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人間編【赤い糸と真っ赤な嘘】
第3話 心中模索
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「すみません……」
「いえいえ、大変興味深いお話でしたよ」
顔をパタパタと仰ぎ、必死に熱さましをしている。
本当に面白い話だったのだが、気休めに放っていないのだろうか。
そして彼女は、肩下まである髪を一つに結いまとめる。
体の熱を冷ますためだろうが、風邪をひかないようにと新しい温かいお茶を注ぐ。
「では、本題と行きましょうか」
「はい」
「先に頂いたご相談内容は、『恋人の身辺を調べてほしい。そしてどのように行動していけばいいか相談に乗ってほしい』、ということですね」
「そうです」
「まずはお相手のことについてお聞きしてもよろしいですか?」
「はい」
お相手の名前は『岡平達馬』様。
山羊様がよく行くバーの常連客。
写真を見せてもらったが、好青年ではないが優しそうな男性。
ご友人には『弱そう』『無害そう』と言われたとのことだが、包み隠さず言えば私もそう思った。
たまたまカウンター席で隣同士になり、話も弾んだことから恋仲に。
相手の年齢は四十代中盤。
山羊様も四十代を目前にしており、結婚を意識しているという。
「お相手の岡平は結婚について何か?」
「いえ……。あまりそういう話はしてくれません。話を振っても軽く流されてしまって……。拒否されたら怖いので、あんまり強くも言えません」
「そうでしたか。お付き合いされてどれくらいですか?」
「満二年です」
「一緒に住んだことは?」
「ありません」
「お互いの家にお泊りされたことは?」
「それは何度も、お互いに有ります」
「では、ご実家へ行かれたことは?」
「お互い遠方なので……私は結婚についての話が出たらと思っています」
「そうでしたか」
ふむ。
思わせぶりな言動とも思わなくはないですが、そう判断するのは早計でしょう。
思わせぶりではないとしたら、考えてはいるけれど随分慎重になっているのか。
一。前向きに考えているがタイミングを見計らっている。
二。借金や不貞などの結婚できない理由がある。
三。結婚を意識させてキープしている。
考えられるのはこのどれかでしょうか。
山羊様は『身辺調査』を依頼されている。
これだけならば私ではなく探偵に頼んだ方が良いだろう。
私の方が安価かも知れないが、本気ならばある程度実績のある人を選ぶ方がと思う。
けれど私を選んだ。
それは単純にお金を駆けたくないからなのか。
山羊様がすでに『何かよからぬ理由』があるとわかっている、もしくはわかりやすい言動があるからか。
もしくは――『身辺調査』ではなく、そのあとの『相談』に重きを置いているからなのか
「……では、ここからのお話は調査が終わってからになります」
「はい」
「岡平様の身辺に不安な面がなかった場合。山羊様は結婚を希望されるということでよろしいですか?」
「……はい」
目を伏せ。
身を強張らせ。
間を開けて。
小さく答えた。
本当にこの方は結婚を望んでいるのだろうか。
「いえいえ、大変興味深いお話でしたよ」
顔をパタパタと仰ぎ、必死に熱さましをしている。
本当に面白い話だったのだが、気休めに放っていないのだろうか。
そして彼女は、肩下まである髪を一つに結いまとめる。
体の熱を冷ますためだろうが、風邪をひかないようにと新しい温かいお茶を注ぐ。
「では、本題と行きましょうか」
「はい」
「先に頂いたご相談内容は、『恋人の身辺を調べてほしい。そしてどのように行動していけばいいか相談に乗ってほしい』、ということですね」
「そうです」
「まずはお相手のことについてお聞きしてもよろしいですか?」
「はい」
お相手の名前は『岡平達馬』様。
山羊様がよく行くバーの常連客。
写真を見せてもらったが、好青年ではないが優しそうな男性。
ご友人には『弱そう』『無害そう』と言われたとのことだが、包み隠さず言えば私もそう思った。
たまたまカウンター席で隣同士になり、話も弾んだことから恋仲に。
相手の年齢は四十代中盤。
山羊様も四十代を目前にしており、結婚を意識しているという。
「お相手の岡平は結婚について何か?」
「いえ……。あまりそういう話はしてくれません。話を振っても軽く流されてしまって……。拒否されたら怖いので、あんまり強くも言えません」
「そうでしたか。お付き合いされてどれくらいですか?」
「満二年です」
「一緒に住んだことは?」
「ありません」
「お互いの家にお泊りされたことは?」
「それは何度も、お互いに有ります」
「では、ご実家へ行かれたことは?」
「お互い遠方なので……私は結婚についての話が出たらと思っています」
「そうでしたか」
ふむ。
思わせぶりな言動とも思わなくはないですが、そう判断するのは早計でしょう。
思わせぶりではないとしたら、考えてはいるけれど随分慎重になっているのか。
一。前向きに考えているがタイミングを見計らっている。
二。借金や不貞などの結婚できない理由がある。
三。結婚を意識させてキープしている。
考えられるのはこのどれかでしょうか。
山羊様は『身辺調査』を依頼されている。
これだけならば私ではなく探偵に頼んだ方が良いだろう。
私の方が安価かも知れないが、本気ならばある程度実績のある人を選ぶ方がと思う。
けれど私を選んだ。
それは単純にお金を駆けたくないからなのか。
山羊様がすでに『何かよからぬ理由』があるとわかっている、もしくはわかりやすい言動があるからか。
もしくは――『身辺調査』ではなく、そのあとの『相談』に重きを置いているからなのか
「……では、ここからのお話は調査が終わってからになります」
「はい」
「岡平様の身辺に不安な面がなかった場合。山羊様は結婚を希望されるということでよろしいですか?」
「……はい」
目を伏せ。
身を強張らせ。
間を開けて。
小さく答えた。
本当にこの方は結婚を望んでいるのだろうか。
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