ルカとカイル

松石 愛弓

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ライオンのプライド

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 俺様は百獣の王、ライオン。
 今日も自慢のたてがみを風に靡かせ、颯爽と草原を闊歩する。

「キャッ♪ ライオン様よ。素敵ねぇ~♪」
「あのたてがみ、すごく雄々しいわ♪ カッコイイ」
「ハーレムを持ってるなんて羨ましいな~。男なら一度は憧れるよな~」
「すっごく喧嘩が強くて、誰も彼には勝てないらしいぞ!」

 俺様が少し歩いただけで皆が、素敵だ!カッコイイ!と褒めたたえ、憧れの視線を送ってくる。
 俺様はその視線に応えるようにカッコよくポーズを決め、乙女たちのハートを鷲掴みだ。

 しかし、ハーレムに帰ると、カッコよすぎる俺様のイメージはガラリと変貌する。

「もぉ~~! お父さん、どこほっつき歩いてたのよ! 私たちこれから狩りに行くから子守をしててって言ったでしょう!」
「そうよ! 妻が5匹、子供が12匹もいるっていうのに、散歩なんてしてる場合じゃないでしょう! 狩りに行かないんだったら子育てくらい協力しなさいよ!」
「子供たちにご飯を食べさせて、寝かしつけておくのよ!」

 という具合に、日々、妻たちにダメ出しされまくっているのだ。
 皆、ハーレムを羨ましがるが、5匹の妻に一斉にダメ出しを食らってみれば、それほど羨ましいとは思わなくなると思う。
 結婚前は、もっと大人しくて可愛いかったのに。だんだん逞しく強くなる妻たちにタジタジだ。

「「「「「「「「「「「「パパ~~!」」」」」」」」」」」」
 子供の数が多すぎて、輪唱に聞こえる。

「おお、よしよし。眠れ~よい子よ~♪」

「「「「「「「「「「「「パパ、音痴」」」」」」」」」」」」
 子供にまで、ダメ出しを食らってしまった。

「じゃあ私たち、美味しい獲物を捕まえてくるからね! 楽しみに待ってるのよ!」
 意気揚々と出かける妻たち。

 子供を抱っこして、おんぶして、尻尾をおもちゃにされている俺様は、主夫になった気分だ。
 いや、もしかして、主夫なのか? 今まで気付かなかったけど!!

 外を歩けば羨望の眼差しを受ける俺様の実生活は、絶対に他の者に知られるわけにはいかない。
 それは、百獣の王のプライドなのだ。
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