上 下
36 / 103

スイーツハーレム

しおりを挟む
 地図を見ながらアイス山の上を飛んでいると、神社らしき赤い建物が見えてきた。

「カイル、あの建物じゃないかしら?」
「行ってみよう」

 伝統的なデザインの古い建物の前に降り立った。

「あら? どこから来たの?」
 振り向くと、大きな白い鹿さんが私たちを見ていた。

「森の泉の近くの村から来たんです。ここは厄除けの神社ですか?」
「違うわよ。神社は、この近く。その細い石段を上がったところよ」

 どうやら、山の上のポ〇ンと一軒家じゃなくて、ご近所だったらしい。

「道を教えてくれてありがとう。行ってきます」
「気を付けてね」
 親切な白い鹿さんは、山の木々の中へと消えていった。

 アイス山のヒンヤリした空気の中、息が白く煙る。
 カイルが手をつないでくれて、冷たい手が少し暖かくなってきた。

 石の細長い階段を100段ほど上がると、本殿のような大きな建物と広い庭園に出た。
 不思議な植物たちが、うようよと蠢いている畑が見える。

「まずはお祈りしようか」
「うん」

 賽銭箱にお賽銭をして、手を合わせる。
 ニャロンさんの魔力封じの呪いが解けるようにと、レオンさん一家の健康と幸福を願う。

 境内を歩いていると、神主さんらしき服装の人に出会えた。
「参拝してくれたのかい。人が来てくれるのは久し振りじゃ」
 にこにこと優しそうで上品そうな神主さんだ。

「あの…呪いを解く植物を分けてもらえるって聞いて来たのですが…」
「何の呪いだい?」
「魔力封じの呪いです」
「なるほど。こっちへおいで」

 神主さんは多種類の不思議な植物が植えられている畑へ連れて行ってくれた。

「あの…この木の実、お菓子みたいに見えるんですけど…」
 2mくらいの高さの細長い木の枝に、お饅頭みたいな実がたくさん成っていた。

「ああ、わしは甘党でな。饅頭の木があると便利なのじゃ。饅頭屋に行く手間が省けるからのぅ」
 とても饅頭の木を可愛がっているのか、木が神主さんにじゃれついて甘えている。木の頭を撫でてあげる神主さん。
「可愛いのぅ♪」

 すると、隣のケーキの木が焼きもちを焼いて、枝で神主さんの服の袖をツンツンとつつきだした。
「そんなに焼かんでも、おまえも可愛いと思っとるよ♪」

 すると、その隣のクッキーの木が私も私もと神主さんの腕に枝を絡め、その隣のシュークリームの木が焼きもちをやいていやんいやんと嫉妬の舞を始めてしまった。

 よく見ると、40種類くらいのスイーツの木が植えられていて、みんな神主さんが大好きなようで、毎日スイーツ食べ放題天国のようである。

「神主さんのスイーツハーレムですね」
「毎日、モテモテじゃ♪ 今はマロンケーキが食べ頃なのじゃ。お食べ」
「わぁっ。ありがとうございます!」

 私とカイルは手のひらサイズの完熟マロンケーキをごちそうになった。
「「おいしぃ~♪」」
「やはり完熟スイーツは美味しいのぅ♪」
 神主さんは、果実汁の木の蛇口をひねってコップに注いできてくれた。
「果実汁も完熟味ですね」
「もちろんじゃ!」

 畑には、いろいろな野菜や果物も成っているし、水の木もあった。
「山の上でも、自給自足できますね?」
「うむ。今のところ不自由は感じないのぅ」
 美味しいケーキと果実汁で、まったりしてしまう。

