1 / 24
望まない婚約
しおりを挟む 王太子殿下の婚約者に選ばれてから、公爵令嬢シャルル・フォン・ノアイユの日常は変わった。
ヒュン、ヒュンッ!!
魔法学校の通路を歩けば、呪いの矢がシャルルに向かって飛んでくるし、
ガッシャーン!!
頭上から、花瓶が落ちてくることもある。
反射神経がそこそこのシャルルは、毎日なんとか避けていたが、さすがに心は疲弊していた。
艶やかなロングウェーブの金髪。群青色のつぶらな瞳をした美少女シャルルは、前世は日本の社畜OLだったが、事件に巻き込まれ亡くなり、この異世界に転生した。
前世は平凡デブな容姿だったが、異世界転生した姿は美しかったので浮かれていたが、こんな人生の落とし穴が待っていようとは予想もしていなかった。
スターナ王国王妃、王太子殿下の母君が、シャルルの家柄や容姿、優秀な学業成績を気に入り、シャルルの父に直々に婚約の話をされた。
シャルルは気が進まなかったが、王族の申し出を断るなど公爵家に出来るはずもなかった。
しかし、シャルルは王太子殿下に、これっぽっちも魅力を感じていない。
金髪碧眼で眉目秀麗な王太子殿下は、無類の女好き。
甘い言葉や思わせぶりな態度でメロメロにした令嬢が山のようにいるのだ。
なりゆきで王太子殿下の婚約者になってしまったシャルルには、殿下を愛する令嬢たちからの嫉妬や嫌がらせに耐える日々が始まった。
このスターナ王国では、13歳~16歳の3年間、魔法学校へ通うことが義務づけられている。
15歳のシャルルは、こんな嫌がらせの日々も卒業するまでと自分に言い聞かせて耐えていた。
しかし、好きでもない婚約者のために耐えなければならないことに釈然としない気持ちもあった。
もう2週間もこんな状態が続いているのに、王太子殿下はシャルルを守ろうともしてくれない。
愛しても、愛されてもいない。
将来、殿下と結婚しても、きっと幸せにはなれないだろう。
側妃や妾がたくさんいて、寂しい思いをさせられるような気がする。
そして、それを咎めることも許されないのだ。
「婚約破棄したい…」
シャルルは切実に願っていた。
王位継承者第一位の王太子殿下と結婚すれば、ゆくゆくは王妃となり、女性最高の地位を手に入れることができるだろう。
しかし、そんな名誉よりも、シャルルは愛し合える人と愛情を育んで生きていきたいと思っていた。
絶望感に襲われた心に隙が出来た、その瞬間――
ズザザザザァッ!!
大きな落とし穴に、引きずり込まれるように落ちていた。
深さは3メートルほどだ。落とし穴の外からは、嘲笑が聞こえてくる。
「もう、穏やかな日々は戻ってこないのかしら…」
穴の外に出る気持ちにもなれず、うずくまってしまう。
その時。
「キャーーーーーーッ!!」
穴の外で、女生徒たちの悲鳴が聞こえた。
気になって、落とし穴からなんとか這い出ると、穴のすぐそばに立っていたのは、同じクラスのサファーロ・フォン・ペリゴールだった。
端正な横顔にサラサラの短い銀髪が風に靡いて、涼しげな翡翠色の瞳は縛り上げた少女たちを睨んでいた。
「嫌がらせもいいかげんにしろ! 君たちがやったことは録画してある。学校関係者や保護者、王太子殿下に見ていただく。猛省して処分を待て!」
「え~~っ!そんなぁ!」
「どこに録画してるのよ!消去してやる!」
「私たちを縛り上げてただですむとでも思ってるの!」
怒号が飛び交う中、サファーロは振り返り、シャルルのドレスに付いた土汚れを魔法で綺麗にした。
シャルルの前に跪き、「お怪我はありませんか?」と心配して尋ねてくれる。
傷付いた心に、小さな優しい灯がともり、シャルルは泣いてしまいそうだった。
「シャルル嬢、殿下に会いに行きましょう」
その言葉に、シャルルは力強く頷いた。
ヒュン、ヒュンッ!!
魔法学校の通路を歩けば、呪いの矢がシャルルに向かって飛んでくるし、
ガッシャーン!!
頭上から、花瓶が落ちてくることもある。
反射神経がそこそこのシャルルは、毎日なんとか避けていたが、さすがに心は疲弊していた。
艶やかなロングウェーブの金髪。群青色のつぶらな瞳をした美少女シャルルは、前世は日本の社畜OLだったが、事件に巻き込まれ亡くなり、この異世界に転生した。
前世は平凡デブな容姿だったが、異世界転生した姿は美しかったので浮かれていたが、こんな人生の落とし穴が待っていようとは予想もしていなかった。
スターナ王国王妃、王太子殿下の母君が、シャルルの家柄や容姿、優秀な学業成績を気に入り、シャルルの父に直々に婚約の話をされた。
シャルルは気が進まなかったが、王族の申し出を断るなど公爵家に出来るはずもなかった。
しかし、シャルルは王太子殿下に、これっぽっちも魅力を感じていない。
金髪碧眼で眉目秀麗な王太子殿下は、無類の女好き。
甘い言葉や思わせぶりな態度でメロメロにした令嬢が山のようにいるのだ。
なりゆきで王太子殿下の婚約者になってしまったシャルルには、殿下を愛する令嬢たちからの嫉妬や嫌がらせに耐える日々が始まった。
このスターナ王国では、13歳~16歳の3年間、魔法学校へ通うことが義務づけられている。
15歳のシャルルは、こんな嫌がらせの日々も卒業するまでと自分に言い聞かせて耐えていた。
しかし、好きでもない婚約者のために耐えなければならないことに釈然としない気持ちもあった。
もう2週間もこんな状態が続いているのに、王太子殿下はシャルルを守ろうともしてくれない。
愛しても、愛されてもいない。
将来、殿下と結婚しても、きっと幸せにはなれないだろう。
側妃や妾がたくさんいて、寂しい思いをさせられるような気がする。
そして、それを咎めることも許されないのだ。
「婚約破棄したい…」
シャルルは切実に願っていた。
王位継承者第一位の王太子殿下と結婚すれば、ゆくゆくは王妃となり、女性最高の地位を手に入れることができるだろう。
しかし、そんな名誉よりも、シャルルは愛し合える人と愛情を育んで生きていきたいと思っていた。
絶望感に襲われた心に隙が出来た、その瞬間――
ズザザザザァッ!!
大きな落とし穴に、引きずり込まれるように落ちていた。
深さは3メートルほどだ。落とし穴の外からは、嘲笑が聞こえてくる。
「もう、穏やかな日々は戻ってこないのかしら…」
穴の外に出る気持ちにもなれず、うずくまってしまう。
その時。
「キャーーーーーーッ!!」
穴の外で、女生徒たちの悲鳴が聞こえた。
気になって、落とし穴からなんとか這い出ると、穴のすぐそばに立っていたのは、同じクラスのサファーロ・フォン・ペリゴールだった。
端正な横顔にサラサラの短い銀髪が風に靡いて、涼しげな翡翠色の瞳は縛り上げた少女たちを睨んでいた。
「嫌がらせもいいかげんにしろ! 君たちがやったことは録画してある。学校関係者や保護者、王太子殿下に見ていただく。猛省して処分を待て!」
「え~~っ!そんなぁ!」
「どこに録画してるのよ!消去してやる!」
「私たちを縛り上げてただですむとでも思ってるの!」
怒号が飛び交う中、サファーロは振り返り、シャルルのドレスに付いた土汚れを魔法で綺麗にした。
シャルルの前に跪き、「お怪我はありませんか?」と心配して尋ねてくれる。
傷付いた心に、小さな優しい灯がともり、シャルルは泣いてしまいそうだった。
「シャルル嬢、殿下に会いに行きましょう」
その言葉に、シャルルは力強く頷いた。
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜
みおな
恋愛
転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?
だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!
これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?
私ってモブですよね?
さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
いつかの空を見る日まで
たつみ
恋愛
皇命により皇太子の婚約者となったカサンドラ。皇太子は彼女に無関心だったが、彼女も皇太子には無関心。婚姻する気なんてさらさらなく、逃げることだけ考えている。忠実な従僕と逃げる準備を進めていたのだが、不用意にも、皇太子の彼女に対する好感度を上げてしまい、執着されるはめに。複雑な事情がある彼女に、逃亡中止は有り得ない。生きるも死ぬもどうでもいいが、皇宮にだけはいたくないと、従僕と2人、ついに逃亡を決行するのだが。
------------
復讐、逆転ものではありませんので、それをご期待のかたはご注意ください。
悲しい内容が苦手というかたは、特にご注意ください。
中世・近世の欧風な雰囲気ですが、それっぽいだけです。
どんな展開でも、どんと来いなかた向けかもしれません。
(うわあ…ぇう~…がはっ…ぇえぇ~…となるところもあります)
他サイトでも掲載しています。
【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから
gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる