小林さんと中村さん【R18】

RiTa

文字の大きさ
上 下
15 / 34

その15

しおりを挟む
中村はその足で総務倉庫へと向かうと、そーっとドアを開けました

「何か落としてたか?」
「ひゃっ!」

倉庫内で床に這いつくばっていたサセコが驚きで立ち上がると

「変な噂を立てられたくないからドアを開けたまま話しがしたいけど、誰かが通って聞かれたら、マズイのはそっちだ…身の安全を保障してもらえたらドアを閉めるよ」
「何で?帰りに来るんじゃ…」

サセコはまだこの状況に納得していないようで会話になりそうにありません

「とりあえず棚の向こうに行こうか?質問はその後で」

サセコは棚の向こうで中村と話すと思い
それに従いましたが、中村はドアの前から動きません
棚を挟んだ荷物の間越しに中村が見える位置へと移動すると
それを見届けた中村は音を立てないようドアを閉めました。

「中村さん違うの!これは…」

棚を隔てたまま会話がなされます

「落ち着いて。誰にも言うつもりはない。話がしたいんだ」

サセコがパニックにならないよう、中村は丁寧に話します

「あたしもこんな所でなんて…誰かな…と思って来ただけで…」
「残念だけど、昨日の音声は録音してある。もちろん今もだ。下手げな事言わない方がいい」
「………」
「今後オレとかオレの周りがどこかに飛ばされたり、不本意に違う部署に異動になったり…派遣社員から迷惑をかけられたり…そんな事がないと約束してくれないか?」
「そんなの…あたしと…関係なくない?」
「それなら音声の入ったUSBを人事部長の奥さんに送っても問題ないか…」
「止めて!」
「じゃあどうする?」
「…約束する。でも、あたし、そんな事するつもりないもん」
「知ってる。キミの行動でそうなる可能性があるってだけだ
中途半端に権力がある男の嫉妬は女より面倒だから」
「………」
「人事部長だけじゃないんだろ?」
「………うん」
「贅沢する為だけならリスクもあるし安すぎるんじゃね?
じゃ…この事はお互い秘密って事で」

中村はその部屋を出て午後の業務に向かいました




『やっぱり終わらない』
就業時間を迎えた時、想定を超えて仕事が残っていました。
長い事パソコンに向かっていると、人が減って行くのと共に雑音が減り、作業に没頭する事が出来ました
時間の感覚を忘れ、うっすら課長の“じゃ…電気とセキュリティよろしく”という声が聞こえたようにも思います。

もうすぐ終わると思った頃お腹がキュルッと鳴りましたが、仕事を終わらせる事を優先しようとお腹に力を込めた時

「本当に残業してんだな」

「な…中村さん…入ってきて…大丈夫ですか?」

見回せば室内の電気は半分消され、同じ部署の人はいないのですが違う部署の中村さんがここにいる事は、あまりよろしくないように思います

「何とでも言えるし大丈夫だろ。飯、買って来たから食おう」

時間を見たら8時を過ぎています。ご飯を買って来てくれたとは驚きました。

「ありがとうございます。もう少しで終わるので、中村さんは食べちゃってください」
「じゃ、遠慮なく」

中村さんの持つ袋から、焼き肉屋さんの焼き肉弁当の良い匂いが漂って来て、人参をぶら下げた馬の如く残った仕事のスピードが上がりました。

「それ」
「え?」
「グラフが間違ってる」

中村さんはご飯を食べずに隣のデスクで肘をついて、私のパソコンを見ていたのです

「え?合ってますよ?」
「多分そっちから違うんだろ」
そもそも渡された資料のグラフが間違っていたようで
「ちょっと借りる。飯、食ってて」

ノートパソコンを奪うように自分に向け、何やら打ち込み始めました

「あの…中村さん…」

私の声は届かず、存在すら忘れているようで
食い入るように作業する中村さんを食い入るように見る続ける事しか出来ませんでした。

時間にして2、3分でしょうか
さほど待たされる事なく

「オッケー」

そう言ってこちらを見て

「あ?まだ飯食ってないのか?」
「はい…全部終わらせてからじゃないと…」
「もう終わってる」
「え?」

それには早すぎるはずなのですが確認してみると、“間違ってる”と言ったグラフはそのままで、残されていた物が完璧に仕上がっていました。

「ありがとう…ございます…お茶、入れて来ますね」
「あぁ、ありがとう」

中村さんはいつもと変わらないはずなのに、なぜか私だけがドキドキしてしまいました


緊張で食べ物が喉を通らないかと思ったのですが

「美味しい…」

空腹に与えられた焼き肉弁当は心の声が漏れてしまう程美味しくて、1口食べたら、箸が止まる事なく最後まで食べ切ってしまいました
部署の後片付けをしたら、暗くなった社内の移動まで中村さんは“付き添う”と付いて来てくれたのです
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

気がついたら無理!絶対にいや!

朝山みどり
恋愛
アリスは子供の頃からしっかりしていた。そのせいか、なぜか利用され、便利に使われてしまう。 そして嵐のとき置き去りにされてしまった。助けてくれた彼に大切にされたアリスは甘えることを知った。そして甘えられることも・・・ やがてアリスは自分は上に立つ能力があると自覚する

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

最愛の妻の元家族達が、ちょっかいを出しにやってくるので

柚木ゆず
恋愛
 僕の妻は以前隣国でレベッカという名前の男爵令嬢として生きていて、家族達の醜悪な計画に反対して家を去ったという過去がある。  最愛の人が名前と貴族籍を捨ててから、11年後。マルスリーヌという名の平民として第2の人生を送っていた妻のもとに、かつて彼女の父と母と姉だった3人が現れたのだった。  厄介な人間達がわざわざ探して、会いに来るだなんて。放ってはおけないね。

ある公爵令嬢の生涯

ユウ
恋愛
伯爵令嬢のエステルには妹がいた。 妖精姫と呼ばれ両親からも愛され周りからも無条件に愛される。 婚約者までも妹に奪われ婚約者を譲るように言われてしまう。 そして最後には妹を陥れようとした罪で断罪されてしまうが… 気づくとエステルに転生していた。 再び前世繰り返すことになると思いきや。 エステルは家族を見限り自立を決意するのだが… *** タイトルを変更しました!

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

処理中です...