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妹のイライザは私の物ばかり欲しがりますの。
私のお気に入りのドレス、靴、小物にいたるまで。
妹は幼少の頃、体が少し弱かったこともあって(今はすこぶる元気ですわ)、親は「お姉ちゃんなんだから妹に譲ってあげなさい」って言うし。
私はいつも妹にやられっぱなしなのですわ。
「はぁ。妹は今度は私の新調したばかりのドレスを狙っているようなの。婚約者のロイド様がくださった宝石まで狙っているのよ。憂鬱で食が進まず、どんぶり飯3杯しか食べれなかったわ」
溜息と共に、どんぶりをテーブルに置くと、
「お嬢様! 貴族のお嬢様がどんぶり飯など、設定がおかしいと思います!」
すかさず侍女のメアリーが突っ込んだ。
「ですよね~」
爪楊枝でシーハーしようかと思ったがやめておく。
「せめて、焼きそばパン3個と言ってほしかった」
とメアリーが言ったので、
「その設定も、おかしいよね」
と突っ込むと、
「「ですよね~」」
思わずハモってしまった。
私たちは気が合って仕方ない。
「お嬢様! メアリーはお嬢様のために名案を思いついたのです! どこぞの怪しげな魔法使いからこれを仕入れておきました!」
メアリーは、ぐふふ♪と嬉しそうに私に綺麗な宝石を差し出した。
どこぞの怪しげな魔法使い、というワードが気にならなくもないが、私はメアリーを信用している。
「心の友よ!」
私たちは、計画が成功してもいないのに、名案の内容も聞いていないのに、成功を信じて疑わず手を取り合って浮かれた。
オレンジ色にキラキラと輝く、直径10㎝くらいの宝石。
この美しい大きな宝石を見れば、妹は必ず欲しがる。
私が自分の部屋のソファに座って宝石を眺めていると、妹がいつものように物色しに現れた。
「まぁ! お姉さま、その大きな美しい宝石はどうされたの?」
目を輝かせ、至近距離で宝石を凝視する妹。予想通りの反応だわ。
「どこぞの怪しげな魔法使い…じゃなくて、とにかく魔法使いから譲ってもらったのよ。何でも願いを叶えてくれるそうよ」
私がうっとりと宝石を見つめながらつぶやくと、
「お姉さま! 私にその宝石をちょうだい!」
私の手から奪い取ろうとする妹。
「え~? せっかく手に入れたのに~」
私がもったいぶると、ますます欲しくなるらしい。
「いいから! 私にちょうだい!」
妹が宝石を掴もうとすると、宝石は逃げるように私の掌から離れ、空中に浮かんだ。
「待て~~っ!」
〈自称・病弱〉なはずの元気な妹は、宝石を追いかけ、屋敷の外へ走って行った。
宝石は、まるで妹に後を追わせるかのように、少し空中を進んでは妹が追いつくのを待ち、捕まえられそうになると、また逃げ、気付けば妹は森の奥深くまで宝石を追いかけていた。
夢中で追いかけてきたので、帰る道も分からない。
どんどん陽は陰り、夕闇が迫ってきた。
「どうしよう…」
困っていると、宝石がピカッと大きく光り、妹にテントを与えてくれた。そして、その夜の食事も。テントの周りには魔物除けの結界まで張られている。
その日の寝床と食事がなんとかなった妹は、翌朝目覚めても、宝石を追いかけるしかなく、そのまま半年も宝石を追う旅をした。
半年後、宝石は妹を屋敷に誘導し、帰ってきた。
妹は、屋敷の庭を散歩していた私に詰め寄ると、
「お姉さま! 願いを叶えるという宝石と半年も旅をしてしまいましたわ! ダンジョンのラスボスも倒せるようになりました!」
と、笑顔で言った。
S級冒険者になっとるやないか~い!
