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人間編【猿生交換】
第10話 時間
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「な、に……あれ……」
異様な光景に、考えたことがそのまま口じゃら溢れた。
人型であり。
見覚えのある衣服であり。
車椅子という見知ったものだ。
それなのに。
なぜだかあそこには近づきたくない。
近づいてほしくない雰囲気がある。
空気が澱んでいる。
空間が澱んでいる。
存在が澱んでいる。
本能が警告を鳴らす。
ただ、あたしには、鳴らされたことがわかるだけで、だからどうするのかという『対策』まではわからない。
滑り落ちた手にもう一度力を込める。
あたしが一番信頼して、一番安心させてくれるその人の存在を確かめる。
「っ!!?」
ふと、後頭部に何かが触れた。
回した腕がよしくんを締める。
「ああ、ごめん、れい」
「……あ……なんだ、よしくん、か……」
謝りながら、再度伝わる後頭部の刺激。
よしくんが頭を撫でてくれていただけだった。
そんなこともわからなくなったいた。
……よしくんが頭を撫でてくれるなんて初めてだ。
温もりと優しさを感じ、少しばかり緊張が解けた。
「私は車椅子に座る彼女を助けたいのです」
後ろから聞こえた。
幸せを感じる後頭部の、さらに後ろから。
いつ間にか、辰見は移動していた。
先程よりも驚かず、状況を把握した。
けれど、言葉の意味が理解できない。
「『あたし』が欲しい、って、どう言う意味ですか?」
そこが重要だ。
あたしはよしくんのものだ。
あたしの体も、心も、なにもかも。
あたしの一存で「はいどうぞ」とは言えない。
よしくんはどこまで知っているのだろう。
全て知った上でならば何も問題はないが、せめて全貌を知った上で。
辰見は軽やかな靴音を鳴らしながら、あたしの視界に戻ってきた。
「貴方の力が必要なのです。何をしてもらうわけでもなく、ただそこにいてくれさえすればいい。これは貴方にしかできない」
「なぜそんなことがあたしにしかできないの?」
「適性があるのです。それは私独自の調査で判明したことです。詳細はお教えできません。怪我をするものでもないし、法を犯すものでもない。もちろん、それ相応の謝礼はいたします」
「謝礼……」
「はい。まず、ましのさまが恋人を支えるために契約され、膨らんだ借金、総額約一億六千万円。それを私が肩代わりいたしましょう」
「……へぇ」
「そしてお二人の生活も保証いたします。それだけの借金があってはなかなか生活もお困りでしょう。内臓と貞操を売ればいずれはもしかしたら、という額でしょうか。それは最終手段でしょう。ここ数日も野宿だったご様子。今後の生活の面倒も私にお任せを。私の家は部屋が余っております。ぜひお好きにお使いください」
「随分、太っ腹ですね」
「詳細を語れない怪しいことにご助力いただくのです。これぐらいはしなければ」
自分で言うかぁ。
条件の良さとしては怪しさは倍増以上だ。
けれど、たしかに謝礼は魅力的すぎる。
借金をしたことに後悔はない。
それでよしくんが助かるなら。
よしくんがあたしを求めてくれるなら。
よしくんが他に行っちゃわないなら。
どれだけの額でも安いものだし、お金には変えられなかったから。
正直なところ、借金取りや返すための労働の時間が、よしくんとの時間を奪っていたのも事実。
それが全てなくなるのなら、あたしはよしくんともっともっと一緒にいられる。
……。
「わかりましたぁ」
異様な光景に、考えたことがそのまま口じゃら溢れた。
人型であり。
見覚えのある衣服であり。
車椅子という見知ったものだ。
それなのに。
なぜだかあそこには近づきたくない。
近づいてほしくない雰囲気がある。
空気が澱んでいる。
空間が澱んでいる。
存在が澱んでいる。
本能が警告を鳴らす。
ただ、あたしには、鳴らされたことがわかるだけで、だからどうするのかという『対策』まではわからない。
滑り落ちた手にもう一度力を込める。
あたしが一番信頼して、一番安心させてくれるその人の存在を確かめる。
「っ!!?」
ふと、後頭部に何かが触れた。
回した腕がよしくんを締める。
「ああ、ごめん、れい」
「……あ……なんだ、よしくん、か……」
謝りながら、再度伝わる後頭部の刺激。
よしくんが頭を撫でてくれていただけだった。
そんなこともわからなくなったいた。
……よしくんが頭を撫でてくれるなんて初めてだ。
温もりと優しさを感じ、少しばかり緊張が解けた。
「私は車椅子に座る彼女を助けたいのです」
後ろから聞こえた。
幸せを感じる後頭部の、さらに後ろから。
いつ間にか、辰見は移動していた。
先程よりも驚かず、状況を把握した。
けれど、言葉の意味が理解できない。
「『あたし』が欲しい、って、どう言う意味ですか?」
そこが重要だ。
あたしはよしくんのものだ。
あたしの体も、心も、なにもかも。
あたしの一存で「はいどうぞ」とは言えない。
よしくんはどこまで知っているのだろう。
全て知った上でならば何も問題はないが、せめて全貌を知った上で。
辰見は軽やかな靴音を鳴らしながら、あたしの視界に戻ってきた。
「貴方の力が必要なのです。何をしてもらうわけでもなく、ただそこにいてくれさえすればいい。これは貴方にしかできない」
「なぜそんなことがあたしにしかできないの?」
「適性があるのです。それは私独自の調査で判明したことです。詳細はお教えできません。怪我をするものでもないし、法を犯すものでもない。もちろん、それ相応の謝礼はいたします」
「謝礼……」
「はい。まず、ましのさまが恋人を支えるために契約され、膨らんだ借金、総額約一億六千万円。それを私が肩代わりいたしましょう」
「……へぇ」
「そしてお二人の生活も保証いたします。それだけの借金があってはなかなか生活もお困りでしょう。内臓と貞操を売ればいずれはもしかしたら、という額でしょうか。それは最終手段でしょう。ここ数日も野宿だったご様子。今後の生活の面倒も私にお任せを。私の家は部屋が余っております。ぜひお好きにお使いください」
「随分、太っ腹ですね」
「詳細を語れない怪しいことにご助力いただくのです。これぐらいはしなければ」
自分で言うかぁ。
条件の良さとしては怪しさは倍増以上だ。
けれど、たしかに謝礼は魅力的すぎる。
借金をしたことに後悔はない。
それでよしくんが助かるなら。
よしくんがあたしを求めてくれるなら。
よしくんが他に行っちゃわないなら。
どれだけの額でも安いものだし、お金には変えられなかったから。
正直なところ、借金取りや返すための労働の時間が、よしくんとの時間を奪っていたのも事実。
それが全てなくなるのなら、あたしはよしくんともっともっと一緒にいられる。
……。
「わかりましたぁ」
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