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前世を思い出して

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 真っ暗な部屋に、透明のドームのような半円形の結界。
 絶え間なくぶつかってくる殺気の火花は、まるで空爆でも受けているような錯覚を覚える。

「こんなに頼りがいのある人なのに…前世では、年下の子供扱いばかりして、ごめんね。翔太くん…」
 僕の胸の中で、シャルルがつぶやく。

 僕はシャルルを抱きしめながら、前世を思い出していた。


 前世で、僕は父子家庭の寂しい子供だった。
 父は冷たい性格で、母に対しても思いやりがなくて、ある日突然、母は若い男と駆け落ちしてしまった。
 
 母に似た僕を疎ましく思った父は、僕に辛くあたった。
 食事を与えられないことも多く、まだ7歳の僕には辛い毎日だった。

 なんで僕は、生まれてきたんだろう。
 父さんに、こんなに邪魔にされるのに。
 母さんにも捨てられ、誰も僕を愛してくれないのに。
 悲しみに暮れる日々が続いた。

 そんなある日、近所に住んでいた莉奈が僕に声をかけてくれた。

『翔太くん。私、クッキーを焼いてみたの。一緒に食べない?』

 がりがりに痩せている僕を心配してくれたんだと思った。
 両親も親戚も、心配してくれないっていうのに…。

 僕は莉奈の優しい手に引かれて、莉奈の家にお邪魔した。
 莉奈のおばあちゃんも、僕に優しくしてくれた。

 甘いものが好きで、食べることが好きな莉奈は、ぽっちゃりと太っていた。
 そのせいか、あまり美人とは思えなかったけど、莉奈はいつも優しくて、莉奈といると冷え切った僕の心が温まってくるようだった。

 莉奈は僕にお菓子以外にも、オムライスやスパゲティ、カレーなどを作ってくれた。
 一緒におにぎりを握ったりもした。
 莉奈が居てくれたから、あの辛い子供時代を乗り切れたんだ。

 莉奈が大学を出て一人暮らしを始めても、僕は彼女のアパートへ通った。
 僕たちは姉弟のようにはしゃいで、楽しい時間を過ごしていた。

 高校生になって初めてアルバイトをしたバイト料で、莉奈にプレゼントを買った。
 莉奈の薬指のサイズにぴったりの可愛い指輪。小さな宝石が輝いていた。
 
 僕が大人になるまで、莉奈にプロポーズできるようになるまで待っていてほしい。
 そんな願いを込めた指輪だった。
 でも、莉奈は受け取ってはくれなかった。
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