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植物の願うこと

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 ニャロン島の浜に転移すると、ちょうどニャロンさんが砂浜を家族と散歩していた。

「ニャロンさん!」
 駆け寄って呪いを解く植物のことを説明したら、ニャロンさん一家は大喜びしてくれた。

「では、この植物の葉も花も実も効能があるそうなので、庭に植えて、毎日どれかを食べてくださいね」
「ありがとう!ルカちゃん、カイルくん!」
 
 植物をニャロンさんに手渡そうとした時、袋の中で植物が突然暴れだし、袋を破って海へと逃げた!

 まさか、植物が海へ逃亡すると思ってなかったので、茫然と見守ってしまった。
 植物の根っこが足のように素早く動いて、深海へと潜って行く。
 
「どうしよう。とりあえず潜って探さなきゃ!」
 もし植物を捕まえられても、また逃亡されるかもしれないなぁ。そう思いながらも海へと走る。

 その時、大きく海面が揺れた!
 海中から空中へ、植物が跳んだかと思うと、それを追うように10mの怪魚が海中から口を大きく開けてジャンプした。
 どうやら、植物は魚のふりをして泳ぎ、自分を餌に怪魚を釣ろうとしてるみたい。大胆な釣りだなぁ。

 植物は空中で怪魚を振り返り、大きな口を開けて、ジャンプしてきた怪魚を飲み込み始めた。
 怪魚は意外な展開に慌てているが、植物の吸引力に逆らえないみたいだ。

 ンゴッ、ンゴッ、ンゴッ、ゴキュッ、ゴキュッ、ゴキュッ、プハ~~ッ!

 植物は蛇が鶏を飲み込むように、ものすごく広がった口で大きな怪魚をごくんごくんと飲み込んでいく。消化がすごく早いのか、体の大きさはあまり変わっていない。

 捕食の瞬間って、えぐいなぁ。
 ホオジロザメと大王イカとの出会いで耐性ができたのか、じっくりと見てしまった。
 ニャロンさん一家はビビりまくっている。
 庭に植える前で、よかった。みなさんが捕食されたら気の毒過ぎる。

 そう思っていたら、植物は怪魚を食べて満腹になったのか、意外にも海から私たちのもとへと歩いて戻ってきた。
 ニャロンさんの前で座り込む。

 ニャロンさんの家に行くつもりなのかな?
 しばし見つめ合う、ニャロンさんと植物。植物だけに、顔色が読めないわ。

「…怪魚を一飲みにする植物の世話、わしに出来るかニャ~…」
 魔法が使えなくなっているニャロンさんが小さく本音を漏らした。無理もない。今度は自分が丸飲みにされるかもしれないのだから。

「持って帰りますよ!」
 そう言うしかない状況だと思った。
 魔力封じの呪いを解く前に捕食されては意味がない。

「いっ、いや、せっかくの御厚意、あっあっありがたくお受けするニャッ!」
 ニャロンさんのあんよが震えている。

「無理しなくていいんですよ! やせ我慢しないで」
「無理なんてしてないニャ~!」
 超ガクブルしてる義理堅いニャロンさん。冷汗が滝汗だ。
 気の毒なことをしてしまった。こんなはずでは…。

 この植物はなんとかして連れて帰らないと。
 そう思っていたら、植物の体がどんどん大きくなってきた。
 怪魚の栄養が回ってきたのか、枝が伸び、花が咲き、実がたくさん成ってきた。消化吸収が早過ぎる!
 目の前でどんどん大きく成長し、熟した実が、ニャロンさんの足元にたくさん落ちた。

「ニャロンさん、拾いましょう!」
「ニャッ!」
 みんなで急いで拾い集める。
 植物は枝を上下に揺さぶり、熟した実を次々と落としてくる。
 大きなザルに3杯も実を収穫できた。

 そして植物は、『これだけあれば充分でしょ?』と言っているみたいに、海へ入っていった。
 ずっと、山の畑で窮屈だったから、自由に動き回りたかったのかな?
 植物は海から楽しそうに手を振ったあと、魚のようにしなやかに泳いで消えた。
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