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カイルの編み物 後編

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 そのころ、瞬間移動したカイルは人気のない洞窟の中にいました。

 魔法で10㎝くらいの光球を数十個出して周囲に浮かべ辺りを照らすと、もくもくと編み物の続きを始めました。

 真っ暗な洞窟の一部分が急に明るくなったので、なんだなんだと洞窟で暮らしている30㎝くらいの背丈の怪獣の子供たちが集まってきました。コロコロと太って、小さな上向きの尻尾がとても可愛いです。

「カイルくん、何を編んでるの?」
 怪獣の子供たちに訊かれ、

「好きな女の子にマフラーを編んでるんだ。魔法でパッと作ることもできるけど、ひと目ひと目、愛を込めて編みたいんだよね」
 のろけ全開のカイル。

「ルカちゃん、愛されてるね~」
 もう慣れっこの子供たち。

「サプライズで渡したいから家で編めなくてさ。外で編んでたらなぜかマラソン大会がはじまっちゃうし、静かな洞窟で編んでるんだ」
 カイルは雪の結晶模様入りのマフラーを編んでいるようです。

「そういえば、ゴールはポンポコ山の頂上らしいね。さっき、カイルくんを探してる様子のルカちゃんを見かけたけど、マラソンする動物たちや怪物たちに押し流されながら、そのまま一緒に走って行ったよ」

「流されるよね~」
「どこまでもね~」
 カイルと子供たちはうんうんと頷き合いました。

「カイルくん、この光る球で遊んでもいい?」
「いいよ。柔らかいし、ボールみたいに跳ねるんだ」
「「「わ~い!」」」

 光球でボール遊びをし始めた怪獣の子供たち。
 洞窟の天井が高いので、バレーボールを始めたようです。

「アタック!」
 バシィッ!
「うぉっ!」
 光球は数十個もあるので、洞窟の壁に跳ね返ったボールが編み物中のカイルにも飛んできます。

「天井サーブ!」
「回転レシーブ!」
「消える魔球!」
「光球に炎を吹きかけて飛ばすと、火の玉ストレートになるんだよ♪」←熱いよ!
 白熱してゆく怪獣バレーボール!

 カイルは飛んでくる幾つもの剛速球の光球を避けるため、壁や天井を走りながら大急ぎでマフラーを編み上げたのでした。

「手編みのマフラーを編むのって、大変だ!」
 なにわともあれ、カイルは完成させたマフラーを抱えポンポコ山に向かって飛びました。

 ポンポコ山の頂上では、続々と動物や妖怪や怪獣がゴールしていました。
 大勢が走っている中にルカの姿を見つけると、

「ルカ~~!」
 カイルは笑顔で手を振り叫びました。

「カイル~~!」
 ゴールにいるカイルに向かって走るルカ。

 そのルカを受け止めるように、手編みの大きな長いマフラーを広げて包むこむように抱きしめるカイル。

「これを…編んでたの?」
 ぜいぜいと息切れしながら、カイルを見つめるルカ。

「暖かい? ふたりで巻きたくて」
 カイルはルカと自分の首にくるくると手編みのマフラーを巻きました。2人用なので、とても長いマフラーです。

「あったかい…」
 寒い山道を走った後の、カイルとマフラーの暖かさにまどろんでしまうルカ。
「よかった」
 カイルは満足そうに微笑むと、ルカをお姫様抱っこして空を飛んでゆきました。

 それを見ていたカイルファン御一行。
「カイルくんが編んでたの、私のまわしじゃなかったのね」
「私のパ〇ツでもなかったのね」
「私のももひきでも」
「あたりまえでしょ!」
「えっ?気づいてたの?」
「なんとなく」
「一縷の望みをかけてたのに」
「かけてたんか~い!」

 スモウブタさんたちの他愛ないノリ突っ込みを、耳をダンボにして聞いていたラグビーイノシシさんは、早速、手編みのまわしを編み始めたのでした。
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