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シシオさんとシシ子さん その1

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「拝啓 寒冷の候、シシ子さんにおかれましては……う~む。固いな~」

 あ~でもない、こ~でもないと、青年イノシシのシシオさんが書いているのは、幼馴染のシシ子さんに宛てたラブレター。

 良い文章が書けるかもと昔の小説家を真似て?和室に着物姿で小さな木製の机の前に座り、書き書きしている模様です。

「シシ子さんにおかれましては、つつがなくお暮しのことと存じ上げたてまつり……あぁっ、これもちょっとなぁ~!」

 くしゃくしゃっと失敗作を丸めては後ろにポイと投げ、いつの間にか8畳の部屋は丸めて投げた紙が山のように積みあがっていました。そして、今丸めて投げた1個が、崩れる決定打となったようです。

 グラッ!
 ドドドド~~~ッ!!

「うわ~~っ! 紙の波が押し寄せてくるぅ~~っ!」

 丸めた紙に埋もれながら必死で犬かき(猪かき?)をして紙の中を泳ぐシシオさん!

「ぷは~~っ! まさか自分が丸めた紙の雪崩に遭うとは! 机も埋まってしまったし、このへんで手を打とう!」

 シシオさんは丸めてなかった手紙を咥えて紙の中を泳ぐように移動し、外へ出ると郵便ポストへと急ぎました。しかし、

「が~ん! 今日の郵便物の回収時間が終わっている! やはり丸めた紙の中を泳ぐときに、イノシシかきをしたのが失敗だったのか? クロールにしておけば、もう少し速く泳げたかもしれなかったのに……くうぅっ!」

 クロールで僅かな時間短縮をするよりも、もっと速く手紙を書き終えていたら回収時間に間に合ったかもしれないシシオさんなのでした。


「どうしたんだい? シシオくん」

 そこへ、偶然通りかかったヤギのヤギ彦さんが声をかけました。

「ヤギ彦くん、聞いてくれ! 実はかくかくしかじかでねぇ~!」

「なるほど~!」

 あっという間に意思疎通してしまう親友のふたり。

「それなら、今から僕がシシ子さんの家のポストに届けてあげるよ。ちょうど帰るところだったし、シシ子さんは僕の家の近所だしね」

 ニコニコ笑いながら恋のキューピッド役を申し出るヤギ彦さんに、シシオさんはとても感動しました。

「ヤギ彦くん、いいのかい?」

 がしっとヤギ彦さんの手を握るシシオさんはとても熱い男なのでした。

「もちろんさ!シシオくん。一生懸命書いた手紙を、少しでも速く届けたいよね」

 ほんわかとした優しい雰囲気で微笑むヤギ彦さんの好意に、シシオさんは甘えることにしました。

 ヤギ彦さんに手紙を託すと、シシオさんは満足そうに去ってゆくのでした。

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