」
「え?」
冷静に私の意見を述べていく。
「協力関係とまではいかなくても、互いのメリットデメリットを生かせればと思いまして」
「メリットデメリット?」
首を傾げて聞いてくるトウマくんに頷きながら話を続ける。
「今、この商店街は根こそぎお客様を取られているという状況です。 ですが、逆にそれを生かして行きたいと思います。 例えば、ショッピングモールから近いことを生かして、ショッピングモールの行きや帰りに寄って頂ける様な場所に出来ればと」
「そっか! ぼくみたいにってことだね!」
「え? どういうこと?」
私の意図に気付いたのか、緑風くんがいうとアカリが頭にハテナを浮かべながら聞き返す。
「えーっとね、ぼくみたいにコーヒーゼリーを食べにいってコーヒーゼリーを食べにいくんだよ」
「ん?」
みんな緑風くんの言葉にさらにクエスチョンマークを増やす。
「なに? トンチでもいってるつもり?」
「緑風くんの云う通りです」
「え?」
肯定した私にさらに困惑するみんなに補足説明をする。
「ショッピングモールのコーヒーゼリーを食べに行き、帰りに商店街のコーヒーゼリーを食べにくるということです」
「あ、そういうことね」
シーニは分かったみたいだ。
「クウタくんの場合はコーヒーゼリーだったけど、それに限らず商店街のお店をみて周れる様にするってことだね」
「コーヒーゼリーはコーヒーゼリーでもショッピングモールのとむらさきさんのお店じゃ味が違うからそれの違いを楽しむんだよ!」
シーニの説明にさらに緑風くんが付け加える。
「いいたいことはわかったわ。 だけど、アナタの例えわかりずらいのよ」
「あはは、ごめん」
スミレは溜息を吐きながらいうけど、緑風くんの言葉が嬉しかったのか、目を閉じて少し口角を上げて笑ってる様にみえた。
「そこで、スミレ達に先程後回しにした話をします」
「もしかして、食品売り場でのこと?」
トウマくんの問に「はい」と一言返すと話を切り出す。
「先程、スミレに話した通り、ショッピングモールの食品や果物は安く多く仕入れているので、私の実家の八百屋の商品の約半額の値段で買えるという話でしたね」
「ええ、だけど、アナタのお店の商品は新鮮でかなりいいものを仕入れているけど、新鮮なものひとつとすこし質は落ちるけど同じ値段で二個ましてや三個買えればそっちを買ってしまうっていうことだったわよね?」
「人間の心理をついた至極当然の判断ですね」
「じゃあ、なに? アナタも値段を下げるとでもいうの?」
スミレの問に私は首を横に振る。
「いえ、先程もいったようにそちらのデメリットを生かしていこうと思います」
「どうやってよ?」
「お忘れですか? 私の実家の果物はこの町随一の果物農園から仕入れていることを」
「!? それって……まさか!?」
私の意図に気付いたスミレが何かを云いかけると、お店の入り口のベルが鳴り、私達は反射的にそちらをみると農園着姿の温厚そうなお兄さんが入ってきた。 それをみたスミレは飛び上がる様に椅子から立ち上がる。
「センパイ!?」
「こんにちは、おや、なんだか思ってたより人がいるね」
私達に挨拶をすると、周りを見回して机を囲う人達をみながらいう。
「センパイ! どうしてこちらに?」
スミレは農園着のお兄さん。 リュイ先輩に小走りで近寄って聞くと、先輩は優しく微笑み答えてくれる。
「マルに相談があるって呼ばれてね」
「え? マルに?」
先輩の言葉にスミレは私をみる。
「はい、ショッピングモールをみている途中に先輩と連絡を取っていました。 『農園のお仕事が落ち着いたらご相談があるので、スミレの実家のお店まで来て頂けませんか?』と」
「いつのまに……」
「さすがマルちゃん! 抜け目ないね!」
「それは褒めていると受け取っておきましょう」
ノワルの言葉を流しながら私は話を続ける。
「大体の事情は簡潔にお伝えしています」
「うん、そうだね、正直ぼくの実家もここ数か月売り上げが悪くて困ってたんだ……」
「そうだったんですね……」
「でも、お得意様のマルとスミレの実家のお店が仕入れてくれてるから助かってるよ。ありがとね」
