4 / 17
4 銀狼視点
しおりを挟む
狼精霊の俺には愛する女性がいた。
俺たちは、普段は人の姿で山に建てた家で暮らしていた。
家の周りには、ミアが植えた多種類の花がいつも幸せそうに咲いていた。
ミアはおっちょこちょいで、明るくて、可愛くて、いつも笑ってて。俺の太陽だった。
愛しいミアが病でこの世を去り、魂の抜け殻のようになった俺。
彼女と暮らした部屋は思い出が多すぎて、ミアの幻影を見ては、手の届かないところへ行ってしまったミアを想って泣いた。
泣いて泣いて泣いて。涙が枯れるほど泣いて。
こんなに泣いたらミアが心配する。そう思っても、涙は止まってくれなかった。
「やっぱり私が居なきゃダメね」って笑って、やわらかなその腕でいつものように俺を抱きしめてくれよ。
ミアがどこにも居ないなんて、俺にはどうしても受け入れられない。
ミアは俺の体の一部みたいに、大切で、無くしちゃいけない、かけがえのない存在なんだ。
ミアの笑顔も、ぬくもりも、楽しかった思い出も、作ってくれた料理も、忘れられない。
気付けば、俺はミアとの温かい思い出に溢れた家を、飛び出していた。
少し、気持ちが落ち着くまで。きっと、またここに戻ってくるから。
ミア。それまで、少しだけ待っていてくれ。
ミアの墓の周りにたくさんの花を植えた。ミアの好きな花を色とりどりに。ミアが寂しくならないように。
それから、俺は旅に出た。
野盗に絡まれたときは、悲しみをぶつけるように、鬼のように戦った。
疲れて体が動けなくなるくらい戦いを繰り返しても、傷だらけになっても、ミアを失った悲しみを埋めることは出来なかった。
しかし、時間が経つにつれ、薄紙を剥がすように、少しずつ悲しみはやわらいでいった。
そんな旅を1年もすると、ミアはもう居ないのだと、やっと冷静に思えるようになってきた。
俺の心の傷を癒せるのは、時間しかないのかもしれない。
やっと、心の落ち着きを取り戻した俺は、ミアと暮らした家に戻ろうとしていた。
そこへ、突然の竜巻。
魔法で作られた大型の竜巻の中に、もみくちゃに回されている少女が見えた。
…ミア!!
まるで、神様が俺にミアを返してくれたのかと思うほど、ミアにそっくりな少女がそこにいた。
俺は夢中で竜巻を受け止めた。
ミアじゃない。ミアは俺が看取ったんだ。わかってる。彼女はミアじゃない。
でも、ミアに生き写しの彼女に出会えたことが、奇跡のような瞬間が、とてつもなく嬉しかった。
少女をそっと地上に降ろす。
ライトブラウンのロングストレートの髪が風に揺れ、つぶらな瞳は俺を映し出している。
…ミア。もう一度、笑ってくれ。俺のために。
俺は、無意識に少女に近づいてゆく。
銀狼の俺の姿に怯える少女の気持ちに気付いているのに。
これっきり、もう会えないなんて考えられない。
俺の中で、ミアはまだ生きているんだ。
俺の体が少女を包み込むと、少女は気を失ってしまった。
…すまない。
せめて、君が目を覚ますまで。
俺にミアの姿を見せてくれ。
懐かしいミアの感触。甘い香り。
俺は少しでも長く、この奇跡の時間が続くことを願いながら、少女のあどけない寝顔を見つめていた。
少女は、安らかな寝息をたてて眠っている。
俺も久し振りに、心から眠れそうな気がした。
俺たちは、普段は人の姿で山に建てた家で暮らしていた。
家の周りには、ミアが植えた多種類の花がいつも幸せそうに咲いていた。
ミアはおっちょこちょいで、明るくて、可愛くて、いつも笑ってて。俺の太陽だった。
愛しいミアが病でこの世を去り、魂の抜け殻のようになった俺。
彼女と暮らした部屋は思い出が多すぎて、ミアの幻影を見ては、手の届かないところへ行ってしまったミアを想って泣いた。
泣いて泣いて泣いて。涙が枯れるほど泣いて。
こんなに泣いたらミアが心配する。そう思っても、涙は止まってくれなかった。
「やっぱり私が居なきゃダメね」って笑って、やわらかなその腕でいつものように俺を抱きしめてくれよ。
ミアがどこにも居ないなんて、俺にはどうしても受け入れられない。
ミアは俺の体の一部みたいに、大切で、無くしちゃいけない、かけがえのない存在なんだ。
ミアの笑顔も、ぬくもりも、楽しかった思い出も、作ってくれた料理も、忘れられない。
気付けば、俺はミアとの温かい思い出に溢れた家を、飛び出していた。
少し、気持ちが落ち着くまで。きっと、またここに戻ってくるから。
ミア。それまで、少しだけ待っていてくれ。
ミアの墓の周りにたくさんの花を植えた。ミアの好きな花を色とりどりに。ミアが寂しくならないように。
それから、俺は旅に出た。
野盗に絡まれたときは、悲しみをぶつけるように、鬼のように戦った。
疲れて体が動けなくなるくらい戦いを繰り返しても、傷だらけになっても、ミアを失った悲しみを埋めることは出来なかった。
しかし、時間が経つにつれ、薄紙を剥がすように、少しずつ悲しみはやわらいでいった。
そんな旅を1年もすると、ミアはもう居ないのだと、やっと冷静に思えるようになってきた。
俺の心の傷を癒せるのは、時間しかないのかもしれない。
やっと、心の落ち着きを取り戻した俺は、ミアと暮らした家に戻ろうとしていた。
そこへ、突然の竜巻。
魔法で作られた大型の竜巻の中に、もみくちゃに回されている少女が見えた。
…ミア!!
まるで、神様が俺にミアを返してくれたのかと思うほど、ミアにそっくりな少女がそこにいた。
俺は夢中で竜巻を受け止めた。
ミアじゃない。ミアは俺が看取ったんだ。わかってる。彼女はミアじゃない。
でも、ミアに生き写しの彼女に出会えたことが、奇跡のような瞬間が、とてつもなく嬉しかった。
少女をそっと地上に降ろす。
ライトブラウンのロングストレートの髪が風に揺れ、つぶらな瞳は俺を映し出している。
…ミア。もう一度、笑ってくれ。俺のために。
俺は、無意識に少女に近づいてゆく。
銀狼の俺の姿に怯える少女の気持ちに気付いているのに。
これっきり、もう会えないなんて考えられない。
俺の中で、ミアはまだ生きているんだ。
俺の体が少女を包み込むと、少女は気を失ってしまった。
…すまない。
せめて、君が目を覚ますまで。
俺にミアの姿を見せてくれ。
懐かしいミアの感触。甘い香り。
俺は少しでも長く、この奇跡の時間が続くことを願いながら、少女のあどけない寝顔を見つめていた。
少女は、安らかな寝息をたてて眠っている。
俺も久し振りに、心から眠れそうな気がした。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない
金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ!
小説家になろうにも書いてます。
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる