ルカとカイル

松石 愛弓

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狼を諭すおばあさん

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 ルカとカイルが庭を歩いていると、空から桃色の小さな花が降ってきました。
 
 ふわりふわりとゆっくり降りてくる小花は、八重桜のような形をした1㎝くらいの大きさ。
 まるで、薄桃色の綿雪のように見えました。
 庭を幻想的な雰囲気で包む美しい花たちは、ルカやカイルの髪や肩を飾ってゆきます。

「ルカ、可愛い」
 カイルが優しい瞳でルカを見つめ、
「カイルは綺麗だね」
 花の美しさが霞んでしまうほど、カイルは天使のように綺麗でした。

「あっ、小花たちが移動していく!」とルカが叫び、
「小花たちが何処へ行くのか追いかけてみようか」
「うん!」
 ルカとカイルは空へ飛んでゆきました。

 小花たちが降る中をロマンティックに飛行します。
 やわらかくて、甘い香りのする小花の中を2人で飛んでいると、まるで夢の中にいるような素敵な気分です。

 ふと下の景色を見てみると、赤い頭巾を被った少女がリンゴの入った籠を持って歩いていました。
「あの子…もしかして赤ず〇んちゃんかしら?たしか、おばあさんの家におつかいに行ったら、おばあさんが狼に食べられてたとかいう童話じゃなかったかしら」
 心配になったルカは、赤ずき〇ちゃんを守ってあげようと思い着地することにしました。

「赤ずき〇ちゃん!」
「どうして私の名を?」
 振り向いた赤ず〇んちゃんはカイルを見るなり、
「一目惚れしました!もしよかったら、この近くにある魔女の喫茶店でドクロジュースでも一緒に飲みませんか?」と言いました。

 赤ずき〇ちゃんがナンパするとは~! カイルは何処へ行ってもモテまくりね! と、ルカは心の中で呟くのでした。

「そんなことしてる場合じゃないわ! おばあさんが狼に食べられてるかもしれないのよ!」
「えぇっ!?」
「急げば、おばあさんを助けられるかもしれないわ!案内して!」
「はいっ!」
 赤ずき〇ちゃんとルカとカイルはおばあさんの家へと急ぎ、着くなり強引にドアを開け中に入りました。
「「「おばあさん、大丈夫?!」」」

「助けてくれ~~!」
 居間では、おばあさんにウエスタンラリアットを食らった状態の狼が助けを求めていました。
「私を食べようなんて100年早いわっ!」
 クロスチョップからの首投げ、コブラツイスト、三角絞め、ダイビングボディーアタック、地獄突き、アッパーブロー、エルボースマッシュ、延髄斬り、卍固め、ドロップキックなどの華麗な必殺技が次々と決まり、思わず最前列で正座して見入ってしまるルカたち。

 狼の両肩が床についたのを見て、赤ずきんちゃんは立ち上がり傍へ行きました。
「ワン・ツー・スリー! おばあさんの勝利!」
 カウントをとった後、おばあさんの右腕を高く掲げます。
 思わずスタンディングオベーションを贈るルカとカイル。
「おばあさん、凄い!」

 おばあさんはドヤ顔で得意げに言いました。
「魔法で狼を焼失させることは簡単だけど、最近運動不足だったし、いっちょ揉んでやったのさ」
 狼は燃やされてたかもしれないと思うと真っ青になり、「おみそれしました~!」と、土下座したのでした。

「では、そろそろおいとまさせていただきます…」
 ヘコへコしながら狼が逃げて行こうとすると、
「ちょっと、お待ち」
 おばあさんが呼び止めました。

「私を食べようとしたのに手ぶらで帰れるとでも? あんたの持ってる物を出しな!」
「カツアゲするんですか?!」
「騎士団に通報してもいいんだよ」
「出します、出しますとも!」

 狼はチョッキのポケットに入ってる物をテーブルの上へ並べてゆきました。
 アイドル・ズンドコ48の握手券。乙女向け花占いの本。呪いの藁人形。
 もはや、どこから突っ込んでいいのか分からない状況です。

 おばあさんは、握手券と本は狼に返し、呪いの藁人形を没収しました。
「人を呪えば穴二つ。人を呪ったら、自分に呪いが返ってくるんだ。人を呪ったりしてはいけないよ」

 カツアゲからの、説教?
 狼は呆気にとられています。

 ガチャ

 その一瞬の間に、おばあさんに腕輪をはめられてしまいました。

「これは?」
「ふふふ…。それは、1日1回以上善行をしないと、所かまわず盆踊りしたくなってしまう腕輪だよ。もちろん、自分で外すことは出来ないし、悪行をしても盆踊りしてしまう腕輪なんだよ」
「そんなっ! 盆踊りなんて、もう時季外れ…いや、たとえ夏だったとしても、1人で踊るには恥ずかしい踊りじゃないか!」
「春夏秋冬、思う存分盆踊りするがいい!」
「えぇ~~っ! ツッパリ系イケメンの俺が年中1人で盆踊りなんて~っ! どんな罰ゲームだよ! あぁ~、なんてめんどくさいおばあさんを食べようとしてしまったんだ! 俺のバカバカ!」
「そんなに嘆くことはない。おまえが本当に善い狼になったら、その腕輪は自然に外れる。更生するんだよ」

「おばあさん…」
 狼はおばあさんの慈愛のこもった眼差しに心を打たれ、更生しようと思い始めました。
「おばあさん、俺、この腕輪が外れた頃、また会いに来てもいいか? おばあさんは俺のお袋に似てるんだ。度胸があって、逞しくて…」
 狼の瞳も、優しい輝きを放ち始めていました。

「いつでもおいで」
 おばあさんがにこっと笑うと、狼は「よし! 腕輪が取れるように、いっぱい良い事をするぞ~!」と、意気揚々と家を出てゆきました。

「素敵!おばあさん!」
「感動しました!」
 赤ずきんちゃんとルカとカイルがおばあさんに拍手を贈ると、おばあさんがカイルをじっと見ています。

「あの…何か?」
 なにか粗相があっただろうかと心配になるカイル。

「…めっちゃタイプじゃ」
「「「はぁ?」」」
 頬を赤らめ恥じらうおばあさんに驚くルカたち。

 花、熊、少女、老婆まで、あらゆるジャンルと幅広い年齢層の女性を、今日も虜にしてしまうカイルなのでした。
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