「は、はい! ワタシもセンパイの為にがんばってます!」
先輩の言葉にスミレは頬を染めながら、まるで子犬の様に尻尾を振る様に喜ぶ。
「ん? もしかして、あっちが本命? じゃあ、クウくんにむけるあの眼はなに?」
あまりの自分達との態度の違いに抹消さんは驚き、頭にクエスチョンマークを浮かべながらブツブツと考える。 それを横目で確認しながらも私は話を切り出す。
「では、先輩に折り入ってお願いがあるのですが、先輩の農園から仕入れている果物の一割を『試食』に回してもいいでしょうか?」
「え? 試食?」
先輩は首を傾げながら聞き返してくる。
「はい、試食という形を取ることによって少しでも先輩のところの果物を買って頂ける様にという根端でして」
「そういうことなら全然構わないよ。 むしろ、ぼくが大切に育てた果物が役に立つなら是非とも使ってほしいかな」
私が説明をすると、先輩は直ぐに納得して許してくれた。
「では、これで私の実家のお店の対策は完了しましたね」
「え? それだけでいいの?」
あっさりと対策を立てた私にアカリが聞いてくる。
「はい、いきなり慣れていないことをいくつも増やすより、少しずつ増やしていくのが効率がいいですからね」
「はへぇ~そうなんだ」
「では、次にトウマくんの実家のおもちゃ屋さんのことでひとつ提案してもいいですか?」
「なにかな?」
「トウマくんのお店にあってショッピングモールにないもの覚えてますか?」
「もしかして、古いおもちゃのこと?」
私の質問にトウマくんは少し考えた後答えてくれる。
「はい、トウマくんの実家に比べショッピングモールの新作のおもちゃは二割程安く売られていましたが、数年前のおもちゃは売られていませんでしたよね?」
「え? 古いおもちゃならなくて当然じゃない?」
抹消さんは首を傾げながらいう。
「はい、こちらも当たり前のことですね。 ですが、あえて同じ策を取ります」
「同じさくっておもちゃを食べるの?」
「いや、さすがにそれはないでしょ」
アカリの発言に抹消さんはツッコム。
「まあ、似たようなことです」
「え!? やっぱり食べるの!?」
「『試食』ならぬ、『試着』とでもいっておきましょうか」
「おもちゃを着るの?」
「正しくは一部の商品を試しに触れて遊べるようにするんです。 そうすることによってこちらも買って頂ける可能性が増えます」
「それってかなり危険じゃないかな?」
私の提案にシーニは少し訝しげにいう。
「え? そうなの?」
「うーん、これをいっちゃあれかもしれないけど、おもちゃとかだと『盗まれる』可能性が高いんじゃないかな?」
シーニの発言にみんなもハッとなり少し不安な顔になる。
「勿論、そちらも可能性としてしっかりと考えています」
「どんな?」
みんなの視線が集まり私は一言だけいう。
「『その時はその時です』」
「え?」
私の対策もクソもない発言にみんなきょとんとする。
「はあ!? それってどういうことよ!? アナタふざけてるの!?」
スミレは私に詰め寄りながら聞いてくる。
「モノの窃盗よ!? そんなのを見過ごすわけ!?」
「はい」
「なっ!?」
あっけらかんという私にスミレは何かを云おうとしましたが、その前に私が口を開く。
「だって、『その程度の人間』だったということですから、それに『そんな人に時間を割いてる暇はありません』」
「!?」
あまりに滅茶苦茶な私の発言にみんな戦慄しているようです。 まあ、当然ですけどね。
「ぼくはまるうちさんのいうことわかるかな」
「え?」
意外にも口を開いたのは緑風くんだった。
「冷たい言い方になっちゃってるかもしれないけど、その通りなんだよね。 モノを盗む人はお金がないのかもしれない、それを買ってもらえないほど貧しいのかもしれないし、そうじゃないかもしれない、お金を払えるけど払いたくないでも、お金がなくて仕方なく盗んだでも、理由がなんであれ『その程度の人間』ってことだよね?」
緑風くんから出る意外な言葉にみんな驚きながら静かに顔を見合わす。 私は彼の言葉を繋げる様に説明を続ける。
