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2章 アポカリプスサウンド

37話【タイムリミット/48時間】

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『一定の魂の銀貨を得ました。一部のダンジョンからモンスターの開放を行います。開放が行われるダンジョンはレベル1から5の未クリアダンジョンです。モンスター開放まであと48時間』

 そのアナウンスに全員が驚愕し、ガタリ、と武藤さんが椅子から立ち上がった。

「モンスターの開放、だと?」
「こりゃマズイね~。それに言語の壁の撤廃っていうのは、うーん」

 珍しく武藤さんが顔をしかめる。葉山さんは変わらずのんびりとした口調で何か逡巡しているようだ。
 ダンジョンの開放はダンジョンゲートのことだろうか。言語の壁が撤廃、そして24時間以内にレベル5までのダンジョンを全てクリアしないとモンスターが溢れる、という。

 情報は多いが、全て詳細が不明。一体何が起きていて、どう転がっていくのかわからない。

 全ての人にダンジョンを開放したとアナウンスは言った。では全ての人にスキルや職業が与えられたのだろうか? アプリも?
 何の説明もないのは、僕らが既に夢現ダンジョンを踏破したプレイヤーだから省かれているのか、それとも万人に知らせがないのか、判然としないのも気持ちが悪い。

 この気持ち悪さは、あのダンジョンでの説明にも、よく似ていた。

「うーん……ねえ真瀬くんたち。これ何語に聞こえる?」
 葉山さんがスマホを操作しながら唸って訊く。

「日本語に聞こえるけど……」
 僕は一度頭から不快感を追い出して、葉山さんの声に耳を傾ける。

「んー今ボク、英語で喋ってるんだけど……じゃあこれはどう?」
「全部日本語に聞こえるよ」

「これはペンだ」
 突然武藤さんが真剣な表情のままで言う。

「えっ」
 ペンなんてどこにもない。

「英語で言ったんだが」
「滅茶苦茶日本語でしたけど」

「ボク、トライリンガルなんだけど……えっ無駄になったの? 今の一瞬で? ええー」
 どうやら葉山さんは他言語で話をしていたようだけれど僕には全部日本語に聞こえた。
 葉山さんはショックだなー。とのんびり言う。ショックなのかわかりにくいのは、口調と表情がそれ程ショックを受けたように見えないからかもしれない。

「言語の壁ないならまあいいよね。使える言語が学習しなくても増えたってことで」
 そして一瞬で立ち直る葉山さん。不思議な感じのする独特な人だ。悠長にしていられる時であれば、友達になれたら楽しそうだなと思う。

 でも今、は。

 そんなのんきなことを言っていられる状況じゃないのだけはわかる。

「あ、みんなマップ見てー」
 葉山さんがのんびり言いながら「結構ヤバイよー」と続ける。

 僕たちは、スマホのマップを見る。この近くだけで、赤く表示されているダンジョンが多数ある。この建物の中、周辺の建物、そして公園、商業施設の中。
 マップ表示範囲を広げると、警視庁の周辺である霞ヶ関、皇居、東京駅、銀座、有楽町、新橋のあらゆる場所に赤いダンジョン表示があるのだ。

 これが、全てクリアしなければ48時間後にはモンスターを出すゲートにもなる。
 背筋がぞっとする。

 僕たちには強いスキルと武器があった。だから苦戦をしなかった。

 だけど、街中で、何の武器も装備もなく、猪鼠やゴブリンが現れたら……きっと、抵抗することは難しい。
 原国さんは、現実の武器が効かないと言った。警察官も自衛隊も、全員、戦力にならなくなるということだ。

「俺は原国のおっさんと話してくる。坊主たちはここにいろ、いいな?」
 僕たちが頷くと、武藤さんが席を外す。田村さんに一言「子供たちを宜しくお願いします」と言って部屋を出て行く。

 入れ替わるように、後ろのドアから「あ、真瀬兄」と少年の声がした。

「宗次郎くん、雛実ちゃん」
 2人は僕らを見つけると笑顔を浮かべて駆けて来た。
 中学の制服を着た2人。綺麗な状態の制服姿を見るのは初めてで、何だか少し嬉しい。
 出会ったときには、既にボロボロの姿をしていたから。

「本当にいるんだみんな」
 心底ホッとしたように、宗次郎くんが言う。雛実ちゃんには葉山さんがのんびりと声をかけている。
 あのダンジョンで出会った仲間たちが、集まってきている。

 木村さんは駐屯地だから合流はできなさそうで残念だけど、森脇さんは同じ建物にいるはずだ。彼もすごく忙しくしているに違いない。
 宗次郎くんたちと有坂さん、葉山さんで少し会話をしていると、前のドアから武藤さんと原国さんが部下らしき人を連れて戻って来る。
 皆席につくように原国さんが言い、広い会議室の手前の席だけがほぼ埋まる。

「アナウンスは聞きましたね?」
 全員が座ったのを見て、開口一番、原国さんが確認をする。
 頷くと、プロジェクターが壁に画像を投影する。さっき見たマップだ。

「もう1つ、悪いニュースがあります」
 原国さんの表情と声から温厚さは消え、冷たく重い声で言う。

「日本内閣が、ほぼ崩壊しました。政府として今までのように機能は出来ないと思って下さい」
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