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4  銀狼視点

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 狼精霊の俺には愛する女性がいた。
 
 俺たちは、普段は人の姿で山に建てた家で暮らしていた。 
 
 家の周りには、ミアが植えた多種類の花がいつも幸せそうに咲いていた。

 ミアはおっちょこちょいで、明るくて、可愛くて、いつも笑ってて。俺の太陽だった。

 愛しいミアが病でこの世を去り、魂の抜け殻のようになった俺。

 彼女と暮らした部屋は思い出が多すぎて、ミアの幻影を見ては、手の届かないところへ行ってしまったミアを想って泣いた。
 
 泣いて泣いて泣いて。涙が枯れるほど泣いて。

 こんなに泣いたらミアが心配する。そう思っても、涙は止まってくれなかった。

「やっぱり私が居なきゃダメね」って笑って、やわらかなその腕でいつものように俺を抱きしめてくれよ。

 ミアがどこにも居ないなんて、俺にはどうしても受け入れられない。

 ミアは俺の体の一部みたいに、大切で、無くしちゃいけない、かけがえのない存在なんだ。

 ミアの笑顔も、ぬくもりも、楽しかった思い出も、作ってくれた料理も、忘れられない。

 気付けば、俺はミアとの温かい思い出に溢れた家を、飛び出していた。

 少し、気持ちが落ち着くまで。きっと、またここに戻ってくるから。

 ミア。それまで、少しだけ待っていてくれ。

 ミアの墓の周りにたくさんの花を植えた。ミアの好きな花を色とりどりに。ミアが寂しくならないように。

 それから、俺は旅に出た。

 野盗に絡まれたときは、悲しみをぶつけるように、鬼のように戦った。

 疲れて体が動けなくなるくらい戦いを繰り返しても、傷だらけになっても、ミアを失った悲しみを埋めることは出来なかった。

 しかし、時間が経つにつれ、薄紙を剥がすように、少しずつ悲しみはやわらいでいった。

 そんな旅を1年もすると、ミアはもう居ないのだと、やっと冷静に思えるようになってきた。

 俺の心の傷を癒せるのは、時間しかないのかもしれない。

 やっと、心の落ち着きを取り戻した俺は、ミアと暮らした家に戻ろうとしていた。

 そこへ、突然の竜巻。

 魔法で作られた大型の竜巻の中に、もみくちゃに回されている少女が見えた。

 …ミア!!

 まるで、神様が俺にミアを返してくれたのかと思うほど、ミアにそっくりな少女がそこにいた。

 俺は夢中で竜巻を受け止めた。

 ミアじゃない。ミアは俺が看取ったんだ。わかってる。彼女はミアじゃない。

 でも、ミアに生き写しの彼女に出会えたことが、奇跡のような瞬間が、とてつもなく嬉しかった。

 少女をそっと地上に降ろす。

 ライトブラウンのロングストレートの髪が風に揺れ、つぶらな瞳は俺を映し出している。
 
 …ミア。もう一度、笑ってくれ。俺のために。

 俺は、無意識に少女に近づいてゆく。

 銀狼の俺の姿に怯える少女の気持ちに気付いているのに。

 これっきり、もう会えないなんて考えられない。

 俺の中で、ミアはまだ生きているんだ。

 俺の体が少女を包み込むと、少女は気を失ってしまった。


 …すまない。
 
 せめて、君が目を覚ますまで。

 俺にミアの姿を見せてくれ。

 懐かしいミアの感触。甘い香り。

 俺は少しでも長く、この奇跡の時間が続くことを願いながら、少女のあどけない寝顔を見つめていた。

 少女は、安らかな寝息をたてて眠っている。

 俺も久し振りに、心から眠れそうな気がした。
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