「ルカ、お腹すいた。お弁当が食べたい」
 スイーツ畑を見てたら、カイルのお腹がすいてきたらしい。

「ここで食べていいですか?」
「いいよ」
 神主さんは快諾してくれた、

「よかったら、神主さんもどうぞ」
 前回、山でゴリラさんにお弁当をとられた教訓で、1つ多めにお弁当を持ってきていたのだ。

「いいのか? 手作り弁当か、うまそうじゃのぉ~♪ お茶の木からお茶を汲んでこよう」
 何でもある畑だなぁ。なんか生活道具が成ってる木まであるし。

 畑の中にある木のテーブルで私たちは昼食を楽しんだ。
 あ~、満腹♪

「ところで、肝心の呪いを解く植物というのは…」
「おおっ、すっかり忘れておった!」
 そんな気がしておりました…。

「これじゃ! 多分…」
 多分じゃ困るんですけど~!

「いや…これかな…?」
「神主さん、間違えないでくださいよ。お願いしますよ!」

「最近、スイーツの植物ばかり構っておったものじゃから…すまんのぉ~。あっ、これじゃ!立札を付けておいて良かったわい」
 神主さんに構われなかったせいか、呪いを解く植物がいじけている。

「そんなに拗ねるな。元気モリモリ液をやるから機嫌を直してくれ」
 神主さんが元気モリモリ液をかけてあげると、拗ねていた植物がイキイキとしてきた。神主さんの愛が欲しかったんだね。

「では、この植物を分けていただけますか? おいくらでしょうか?」
 呪いを解く植物は、7色の花を咲かせ、たくさんの実をつけていた。

「さっき、美味しい弁当をいただいたからのぅ。これはお嬢ちゃんにあげよう。呪いを解くのに葉も花も実も効能がある。毎日食べるように」
 神主さんは、呪いを解く植物を一株、袋に入れてくれた。

「いいんですか? ありがとうございます!」
 植物を受け取った帰りにお賽銭箱に多めのお賽銭をして、カイルと私は山を下りた。

「ニャロンさん、喜んでくれるかな?」
「きっと喜んでくれるよ!」
「だといいね♪」

 私たちはそのままニャロン島へと飛んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

〈とりあえずまた〆〉婚約破棄? ちょうどいいですわ、断罪の場には。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
辺境伯令嬢バルバラ・ザクセットは、第一王子セインの誕生パーティの場で婚約破棄を言い渡された。 だがその途端周囲がざわめき、空気が変わる。 父王も王妃も絶望にへたりこみ、セインの母第三側妃は彼の頬を打ち叱責した後、毒をもって自害する。 そしてバルバラは皇帝の代理人として、パーティ自体をチェイルト王家自体に対する裁判の場に変えるのだった。 番外編1……裁判となった事件の裏側を、その首謀者三人のうちの一人カイシャル・セルーメ視点であちこち移動しながら30年くらいのスパンで描いています。シリアス。 番外編2……マリウラ視点のその後。もう絶対に関わりにならないと思っていたはずの人々が何故か自分のところに相談しにやってくるという。お気楽話。 番外編3……辺境伯令嬢バルバラの動きを、彼女の本当の婚約者で護衛騎士のシェイデンの視点から見た話。番外1の少し後の部分も入ってます。 *カテゴリが恋愛にしてありますが本編においては恋愛要素は薄いです。 *むしろ恋愛は番外編の方に集中しました。 3/31 番外の番外「円盤太陽杯優勝者の供述」短期連載です。 恋愛大賞にひっかからなかったこともあり、カテゴリを変更しました。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

他人の人生押し付けられたけど自由に生きます

鳥類
ファンタジー
『辛い人生なんて冗談じゃ無いわ! 楽に生きたいの!』 開いた扉の向こうから聞こえた怒声、訳のわからないままに奪われた私のカード、そして押し付けられた黒いカード…。 よくわからないまま試練の多い人生を押し付けられた私が、うすらぼんやり残る前世の記憶とともに、それなりに努力しながら生きていく話。 ※注意事項※ 幼児虐待表現があります。ご不快に感じる方は開くのをおやめください。

処理中です...