きみに心奪われたまま

松石 愛弓

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翼を広げ、月の輝く夜空に浮かんだ俺は、しもべたちを招集する。
小さくて、従順で、可愛いしもべたちは、俺を囲んで楽しそうに飛んでいる。

俺はしもべたちに、陽菜が被害に遭ったことを話し、鬼瓦道世の捜索に協力してもらうことにした。
事情を把握したしもべたちは、夜の闇に紛れて四方八方へ散らばるように飛んで行った。

数十分後、鬼瓦の潜伏先を探しあてたしもべに案内してもらい、他のしもべたちとその場所へと向かった。

潜伏先は、県境のひなびた温泉だった。
鬼瓦は恋人らしき男と、温泉旅館の和室でくつろいでいた。

陽菜が怖い思いをしていた時、こいつらは温泉でのんびり楽しんでいたのかと思うと、怒りがこみあげてくる。
やつらの部屋の前で、様子を窺うことにした。

「あ~~っ、温泉って、最高~♪ お料理もお酒も美味しかったし、温泉でお肌ツルツルだし~♪」
「人の金で飲む酒、サイコー♪」
「明日はもっと遠くへ逃げよう。あの偽造書類でも逃げる時間稼ぎくらいにはなるでしょ」
「無関係な後輩巻き込んで、おまえ、悪い女だな~」
「人のこと言えるの?あの借金はあなたのギャンブルや浪費で作った借金じゃない。私はあなたを助けてあげてるのよ?」
「おまえに使った金も入ってるよ」
「どうせ、ちょっとだけでしょ?」

2人の楽しそうな笑い声が、静かな夜空に響いている。

罪悪感の欠片もない2人に我慢できなくなった俺は、手のひらの中に風の塊を2つ作り出す。
障子に映ったふたりの影に向かって、投げた!

ザシュ!ザシュッ!!

風の塊は、障子を突き破りふたりの後頭部に命中したようだ。
俺は障子を開け、気絶している浴衣姿のふたりを片腕にひとりずつ抱えると、空へ飛んだ。


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