「はい、ですが、モノを売る身としても、それをされる覚悟で行動するべきだと思います。 そのリスクを背負う覚悟が」
私はトウマくんに向き直りいう。
「勿論、この提案は強制ではありませんし、勿論ちゃんとした対策を考えるつもりです。 決めるのはトウマくんのご家族達です」
トウマくんは少し考える仕草をしてチカラ強く頷きながら口を開く。
「うん、やるよ。 少しのリスクを背負ってでも」
私もそれに頷き返す。
「では、トウマくんはそのリスクを減らす対策を考えて頂いてもいいでしょうか?」
「うん、わかったよ。 例えば、触れるおもちゃを紐で付けるとかいろいろと考えてみるよ」
「センサーとかつければいいんじゃない?」
トウマくんは対策を考えはじめてノワルはそれを手伝う。
「マルもしかして、これが狙い?」
シーニが周りに聞こえない様にこっそりと聞いてきて、私も声を抑え答える。
「はい、正直、私が全て提案してしまっては、それは只の私の自己満足に過ぎません。 なので、『私達で考える』ことが大切だと思いまして」
「さすがだね。 やっぱりキミは周りをよく考えてるんだね」
「ありがとうございます。 ですが、私の行動の原理はおじいちゃんの教えであって私はそれを守っているだけです」
「その教えがあってこその丸内林檎だね」
シーニは優しく微笑みながらいい、私も微笑み「はい」と一言返す。
チリンッ♪チリンッ♪
その直後、またお店の入り口からベルが鳴り、ひとりの青年が入ってきた。 その少年の姿を認識した瞬間、スミレは顔を顰めた。
「あ、おかえり……って、アカリたちもいるじゃないか、どうしたの」
先にきていたシーニは驚いて聞いてくる。 アカリはシーニのところに駆け寄る。
「シーニ!」
「アカリ達ともたまたまお会いまして、説明したら彼女達も協力してくれるとのことです」
シーニに説明すると、隣に座るネム少年ともう一人の少年に気が付き、私は少し目を見開いて驚く。
「おや、『緑風くん』じゃないですか」
私が彼に気が付くと彼はかわいい笑顔を向けて挨拶をしてくれる。
「まるうちさんこんにちは、それとみんなも」
「クロロン!」
アカリが驚きながらも彼の下に行くと、緑風くんはその周りをみて少し驚いた感じで聞いてくる。
「みんなで遊びにいったのかな?」
大世帯でいる私達をみて少し哀しそうな顔でいう緑風くんを抹消さんは慌てて弁明する。
「ち、違うよ! クウくんを仲間はずれにしたわけじゃなくて、まるうちさんたちとはショッピングモールの喫茶店でたまたまあったんだよ」
「ぼくも今日いったのに、あわなかったな」
「え!? そうなの!?」
緑風くんの返しに抹消さんを含めて私達も驚く。
「うん、そこのコーヒーゼリーがすごいおいしいってウワサをきいて食べにいったんだ」
「!?」
その言葉を聞いたスミレがカラダを少しビクッっとさせて反応する。
「……ぼくはひとりでコーヒーゼリーをコーヒーゼリーの様に渋く孤独を味わって食べにいってきたよ……ひとりで……」
滅茶苦茶『ひとり』を強調しますね。
「えっと、クウくんの為に二人には下見ついてきてもらっただけで、本当に仲間外れにしたわけじゃ」
下を向いて俯いていた緑風くんを抹消さんは必死に弁明する。 しかし、緑風くんはクスリと笑って顔を上げる。
「なんてね、冗談だよ」
「え?」
顔を上げた緑風くんはいたずらっぽく笑いながら、かわいい笑顔で言葉を続ける。
「ひとりでいったのは本当だけど、全然気にしてないし、むしろ楽しんできたから平気だよ」
「なんだよかった」
それを聞いた抹消さんは安堵の息を吐く。
「それで、何故、緑風くんはこちらに?」
私が素朴な質問をすると、すぐに答えてくれる。
「なんとなく、むらさきさんのお店のコーヒーゼリーが食べたいなーって思ってきてみたら、たまたまみっくんとあおいさんにあったんだ」
「このお店のちょっと離れたところでクウタくんにたまたまあってね。 行く場所が同じだったみたいだから一緒にきたんだ」
シーニが説明の付け足しをする。
