君と、もみじ

Mari

文字の大きさ
上 下
28 / 29
最終章

一年越しの告白

しおりを挟む
千夏に引き止められながらも、体育館二階のドアに歩を進めていると…

「俺が、連れてきてほしいって千夏先輩にお願いしたんだよ…」
「っ…!」
いつの間にか、体育館の二階に上がってきていたのは、久しぶりに見る響だった。


「…響」
「ひでぇよなぁ。何度電話しても出てくれないし、奏ちゃん、あからさまに俺のこと避けてんだもん」
「…ごめ…」
避けていたわけではないが、響にそう言われると〝避けていない〟とも言い切れない。

千夏はポンと私の背中を押すと、にかっと笑って体育館を出ていってしまった。

二人っきりにしないでぇぇぇっ!
と叫びたかったが時は既に遅し…。


顔を上げられないでいる私に、響が近付く。
身を強張らせた私の手を取ると、もみじの葉をふわりと乗せた。

「一年前一緒に帰ったあの日、俺がなんて言おうとしたか分かる?」
「え…?」
首を横に振る私に、響は続ける。
「何か言い掛けたことさえ、もう忘れちゃってるか…」
「…」
必死に思い出そうとするが、陽菜と途中で遭遇したことしか思い出せない。
「卒業式の日も、教室で言い掛けた」

あ…
腕を掴まれて…

「俺は、奏ちゃんが好きだ。って言おうとした」

ドクン…
心臓が大きく音を立てて暴れ始めた…


「一緒に帰ったあの日、それを言い掛けて陽菜に呼び止められた時、これじゃあ俺、奏ちゃんを傷付けた小林先輩と一緒じゃんって思った」
頭の中がパニックで、響が何を言っているのか半分分からなくなる。
「卒業式の日も、筋通さなきゃって気持ちが邪魔をして言えなかった」
「筋…?」
響の言葉が、何を示しているのか検討もつかないまま俯いて聞いていた。
「奏ちゃんに避けられてるかもって気付いたけど、俺には何も言う資格ないなって…」

駄目だ…涙が零れ落ちそう。


「…陽菜と、ちゃんと別れるまで」
その言葉に、私は顔を上げる。
響は、苦笑いで話を続けた。

「あの頃、俺はもう陽菜に別れ話をしてた。奏ちゃんの卒業までにケリつけるつもりだった」
「…え?」
「結局、卒業式には間に合わなかったけど、陽菜とちゃんと別れたよ。分かってもらえた。でも、奏ちゃん電話取ってくんないし…。だから、千夏先輩にお願いして連れてきてもらった」
「…」
涙でいっぱいの目に、響がボヤけて映る。
「ずっと好きだった。この高校に入ったのも、奏ちゃんが居たからだし、なのに既に小林先輩と付き合ってて、諦めなきゃって、何度も忘れようとした」

思考回路が停止したかのように、響の話に頭が追い付かない。

「そんなの、言ってくれなきゃ分かんない」
「うん」
「姉弟みたいだって、姉ちゃんみたいだって…」
「うん。そう言い聞かせてた」
私はバカだ。
そう言い聞かせて諦めようとしていたのは私なのに。


「…響が、…好き」
涙と一緒に、とうとう抑え続けてきた気持ちが溢れ出す。

歪んだ視界の中で、響との距離が縮まった瞬間…
私は響にぎゅっと抱きしめられていた。
優しいぬくもりに、身体の力が抜けていく。

「言ったでしょ。青い若々しい葉より、もみじの方が好きだって。もみじは俺にとって、奏ちゃんのイメージだったから」
「…寄せ書きにも書いてあった」
「うん」
「…若々しくないって言いたい?嫌味…?」
泣きながら、最大限の照れ隠し。


そっと身体を離し、一つ笑顔を見せた響は、
「最高の誉め言葉のつもりなんだけど」

そう言って、優しいキスを落とした。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

処理中です...