ピーナッツバター

打上げ花火と切ない気持ち⑩

「手ぇ離せクズ野郎共」

ひよしさんの声だ。

ひよしさんが来てくれた。

僕はまた涙が溢れそうになる。

「誰だ？あんた」

男のうちの一人がひよしさんに近付いた瞬間、ひよしさんが男のみぞおちに拳をめり込ませた。

「ぐあっ…」

男は体をくの字に曲げ、その場に跪く。

残りの2人も明らかにうろたえ始めた。

ひよしさんはその2人を押しのけて、僕を守るように僕の前に来た。

「空は…、こいつは俺の恋人だ。手ぇ出したら殺すぞ！」

「ひぃっ！」

ひよしさんのあまりの迫力に男達は慌てて逃げ出してしまった。

ひよしさんはすぐ僕の方に向き直った。

「大丈夫か？空。怖かったな。泣くほど酷いことされたのか？」

ひよしさんが僕の涙を指で拭おうとしたけど、僕はその手を振り払った。

「…空？」

「…僕、さっきの人達に何かされて泣いてる訳じゃない…」

僕は小さく言った。ひよしさんは僕の次の言葉を待っているようだった。

「僕、わからなくて…。ひよしさんと一緒にいた女の人、昔付き合ってた人なんでしょ？僕、僕…っ、男だし…！さっきも…僕のこと見て困ったような顔してたし…、ひよしさん、ほんとに僕でいいのかなって…っ、わからなくなっちゃって…ッ、ひっく、ぐすっ…ぅぅ…」

一気にそう言うとまた涙が溢れてきて、僕は両手で一生懸命涙を拭う。