「コーヒーゼリーを食べたのにまたコーヒーゼリーを食べたくなったの~?」
「うーん、ぼくもよくわからないけど……なんていうか……その……」
ノワルが不思議そうに聞くと、緑風くんも少し考える様に言葉をつなげていう。
「あそこのもおいしかったけど、なんていうか……ここのコーヒーゼリーは『また食べたい!』って感じがして、うまくいえないけど『ぼくの大好きな味』って感じがしたんだ」
彼は何も深い意味はないという感じで純粋に言ったのでしょうが、私がふと横目でスミレをみると目を少し見開いて驚いた顔をして少し頬を赤らめている様にみえた。
「それに大体のことは、あおいさんから聞いたから、できたらぼくも協力したいなって思って」
彼の真っ直ぐで純粋な目を向けられた私は断る理由がなかったので二つ返事でお願いする。
「ありがとうございます。 では、早速、緊急会議を開きましょうか」
私達は机を繋げて全員の顔が確認できる形を取った。
「さて、本題に入る前に皆様からみた、つまり、一般のお客様からみたショッピングモールはどうでしたか? 商店街との違いを教えて貰えるとさらにありがたいです。 遠慮なくズバズバと指摘してくれて構いません」
私は商店街組を除いたメンバーに聞いてみる。
「正直にいうと、そんなにはっきりとみていたわけじゃないから参考になるか分からないけど、服屋に限らずチェーン店が主体だからやっぱり『安心感』があったね。 それで、わたしも服をいくつか買っちゃったし」
シーニは頬を掻きながら隣の席に置いてある紙袋をみる。
「なるほど、当たり前のことかも知れませんが、かなり重要なことですね」
「そうなの?」
アカリが頭にハテナを浮かべながらいい、私は頷き説明する。
「はい、見慣れているという『安心感』はかなり重要だと思います。 例えば、味の全くしないシンプルな水とよくわからない色の液体どっちを飲むかと言われたら、大半の人が味がしなくても水を取るはずです。 なので、ブランド名というのはとても重要なんです」
「じゃあ、負け戦ってこと?」
ノワルの質問に今度は首を横に振り答える。
「いえ、そういう訳ではありません。 寧ろ『勝とう』だなんて『一ミリも考えてません』からね」
私の発言にみんな驚いた顔をする。 スミレは空かさず聞いてくる。
「勝つ気がないってどういうことよ!?」
「勝つ気がないのではなく『争う気がない』だけです」
「え?」
冷静に私の意見を述べていく。
「協力関係とまではいかなくても、互いのメリットデメリットを生かせればと思いまして」
「メリットデメリット?」
首を傾げて聞いてくるトウマくんに頷きながら話を続ける。
「今、この商店街は根こそぎお客様を取られているという状況です。 ですが、逆にそれを生かして行きたいと思います。 例えば、ショッピングモールから近いことを生かして、ショッピングモールの行きや帰りに寄って頂ける様な場所に出来ればと」
「そっか! ぼくみたいにってことだね!」
「え? どういうこと?」
私の意図に気付いたのか、緑風くんがいうとアカリが頭にハテナを浮かべながら聞き返す。
「えーっとね、ぼくみたいにコーヒーゼリーを食べにいってコーヒーゼリーを食べにいくんだよ」
「ん?」
みんな緑風くんの言葉にさらにクエスチョンマークを増やす。
「なに? トンチでもいってるつもり?」
「緑風くんの云う通りです」
「え?」
肯定した私にさらに困惑するみんなに補足説明をする。
「ショッピングモールのコーヒーゼリーを食べに行き、帰りに商店街のコーヒーゼリーを食べにくるということです」
「あ、そういうことね」
シーニは分かったみたいだ。
「クウタくんの場合はコーヒーゼリーだったけど、それに限らず商店街のお店をみて周れる様にするってことだね」
「コーヒーゼリーはコーヒーゼリーでもショッピングモールのとむらさきさんのお店じゃ味が違うからそれの違いを楽しむんだよ!」
シーニの説明にさらに緑風くんが付け加える。
「いいたいことはわかったわ。 だけど、アナタの例えわかりずらいのよ」
「あはは、ごめん」