「宝石との旅は、山を駆け、海を泳いで大変だったけど、自然の風景や、空一面の星はとても綺麗でしたわ!」
日焼けした妹は、たくましく、おおらかになったような気がした。
「私の願いは叶ったようね。ありがとう、宝石さん」
宝石にお礼を言うと、宝石は嬉しそうに空中をくるくる回った後、輝いて、消えた。
「お姉さま、あの宝石に願いをかけていたのですか?」
「そうよ。あなたが、健康な強い体になりますように、ってね」
「お姉さま!」
感激した妹は、筋肉隆々の逞しい腕で締め潰す気かと思うほど熱烈な抱擁をしてくれた。
生垣の陰でメアリーが「作戦、成功!」と万歳三唱してくれている。
あれから妹が、「私は体が弱いから」と言うことはなくなり、旅で物の無い生活に慣れたせいか、やたらと人の物を欲しがる癖も治ったのでした。
私のお気に入りのドレス、靴、小物にいたるまで。
妹は幼少の頃、体が少し弱かったこともあって(今はすこぶる元気ですわ)、親は「お姉ちゃんなんだから妹に譲ってあげなさい」って言うし。
私はいつも妹にやられっぱなしなのですわ。
「はぁ。妹は今度は私の新調したばかりのドレスを狙っているようなの。婚約者のロイド様がくださった宝石まで狙っているのよ。憂鬱で食が進まず、どんぶり飯3杯しか食べれなかったわ」
溜息と共に、どんぶりをテーブルに置くと、
「お嬢様! 貴族のお嬢様がどんぶり飯など、設定がおかしいと思います!」
すかさず侍女のメアリーが突っ込んだ。
「ですよね~」
爪楊枝でシーハーしようかと思ったがやめておく。
「せめて、焼きそばパン3個と言ってほしかった」
とメアリーが言ったので、
「その設定も、おかしいよね」
と突っ込むと、
「「ですよね~」」
思わずハモってしまった。
私たちは気が合って仕方ない。
「お嬢様! メアリーはお嬢様のために名案を思いついたのです! どこぞの怪しげな魔法使いからこれを仕入れておきました!」
メアリーは、ぐふふ♪と嬉しそうに私に綺麗な宝石を差し出した。
どこぞの怪しげな魔法使い、というワードが気にならなくもないが、私はメアリーを信用している。
「心の友よ!」
私たちは、計画が成功してもいないのに、名案の内容も聞いていないのに、成功を信じて疑わず手を取り合って浮かれた。
オレンジ色にキラキラと輝く、直径10㎝くらいの宝石。
この美しい大きな宝石を見れば、妹は必ず欲しがる。
私が自分の部屋のソファに座って宝石を眺めていると、妹がいつものように物色しに現れた。
「まぁ! お姉さま、その大きな美しい宝石はどうされたの?」
目を輝かせ、至近距離で宝石を凝視する妹。予想通りの反応だわ。
「どこぞの怪しげな魔法使い…じゃなくて、とにかく魔法使いから譲ってもらったのよ。何でも願いを叶えてくれるそうよ」
私がうっとりと宝石を見つめながらつぶやくと、
「お姉さま! 私にその宝石をちょうだい!」
私の手から奪い取ろうとする妹。
「え~? せっかく手に入れたのに~」
私がもったいぶると、ますます欲しくなるらしい。
「いいから! 私にちょうだい!」
妹が宝石を掴もうとすると、宝石は逃げるように私の掌から離れ、空中に浮かんだ。
「待て~~っ!」
〈自称・病弱〉なはずの元気な妹は、宝石を追いかけ、屋敷の外へ走って行った。
宝石は、まるで妹に後を追わせるかのように、少し空中を進んでは妹が追いつくのを待ち、捕まえられそうになると、また逃げ、気付けば妹は森の奥深くまで宝石を追いかけていた。
夢中で追いかけてきたので、帰る道も分からない。
どんどん陽は陰り、夕闇が迫ってきた。
「どうしよう…」
困っていると、宝石がピカッと大きく光り、妹にテントを与えてくれた。そして、その夜の食事も。テントの周りには魔物除けの結界まで張られている。
その日の寝床と食事がなんとかなった妹は、翌朝目覚めても、宝石を追いかけるしかなく、そのまま半年も宝石を追う旅をした。
半年後、宝石は妹を屋敷に誘導し、帰ってきた。
妹は、屋敷の庭を散歩していた私に詰め寄ると、
「お姉さま! 願いを叶えるという宝石と半年も旅をしてしまいましたわ! ダンジョンのラスボスも倒せるようになりました!」
と、笑顔で言った。
S級冒険者になっとるやないか~い!
「宝石との旅は、山を駆け、海を泳いで大変だったけど、自然の風景や、空一面の星はとても綺麗でしたわ!」
日焼けした妹は、たくましく、おおらかになったような気がした。
「私の願いは叶ったようね。ありがとう、宝石さん」
宝石にお礼を言うと、宝石は嬉しそうに空中をくるくる回った後、輝いて、消えた。
「お姉さま、あの宝石に願いをかけていたのですか?」
「そうよ。あなたが、健康な強い体になりますように、ってね」
「お姉さま!」
感激した妹は、筋肉隆々の逞しい腕で締め潰す気かと思うほど熱烈な抱擁をしてくれた。
生垣の陰でメアリーが「作戦、成功!」と万歳三唱してくれている。
あれから妹が、「私は体が弱いから」と言うことはなくなり、旅で物の無い生活に慣れたせいか、やたらと人の物を欲しがる癖も治ったのでした。
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