上 下
62 / 96
人間編【赤い糸と真っ赤な嘘】

第3話 心中模索

しおりを挟む
「すみません……」
「いえいえ、大変興味深いお話でしたよ」


 顔をパタパタと仰ぎ、必死に熱さましをしている。
 本当に面白い話だったのだが、気休めに放っていないのだろうか。
 そして彼女は、肩下まである髪を一つに結いまとめる。
 体の熱を冷ますためだろうが、風邪をひかないようにと新しい温かいお茶を注ぐ。


「では、本題と行きましょうか」
「はい」
「先に頂いたご相談内容は、『恋人の身辺を調べてほしい。そしてどのように行動していけばいいか相談に乗ってほしい』、ということですね」
「そうです」
「まずはお相手のことについてお聞きしてもよろしいですか?」
「はい」


 お相手の名前は『岡平おかひら達馬たつま』様。
 山羊様がよく行くバーの常連客。
 写真を見せてもらったが、好青年ではないが優しそうな男性。
 ご友人には『弱そう』『無害そう』と言われたとのことだが、包み隠さず言えば私もそう思った。 
 たまたまカウンター席で隣同士になり、話も弾んだことから恋仲に。
 相手の年齢は四十代中盤。
 山羊様も四十代を目前にしており、結婚を意識しているという。


「お相手の岡平おかひらは結婚について何か?」
「いえ……。あまりそういう話はしてくれません。話を振っても軽く流されてしまって……。拒否されたら怖いので、あんまり強くも言えません」
「そうでしたか。お付き合いされてどれくらいですか?」
「満二年です」
「一緒に住んだことは?」
「ありません」
「お互いの家にお泊りされたことは?」
「それは何度も、お互いに有ります」
「では、ご実家へ行かれたことは?」
「お互い遠方なので……私は結婚についての話が出たらと思っています」
「そうでしたか」


 ふむ。
 思わせぶりな言動とも思わなくはないですが、そう判断するのは早計でしょう。
 思わせぶりではないとしたら、考えてはいるけれど随分慎重になっているのか。

 一。前向きに考えているがタイミングを見計らっている。
 二。借金や不貞などの結婚できない理由がある。
 三。結婚を意識させてキープしている。
 考えられるのはこのどれかでしょうか。

 山羊様は『身辺調査』を依頼されている。
 これだけならば私ではなく探偵に頼んだ方が良いだろう。
 私の方が安価かも知れないが、本気ならばある程度実績のある人を選ぶ方がと思う。
 けれど私を選んだ。
 それは単純にお金を駆けたくないからなのか。
 山羊様がすでに『何かよからぬ理由』があるとわかっている、もしくはわかりやすい言動があるからか。
 もしくは――『身辺調査』ではなく、そのあとの『相談』に重きを置いているからなのか


「……では、ここからのお話は調査が終わってからになります」
「はい」
「岡平様の身辺に不安な面がなかった場合。山羊様は結婚を希望されるということでよろしいですか?」
「……はい」


 目を伏せ。
 身を強張らせ。
 間を開けて。
 小さく答えた。

 本当にこの方は結婚を望んでいるのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あやかしが家族になりました

山いい奈
キャラ文芸
母親に結婚をせっつかれている主人公、真琴。 一人前の料理人になるべく、天王寺の割烹で修行している。 ある日また母親にうるさく言われ、たわむれに観音さまに良縁を願うと、それがきっかけとなり、白狐のあやかしである雅玖と結婚することになってしまう。 そして5体のあやかしの子を預かり、5つ子として育てることになる。 真琴の夢を知った雅玖は、真琴のために和カフェを建ててくれた。真琴は昼は人間相手に、夜には子どもたちに会いに来るあやかし相手に切り盛りする。 しかし、子どもたちには、ある秘密があるのだった。 家族の行く末は、一体どこにたどり着くのだろうか。

異世界に迷い込んだ大女優、元の世界に戻るため王太子殿下を誑かす~社交界と王宮に潜む罠

青の雀
恋愛
演技力と美貌を兼ね備えた素晴らしい大女優一条ひろみは、世界中の映画祭総なめの人気ナンバーワンの大女優である。 世界各国からのオファーは毎年すさまじく1週間に1本の割合で映画に出演。一条ひろみは、帰国子女で、上知大学の2年生であることから、世界のたいていの言葉はネイティヴ並みに精通している。 ある時、映画のロケで北陸の自殺の名所の断崖に行ったときのこと。本来ならスタントがやるべきはずのアクションをひろみがする羽目になり、真夏の太陽が照り付ける絶壁の下へ落ちる。 気が付けば、魔物が棲む真冬の山にいた。 あわや、魔物に襲い掛かられるところを間一髪のタイミングで、通りがかりの男性に救助される。実はその男性はその国の王太子殿下で、ある取引を持ち掛けられる。 ひろみは元の世界への帰り道を知っているという男性の言葉を半信半疑ながらも受け入れ、その取引に応じる。 取引とは、なぜか子供のころから、王太子殿下の婚約者が次々と死んでいくので、その犯人捜しを手伝ってほしいという内容。 具体的には、王太子の新しい婚約者として、ふるまってほしいということ。命の危険が伴う依頼に少し躊躇するが、元の世界に変えれるのならば、と快諾する。 ひろみからすれば、得意な演技を披露するだけのことなのだから、観客はこの異世界の人全部という軽い気持ちで引き受けたのだが、次から次へと怪しい人物が登場し、ひろみ自身も命を狙われる。 やがて、二人はお互いに惹かれ合う関係となる。嘘から出た実 吊り橋効果を踏まえたミステリーぽい恋愛小説を書いてみたくて、チャレンジします。

帝国海軍の猫大佐

鏡野ゆう
キャラ文芸
護衛艦みむろに乗艦している教育訓練中の波多野海士長。立派な護衛艦航海士となるべく邁進する彼のもとに、なにやら不思議な神様(?)がやってきたようです。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中※ ※第5回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます※

座敷童様と俺

渡辺 佐倉
キャラ文芸
無職の俺は親戚の家にいる子供の面倒を見ることになったけれど 人外と同居して一年間の日常 座敷童は男の子です エブリスタでも同じものを掲載中です

後宮の記録女官は真実を記す

悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】 中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。 「──嫌、でございます」  男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。  彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──

【意味怖】意味が解ると怖い話【いみこわ】

灰色猫
ホラー
意味が解ると怖い話の短編集です! 1話完結、解説付きになります☆ ちょっとしたスリル・3分間の頭の体操 気分のリラックスにいかがでしょうか。 皆様からの応援・コメント 皆様からのフォロー 皆様のおかげでモチベーションが保てております。 いつも本当にありがとうございます! ※小説家になろう様 ※アルファポリス様 ※カクヨム様 ※ノベルアッププラス様 にて更新しておりますが、内容は変わりません。 【死に文字】42文字の怖い話 【ゆる怖】 も連載始めました。ゆるーくささっと読めて意外と面白い、ゆる怖作品です。 ニコ動、YouTubeで試験的に動画を作ってみました。見てやってもいいよ、と言う方は 「灰色猫 意味怖」 を動画サイト内でご検索頂ければ出てきます。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~

そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】 大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。 王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。 中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。 俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。 そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが? 「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」 「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」 「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」 「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!

処理中です...