スミレは溜息を吐きながらいうけど、緑風くんの言葉が嬉しかったのか、目を閉じて少し口角を上げて笑ってる様にみえた。
「そこで、スミレ達に先程後回しにした話をします」
「もしかして、食品売り場でのこと?」
トウマくんの問に「はい」と一言返すと話を切り出す。
「先程、スミレに話した通り、ショッピングモールの食品や果物は安く多く仕入れているので、私の実家の八百屋の商品の約半額の値段で買えるという話でしたね」
「ええ、だけど、アナタのお店の商品は新鮮でかなりいいものを仕入れているけど、新鮮なものひとつとすこし質は落ちるけど同じ値段で二個ましてや三個買えればそっちを買ってしまうっていうことだったわよね?」
「人間の心理をついた至極当然の判断ですね」
「じゃあ、なに? アナタも値段を下げるとでもいうの?」
スミレの問に私は首を横に振る。
「いえ、先程もいったようにそちらのデメリットを生かしていこうと思います」
「どうやってよ?」
「お忘れですか? 私の実家の果物はこの町随一の果物農園から仕入れていることを」
「!? それって……まさか!?」
私の意図に気付いたスミレが何かを云いかけると、お店の入り口のベルが鳴り、私達は反射的にそちらをみると農園着姿の温厚そうなお兄さんが入ってきた。 それをみたスミレは飛び上がる様に椅子から立ち上がる。
「センパイ!?」
「こんにちは、おや、なんだか思ってたより人がいるね」
私達に挨拶をすると、周りを見回して机を囲う人達をみながらいう。
「センパイ! どうしてこちらに?」
スミレは農園着のお兄さん。 リュイ先輩に小走りで近寄って聞くと、先輩は優しく微笑み答えてくれる。
「マルに相談があるって呼ばれてね」
「え? マルに?」
先輩の言葉にスミレは私をみる。
「はい、ショッピングモールをみている途中に先輩と連絡を取っていました。 『農園のお仕事が落ち着いたらご相談があるので、スミレの実家のお店まで来て頂けませんか?』と」
「いつのまに……」
「さすがマルちゃん! 抜け目ないね!」
「それは褒めていると受け取っておきましょう」
ノワルの言葉を流しながら私は話を続ける。
「大体の事情は簡潔にお伝えしています」
「うん、そうだね、正直ぼくの実家もここ数か月売り上げが悪くて困ってたんだ……」
「そうだったんですね……」
「でも、お得意様のマルとスミレの実家のお店が仕入れてくれてるから助かってるよ。ありがとね」
「は、はい! ワタシもセンパイの為にがんばってます!」
先輩の言葉にスミレは頬を染めながら、まるで子犬の様に尻尾を振る様に喜ぶ。
「ん? もしかして、あっちが本命? じゃあ、クウくんにむけるあの眼はなに?」
あまりの自分達との態度の違いに抹消さんは驚き、頭にクエスチョンマークを浮かべながらブツブツと考える。 それを横目で確認しながらも私は話を切り出す。
「では、先輩に折り入ってお願いがあるのですが、先輩の農園から仕入れている果物の一割を『試食』に回してもいいでしょうか?」
「え? 試食?」
先輩は首を傾げながら聞き返してくる。
「はい、試食という形を取ることによって少しでも先輩のところの果物を買って頂ける様にという根端でして」
「そういうことなら全然構わないよ。 むしろ、ぼくが大切に育てた果物が役に立つなら是非とも使ってほしいかな」
私が説明をすると、先輩は直ぐに納得して許してくれた。
「では、これで私の実家のお店の対策は完了しましたね」
「え? それだけでいいの?」
あっさりと対策を立てた私にアカリが聞いてくる。
「はい、いきなり慣れていないことをいくつも増やすより、少しずつ増やしていくのが効率がいいですからね」
「はへぇ~そうなんだ」
「では、次にトウマくんの実家のおもちゃ屋さんのことでひとつ提案してもいいですか?」
「なにかな?」
「トウマくんのお店にあってショッピングモールにないもの覚えてますか?」
「もしかして、古いおもちゃのこと?」
私の質問にトウマくんは少し考えた後答えてくれる。
「はい、トウマくんの実家に比べショッピングモールの新作のおもちゃは二割程安く売られていましたが、数年前のおもちゃは売られていませんでしたよね?」
