上 下
15 / 17

15

しおりを挟む
 ルナリスとカイン王子を乗せた馬車は軽やかに風を切って走った。

 エドワーナ王国へと向かう道すがら、馬車の窓からドレス専門店を見かけたルナリスは、馬車を止めてもらい、急いで既製品のドレスとアクセサリーと靴を購入。店員にヘアメイクと着替えを手伝ってもらい、なんとか体裁を整えることができた。

 可憐なドレス姿のルナリスが店の奥から現れると、店先で待っていたカイン王子は感嘆のため息を漏らした。

「僕のために綺麗に着飾ってくれたんだね……」

 感涙するカイン王子に、側近セバスがティッシュを箱ごと差し出した。

「今からこれでは、結婚式はどうなることやら」

 もらい泣きしながらセバスが言うと、

「……たくさんティッシュを用意しておいてくれ」

「畏まりました」

 忘れないようにと早速メモメモするセバスだった。



 エドワーナ王国へ到着すると、城門の中では大勢の騎士や侍女たちがずらりと並び、ルナリスを歓迎した。

 どうやら、セバスが送信したカイン王子のプロポーズ映像は〈感動を皆で分かち合おう!〉という陛下のスローガンのもとに、王宮に勤める全ての者を集め大広間で大鑑賞会を開催した模様。騎士や使用人たちは、熱い感動の涙を流した。

 城門からエントランスホールまでの長い道中、カイン王子とルナリスに祝福の声援が飛び交い、大きな拍手に包まれ、まるで婚礼パレードのように盛り上がった。

 馬車から降りると、レッドカーペットが敷かれていた。
 市場の特売ワンピースを着替えることができて本当によかったと冷や汗を流すルナリス。嬉しそうなカイン王子に優しくエスコートされ、国王陛下と王妃様に挨拶へ向かった。

 国王夫妻は、カインが何年も想い続けた令嬢に会えたと大喜びし、その夜はルナリスの歓迎パーティーが催され、結婚の話もトントン拍子に進み、ルナリスは花嫁修業という形で結婚式までの間もそのまま王宮で暮らすこととなった。

 豪奢な白亜の宮殿に、芸術的な調度品がそこかしこに飾られ、すべてが優雅で美しい。国王夫妻やカイン王子の兄上もとても優しい方々だった。広大な庭には様々な花が咲き乱れ、豪華な噴水は清らかな水飛沫を上げている。毎日、大勢の優しい侍女たちがかいがいしく気遣ってくれた。

 ルナリスは、穏やかに流れるゆったりとした日々に、カイン王子に愛される幸せに浸っていた。

 もう、悪夢にうなされることもなくなっていた。

 そんなある日、ルナリス宛てにネイル王子から手紙が届いた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無実の罪で処刑されかけた元公爵令嬢は、絶体絶命の国王を守る為戦う事を決めました

Karamimi
恋愛
魔力大陸でもあるゾマー帝国の公爵令嬢として、何不自由ない暮らしをしていたシャーロット。父や兄から愛され、婚約者の王太子には溺愛されていた。さらに、魔力量帝国一のシャーロットは、皆から一目置かれる存在。 何もかも順調な日々を送っていたシャーロットの幸せをぶち壊したのは、聖女と名乗る男爵令嬢エミリーだった。 そもそも聖女なんてこの国に存在しないんですけれど… そう思ったのだが、怪しい魔術で王太子や家族を次々に虜にしてくエミリー。 シャーロットは無実の罪で捉えられてしまった。明日は公開処刑の日。腕には魔力を無力化するリングが付けられている。 どうせ明日みじめったらしく死ぬのなら、今私の全魔力を開放して死んでやる。そう思い魔力を開放したのだが! 目覚めると、魔力のない国に瞬間移動していた。そんなシャーロットを助けてくれたのは、若き国王アイランと、その妹のオルビアだった。2人の優しさに触れ、平穏な日々を取り戻すシャーロット。 しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。かつて最弱国だった隣国が聖女というもの凄い力を持った女性を手に入れ、次々と周りの国を制圧しているとのこと。次はいよいよこの国の番。絶対絶命、滅亡寸前なんだとか! 何、聖女だと!!!私、聖女って大っ嫌いなのよね! よし、決めた。一度失いかけたこの命、大好きなこの国の為、そして何よりアイラン様とオルビア様の為に、その聖女という女と戦ってやろうじゃないの! 物凄い魔力量を持ったシャーロットの戦いが今始まる!

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄されたのだが、上司がチートでツラい。

藤宮
恋愛
「ローズ・イスパハン。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのような賤きものを我が皇家に迎え入れるわけにはいかぬッ!、よってここにアロー皇国皇子イヴァン・セネガル・アローとイスパハン子爵家令嬢ローズ・イスパハンの婚約を破棄する! そして新たに、この可憐なるカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を此処に宣言する!」 …実験的に、婚約破棄モノ、ちょっとやってみたかった。 あんまり、ざまぁ感がない…

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

処理中です...