ポケットに隠した約束

Mari

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第五章

雪乃の嫉妬

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次の日、午前中からお客様の打ち合わせに入っていた私は、13時頃デスクに戻った。

「お疲れ様、瑞希ランチ行こ」
莉奈が声を掛けてくる。
「うん」
そう言って席を立つと、「相澤さん、ちょっと…」とサロンから顔を出した支配人がため息混じりに呼んだ。

オフィスを出ると、そこには雪乃さんが立っている。
今日は打ち合わせでも何でもない…
どうして…?

支配人が言いにくそうに言った。
「相澤さん、…担当を外してほしいそうよ」
「…え?」
「新郎様に色目を使ってるというのは、本当なの?」
「……えっ?」
一瞬、支配人が何を言っているのか理解が出来ない。

すると、雪乃が口を開いた。
「打ち合わせの度に色目を使われるのは堪えられないので、今後一切彼には会わないで頂きたいです」
「色目なんて、そんな…!」
「恋をするのは自由ですが、私の結婚相手と分かっていてプライベートで会うなんて、そんな担当者、誰が信用出来ますか?」
「…っ!」

昨日、晃平に会ったことを雪乃は知っている…
晃平に会いに言ったことは事実。
私は何も言い返すことが出来なかった。

今までとはまるで別人のような雪乃に、私はただただ困惑する…



すると、どこからかため息が聞こえてきた。

「よくそんなこと言えますね…」
オフィスのドアに背中を預けて、隼人が冷めた目で雪乃を見る。

「ちょっと市ノ瀬くん…」
支配人が止めようとするが、隼人は関係なしに言葉を続けた。
「もともとは、あんたがこいつの彼氏を奪ったんだろ。しかも結構卑怯な手で」
「…っ」
「そんなあんたと一緒になっても、晃平さんが幸せになるとは思えないけどね」
「な…なんなんですか、この人」
雪乃の表情が歪むと、支配人が頭を下げる。
「大変申し訳ございません。担当は、早急に他の者と替えさせて頂きますので…」

眉間に皺を寄せたまま「宜しくお願いします」と言って、雪乃はサロンを後にした。


「隼人いいこと言うねー」
オフィスで聞いていたらしい莉奈が、隼人を肘で突っつく。
「だって、なんかあの女むかつくし」

支配人は大きくため息をついた。
「事情があるにせよ、お客様に言って良い言葉ではありませんね、市ノ瀬くん」
一度目を伏せた隼人は、そのまま何も返さずサロンを出ていく。

「相澤さん」
「はい…」
「何があったかは知らないわ。それでも、お客様なんだから。行動には気を付けてちょうだい」
「…はい」

晃平と雪乃さんの担当は、先輩プランナーに引き継ぐことになった。


落ち込む私は、莉奈からランチに誘われカフェへと向かう。
「ねぇ、晃平くんと二人で会ったの?」
「…うん」
「あれれー?急にどうしちゃったのかなぁ?」
ニヤニヤする莉奈。
やば…こうなったらしつこいこと忘れてたー…

ランチをしながら、昨日の事のいきさつを話す。
「なんだ、晃平くん変わってないじゃん」
「え?」
「まだ瑞希のこと好きなんじゃんってこと!」
「なんでそうなるのよ…」
「あのねぇ!辛いことがあった時、一番に会いたいと思われてるってことだよ?どうでもいい人に、そんなこと思わないでしょ?」

なるほど!
と言ってしまいそうになるほどの説得力。
感心するわぁ。

「だって、雪乃さんのこと本当に好きなら、そんな日は真っ直ぐ家に帰りたいもんなんじゃないの?」
「…そうだよね」
「ねぇ、瑞希。もうさ、あそこまでされたんだから、瑞希も素直になって、晃平くん奪い返しちゃいなよ!」

突拍子もないことを言う莉奈に、苦笑いする。
またこの子は…と思いながらも、昨日の晃平との時間を思い出し、〝それも有りかも〟なんて密かに頭によぎったのだった。







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