「え? 古いおもちゃならなくて当然じゃない?」
抹消さんは首を傾げながらいう。
「はい、こちらも当たり前のことですね。 ですが、あえて同じ策を取ります」
「同じさくっておもちゃを食べるの?」
「いや、さすがにそれはないでしょ」
アカリの発言に抹消さんはツッコム。
「まあ、似たようなことです」
「え!? やっぱり食べるの!?」
「『試食』ならぬ、『試着』とでもいっておきましょうか」
「おもちゃを着るの?」
「正しくは一部の商品を試しに触れて遊べるようにするんです。 そうすることによってこちらも買って頂ける可能性が増えます」
「それってかなり危険じゃないかな?」
私の提案にシーニは少し訝しげにいう。
「え? そうなの?」
「うーん、これをいっちゃあれかもしれないけど、おもちゃとかだと『盗まれる』可能性が高いんじゃないかな?」
シーニの発言にみんなもハッとなり少し不安な顔になる。
「勿論、そちらも可能性としてしっかりと考えています」
「どんな?」
みんなの視線が集まり私は一言だけいう。
「『その時はその時です』」
「え?」
私の対策もクソもない発言にみんなきょとんとする。
「はあ!? それってどういうことよ!? アナタふざけてるの!?」
スミレは私に詰め寄りながら聞いてくる。
「モノの窃盗よ!? そんなのを見過ごすわけ!?」
「はい」
「なっ!?」
あっけらかんという私にスミレは何かを云おうとしましたが、その前に私が口を開く。
「だって、『その程度の人間』だったということですから、それに『そんな人に時間を割いてる暇はありません』」
「!?」
あまりに滅茶苦茶な私の発言にみんな戦慄しているようです。 まあ、当然ですけどね。
「ぼくはまるうちさんのいうことわかるかな」
「え?」
意外にも口を開いたのは緑風くんだった。
「冷たい言い方になっちゃってるかもしれないけど、その通りなんだよね。 モノを盗む人はお金がないのかもしれない、それを買ってもらえないほど貧しいのかもしれないし、そうじゃないかもしれない、お金を払えるけど払いたくないでも、お金がなくて仕方なく盗んだでも、理由がなんであれ『その程度の人間』ってことだよね?」
緑風くんから出る意外な言葉にみんな驚きながら静かに顔を見合わす。 私は彼の言葉を繋げる様に説明を続ける。
「はい、ですが、モノを売る身としても、それをされる覚悟で行動するべきだと思います。 そのリスクを背負う覚悟が」
私はトウマくんに向き直りいう。
「勿論、この提案は強制ではありませんし、勿論ちゃんとした対策を考えるつもりです。 決めるのはトウマくんのご家族達です」
トウマくんは少し考える仕草をしてチカラ強く頷きながら口を開く。
「うん、やるよ。 少しのリスクを背負ってでも」
私もそれに頷き返す。
「では、トウマくんはそのリスクを減らす対策を考えて頂いてもいいでしょうか?」
「うん、わかったよ。 例えば、触れるおもちゃを紐で付けるとかいろいろと考えてみるよ」
「センサーとかつければいいんじゃない?」
トウマくんは対策を考えはじめてノワルはそれを手伝う。
「マルもしかして、これが狙い?」
シーニが周りに聞こえない様にこっそりと聞いてきて、私も声を抑え答える。
「はい、正直、私が全て提案してしまっては、それは只の私の自己満足に過ぎません。 なので、『私達で考える』ことが大切だと思いまして」
「さすがだね。 やっぱりキミは周りをよく考えてるんだね」
「ありがとうございます。 ですが、私の行動の原理はおじいちゃんの教えであって私はそれを守っているだけです」
「その教えがあってこその丸内林檎だね」
シーニは優しく微笑みながらいい、私も微笑み「はい」と一言返す。
チリンッ♪チリンッ♪
その直後、またお店の入り口からベルが鳴り、ひとりの青年が入ってきた。 その少年の姿を認識した瞬間、スミレは顔を顰めた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる