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攫われるカイル
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秋の気配を感じて、リスさんが冬支度を始めました。
リスさんは、美味しそうな木の実や種を見つけては、巣穴に運んだり、土に埋めて隠したりしました。
リスさんは小さいので、木の実を少しずつしか巣穴に運べません。
「ふぅ~。1度にたくさん運べたらいいのに」
リスさんの呟きを、ルカとカイルが聞いていました。
「リスさん、私たちも一緒に運ぶわ」
「いいの? ありがとう! ここにある木の実を運びたいの」
「そう。じゃあ、これで運びましょう。便利なのよ」
ルカがポケットから出したのは、唐草模様の風呂敷。
ルカはかなり渋い趣味のようです。
風呂敷を広げ、リスさんの運びたい木の実を全部入れると、よいしょと背負うルカ。
ひと仕事終えた泥棒さんに見えなくもない風情です。
「助かるわ~、ルカちゃん」
「これくらい、お安い御用よ」
リスさんの巣穴がある木の下で、風呂敷から出した木の実を土の上に置くと、異世界の木の実がいくつか自発的に土に根を張り、にょきにょきと成長しはじめました。
そのうちのひとつの木が細枝を伸ばし、カイルを捕まえると空へと伸びてゆきました。
「カイル~!」
「ルカ~!」
カイルを追いかけ、木を登ってゆくルカ。しかし、ルカを振り落とそうと木の幹がぐねぐねと曲がっては揺らし、無数の細枝はルカを払い落とそうとしてきます。
「わはは!こちょこちょしないでよ~!カイルを返しなさいってば!」
木の幹や枝の姑息な攻撃をかわしながら、木を駆け上がってゆくルカ。
(連れ去られたお姫様を奪還する話はよくあるけど、いつもカイルが攫われて私が追いかけてゆくという構図。イケメン過ぎるのも問題だわ~!)
木の幹の頂上には大きなヒマワリのような花が1輪咲いていて、大きな口を開けています。
カイルが花の口に飲み込まれる寸前、ルカはカイルと一緒に花の中に飛び込みました。
「まぁ、だぁれ? あなたまで招待した覚えはなくってよ」
ヒマワリの花を模したような奇天烈な服を着た少女が腕組みをして睨んでいます。
「おまけにカイルに抱き着くなんて!」
きぃぃ!とハンカチを噛む少女。破れたついでにムシャムシャと食べています。
「ルカ、うれしい。僕、ずっとこのままでいたいよ」
「なに言ってるの。今、枝をほどいてあげるからね」
しかし、枝はほどけず、少女のところへ枝とカイルは引き寄せられていきます。
少女はそれはうれしそうにカイルを抱きしめました。
「ふふ。やっと捕まえた。ずっと、唐草模様の風呂敷の中からカイルを見つめていたのよ。ねぇカイル。ここで私と暮らしましょう。美味しい木の実が食べ放題だし、ヒマワリを模した服も着れるわよ♪」
あまり羨ましくない条件を出されて絶句するカイル。
木の実はあまり好きではないし、ヒマワリの花のような服も、着たいとは思えない斬新なデザインです。股間に大きなヒマワリの花がポンと付いていて、お盆芸かと見間違われるかもしれません。まだ、イロモノにはなりたくないカイル。しかし、少女を侮辱するわけにもいきません。
「僕は、木の実が食べれなくても、ヒマワリの服を着れなくても、ルカと一緒に居たいんだ」
カイルは少女をまっすぐに見て、言いました。
「えぇっ? 木の実が食べれなくても、ヒマワリの服を着れなくてもいいですって?! お尻にもヒマワリが付いてるのよ? 本当にいいの? 後悔しない?」
こんな好条件を蹴るなんて信じられない!という瞳でカイルを見つめる少女。
「ええ。僕はルカさえ傍にいてくれれば、それで満足なんです」
お尻や頭にもヒマワリが付いてる服なんて着たら変態かと思われちゃう、とは言えないカイル。
「そんなに、ルカさんがいいの? ルカさん、どうやってカイルを虜にしたの?」
「虜になんて…あっ、そうだ! 花の口を開けて太陽の光を見せてくれたら、教えますよ!」
(とにかく、ここから脱出しなきゃ!)
ルカがそう言うと、頑丈に閉まっていた花の口がゆっくりと開きはじめました。
ルカは、少女のところへ移動し、少女とカイルを抱いて、外へと瞬間移動しました。
秋晴れの空の下を、ふたりを抱いたまま飛び回ります。ジェットコースターみたいに回転したり、急降下したり。
魔法で、昼でも見れる花火も上げました。空を覆いつくすような大きな滝のような花火に森の動物たちも大喜びです。
「わかったわ、ルカちゃん。私もカイルを楽しませてあげれるような女の子になる」
少女は微笑んで、カイルをルカに返しました。
「カイルを捕まえないって約束してくれるなら、また会いましょう」
「うん。カイルを独り占めなんて贅沢よね。またふたりで会いに来てね」
少女を花の上に降ろすと、ルカとカイルは家に帰ることにしました。
空を飛んで帰る途中、カイルはルカに言いました。
「ルカはいつも僕を助けに来てくれるね」
「これからも、イケメン王子を護衛させていただきますよ?」
「なるべく攫われないようにするね?」
「そうして」
「でも、ルカが僕を追いかけて来てくれるのが嬉しいんだよね」
「だめだよ!心配するから」
「ルカが悪いんだよ。僕の心を攫っていくから!」
「えっ?カイル、待ってよ~!」
大空の下、じゃれあいながら飛んでゆくルカとカイルでした。
リスさんは、美味しそうな木の実や種を見つけては、巣穴に運んだり、土に埋めて隠したりしました。
リスさんは小さいので、木の実を少しずつしか巣穴に運べません。
「ふぅ~。1度にたくさん運べたらいいのに」
リスさんの呟きを、ルカとカイルが聞いていました。
「リスさん、私たちも一緒に運ぶわ」
「いいの? ありがとう! ここにある木の実を運びたいの」
「そう。じゃあ、これで運びましょう。便利なのよ」
ルカがポケットから出したのは、唐草模様の風呂敷。
ルカはかなり渋い趣味のようです。
風呂敷を広げ、リスさんの運びたい木の実を全部入れると、よいしょと背負うルカ。
ひと仕事終えた泥棒さんに見えなくもない風情です。
「助かるわ~、ルカちゃん」
「これくらい、お安い御用よ」
リスさんの巣穴がある木の下で、風呂敷から出した木の実を土の上に置くと、異世界の木の実がいくつか自発的に土に根を張り、にょきにょきと成長しはじめました。
そのうちのひとつの木が細枝を伸ばし、カイルを捕まえると空へと伸びてゆきました。
「カイル~!」
「ルカ~!」
カイルを追いかけ、木を登ってゆくルカ。しかし、ルカを振り落とそうと木の幹がぐねぐねと曲がっては揺らし、無数の細枝はルカを払い落とそうとしてきます。
「わはは!こちょこちょしないでよ~!カイルを返しなさいってば!」
木の幹や枝の姑息な攻撃をかわしながら、木を駆け上がってゆくルカ。
(連れ去られたお姫様を奪還する話はよくあるけど、いつもカイルが攫われて私が追いかけてゆくという構図。イケメン過ぎるのも問題だわ~!)
木の幹の頂上には大きなヒマワリのような花が1輪咲いていて、大きな口を開けています。
カイルが花の口に飲み込まれる寸前、ルカはカイルと一緒に花の中に飛び込みました。
「まぁ、だぁれ? あなたまで招待した覚えはなくってよ」
ヒマワリの花を模したような奇天烈な服を着た少女が腕組みをして睨んでいます。
「おまけにカイルに抱き着くなんて!」
きぃぃ!とハンカチを噛む少女。破れたついでにムシャムシャと食べています。
「ルカ、うれしい。僕、ずっとこのままでいたいよ」
「なに言ってるの。今、枝をほどいてあげるからね」
しかし、枝はほどけず、少女のところへ枝とカイルは引き寄せられていきます。
少女はそれはうれしそうにカイルを抱きしめました。
「ふふ。やっと捕まえた。ずっと、唐草模様の風呂敷の中からカイルを見つめていたのよ。ねぇカイル。ここで私と暮らしましょう。美味しい木の実が食べ放題だし、ヒマワリを模した服も着れるわよ♪」
あまり羨ましくない条件を出されて絶句するカイル。
木の実はあまり好きではないし、ヒマワリの花のような服も、着たいとは思えない斬新なデザインです。股間に大きなヒマワリの花がポンと付いていて、お盆芸かと見間違われるかもしれません。まだ、イロモノにはなりたくないカイル。しかし、少女を侮辱するわけにもいきません。
「僕は、木の実が食べれなくても、ヒマワリの服を着れなくても、ルカと一緒に居たいんだ」
カイルは少女をまっすぐに見て、言いました。
「えぇっ? 木の実が食べれなくても、ヒマワリの服を着れなくてもいいですって?! お尻にもヒマワリが付いてるのよ? 本当にいいの? 後悔しない?」
こんな好条件を蹴るなんて信じられない!という瞳でカイルを見つめる少女。
「ええ。僕はルカさえ傍にいてくれれば、それで満足なんです」
お尻や頭にもヒマワリが付いてる服なんて着たら変態かと思われちゃう、とは言えないカイル。
「そんなに、ルカさんがいいの? ルカさん、どうやってカイルを虜にしたの?」
「虜になんて…あっ、そうだ! 花の口を開けて太陽の光を見せてくれたら、教えますよ!」
(とにかく、ここから脱出しなきゃ!)
ルカがそう言うと、頑丈に閉まっていた花の口がゆっくりと開きはじめました。
ルカは、少女のところへ移動し、少女とカイルを抱いて、外へと瞬間移動しました。
秋晴れの空の下を、ふたりを抱いたまま飛び回ります。ジェットコースターみたいに回転したり、急降下したり。
魔法で、昼でも見れる花火も上げました。空を覆いつくすような大きな滝のような花火に森の動物たちも大喜びです。
「わかったわ、ルカちゃん。私もカイルを楽しませてあげれるような女の子になる」
少女は微笑んで、カイルをルカに返しました。
「カイルを捕まえないって約束してくれるなら、また会いましょう」
「うん。カイルを独り占めなんて贅沢よね。またふたりで会いに来てね」
少女を花の上に降ろすと、ルカとカイルは家に帰ることにしました。
空を飛んで帰る途中、カイルはルカに言いました。
「ルカはいつも僕を助けに来てくれるね」
「これからも、イケメン王子を護衛させていただきますよ?」
「なるべく攫われないようにするね?」
「そうして」
「でも、ルカが僕を追いかけて来てくれるのが嬉しいんだよね」
「だめだよ!心配するから」
「ルカが悪いんだよ。僕の心を攫っていくから!」
「えっ?カイル、待ってよ~!」
大空の下、じゃれあいながら飛んでゆくルカとカイルでした。
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