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人外編【恋と故意】

第4話 解決策

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 ソファーから立ち上がる。
 飲み物を投げ捨てた。
 大股で扉まで移動して、取っ手を握る。


「どちらへ?」


 ぴたりと、体が止まった。
 いや、止められた。

 何をされたわけじゃない。
 ただ、扉が開かなかった。
 来るときは容易に開いた扉は、今はぴくりとも動かない。
 私の行く手を阻んでいる。
 なぜ。どうして。
 子済くんは「難しい」と言った。
 卯崎が何かをさせているのかもしれない。
 卯崎をどうにかしないと!


「卯崎様をどうするおつもりですか?」
「……どうにか、します」


 私の大事な子済くんにちょっかいを出している奴なんて、私が許さない。
 大丈夫。
 私は蛇。
 卯崎は兎。
 私の方が身長も体格もある。
 のみこめる。


「まだ調査結果を全てお伝えしておりません。どうぞご着席ください」
「あの女が子済くんに何かしている可能性がある。それだけで十分です。そちらを先に片付けます」
「なりません。貴方のためになりません」


 私のため?
 ライターさんは何を言っているの?
 何を知っているの?


「どうぞご着席ください。きっと貴方のために、そして子済様のためになります」


 ……。
 気になる。
 気になるから、とりあえず話を聞こう。
 子済くんのためになるという、その話を。
 どうにかしてやるのは後にしてあげる。

 ソファーに体を沈める。
 投げたコップは割れてしまった。
 猿轡ちゃんと、耳当てちゃんが掃除してくれている。
 少し、申し訳ない気持ちになった。


「落ち着いてお話を聞いていただけますよう、よろしくお願い申し上げます」
「はい……」
「では。卯崎様と子済様は今年に入ってから親しくなりました。ですが巳里様が知らなかったように、周りには秘密にしている様です」
「なぜですか?」
「お二人とも気弱な性格故に、からかわれたりいじられたりすることを避けている様です。なので学校では接点を持たず、休みの日にこっそり会う間柄のようですね」
「休みの日に……」


 私は学校でしか子済くんに会えない。
 なのに卯崎は……学校以外で子済くんに会っている……!
 学校外での子済くん……見たい。
 会いたい。
 見たい!
 見たい!
 見たい!
 見たい!!


「それでですね」
「っ、はい」


 いけない。
 ついつい頭が暴走しかけちゃった。
 冷静に。
 冷静に。


「子済様が巳里様に「難しい」と仰られた件ですが」
「あ……」
「子済様は単純に自分に自信がなく、巳里様を大事にすることが難しい、ということらしいですよ」
「……え」


 え、え?
 え?
 え?
 えぇ?


「え……それって……」
「はい。お二人は両思いだったのです」


 えええええぇぇぇええええ!!!

 え、待って。いつから?
 私が好意を持ってたの、もしかして気付いてたのかな?
 え、恥ずかしい。
 見てたのも気付かれてた?
 うわぁ、顔が熱い。
 恥ずかしさでどうにかなっちゃいそう。
 どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。

 待って。え、じゃあ。

 教室に入ってきた時も?
 朝、下駄箱で靴を履き替えてるときも?
 体育の授業前に更衣室に入っていくときも?
 移動教室の途中でトイレに寄ってるときも?
 給食を食べるために配膳に並んでるときも?
 食後眠くて机に伏しちゃってるときも?
 部活のために職員室に行くときも?
 放課後にコンビニに寄って買い食いして食べきってから家にはいるときも?

 どれを知られてるの?


「お客様、お顔まっかっかー!」
「っ、ちが……これはっ、その!」


 耳当てちゃんに揶揄われた。
 顔を隠すが「耳まで真っ赤!」と言われてより熱くなる。
 ライターさんの笑い声が聞こえる。
 この人も楽しんでる!


「もう! やめてください!」
「失礼いたしました」


 口では謝っているものの、半分しか見えない顔はまだ笑っている。
 気を取り直すために、改めて出してくれた紅茶を飲む。
 一気飲みだ!


「……ぷはっ」


 美味しい。
 頭がすっきりした。
 そして気付いた。


「両想いなのに、なんでフラれちゃったんだろう」
「子済様の自信については子済様の問題です。卯崎は巳里様のために、子済様に自信を付けさせる訓練をされているそうです」
「訓練?」
「はい。そして、私から巳里様に、ご提案がございます」
「提案?」


 ライターさんからテーブルを滑らせて渡されたのは、瓶詰めにされた、薄いピンク色の球。
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