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その1
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“中村さん…”
“さっき中村さんが~…”
この“中村さん”というワードは会社でこんなに行き交っていたのでしょうか…
あの日以降
その多さに、あの日の事実が公になっているのではないかとビクビクしていましたが
私の存在を気にせずに話す彼女達の様子や
実際本人と顔を合わせることのない社内に
自分とは無関係なの人なのだと
元の生活に戻ることに2ヶ月もかかりませんでした。
中村さんを遠目に見ることもありましたが
只々自意識過剰だったようで、向こうからこちらにさえ気付いてもいないのでしょう
あの日以前と何も変わらない日常が繰り返しているのだと
言われずとも認識出来ることが出来たのです。
お昼休みも終わる女子トイレ内
“中村さん最近飲み会参加してるらしいよ…”
“珍しくない?とうとう嫁探し?
てか、だったら今週末のうちらの飲み会にも来るって事?
好みレベル相当高そうだけど…”
個室から出て、同じ部署の女の子がメイクを直している鏡前のシンクで手を洗っていると
「そうらしい。だからコッチも1人増やしてくれってさ…って事で小林さん、今週末来てくれるよね?」
「えぇっ!?」
珍しく大きな声を出していました。
「彼氏居ないんだよね?」
「あれ?別れちゃったの?」
「イヤ…別れたけど…今週末は…」
普段断る事をしない私ですが、それだけはどうしても断らなければ…
「叔父の葬儀で…金曜日には実家に帰らないと…」
「そうなんだ…残念…」
「大変なのにごめんね~」
こちらこそ壮大にごめんなさい
咄嗟とは言え
いない叔父さんを殺してしまいました
きっとバチが当たるに違いありません…
「小林さん明日一緒にランチしない?」
「そうそう、いつも小林さんお弁当だから、明日は外一緒に行こうよ」
「ありがとう」
そう言ってトイレから出ると、大きく肩を撫で下ろしていました。
やっと日常に戻ったというのにどういう事でしょう
彼女達とはとても良い関係で仕事が出来ているので心が痛むし
人間関係が希薄な中村さんだから安心出来ていたのに
酒の席でうっかり余計な事を話してはしまわないかと気が気ではありません。
かと言って、こちらから“どういう事ですか?”と聞く程の事でも
そんな関係でもないですし
こうなったらより正確な“嫁を見つけた中村さん”情報を入手するまで安心出来そうな気がしませんでした。
自分のデスクに座って
『どうか中村さんにとても可愛くて良い嫁が見つかりますように…』
そう心で唱え一息ついて、頼まれた資料を作る為、キーボードを叩き始めましたが…
カタカタ…カタカタ…
『あんなヤツに可愛くて良い嫁ってあり得なくない…?』
カタカタカタ…
『っつーか可愛くて良い嫁が見つかったら、むしろその可愛くて良い嫁が可愛そうじゃね…?』
カタ…
『すみません!訂正します!
どうか中村さんに丁度いい、バカな嫁が見つかりますように!』
カタカタカタカタ…カタカタカタカタ…
キーボードを叩く指は、やっと調子を取り戻しました。
“さっき中村さんが~…”
この“中村さん”というワードは会社でこんなに行き交っていたのでしょうか…
あの日以降
その多さに、あの日の事実が公になっているのではないかとビクビクしていましたが
私の存在を気にせずに話す彼女達の様子や
実際本人と顔を合わせることのない社内に
自分とは無関係なの人なのだと
元の生活に戻ることに2ヶ月もかかりませんでした。
中村さんを遠目に見ることもありましたが
只々自意識過剰だったようで、向こうからこちらにさえ気付いてもいないのでしょう
あの日以前と何も変わらない日常が繰り返しているのだと
言われずとも認識出来ることが出来たのです。
お昼休みも終わる女子トイレ内
“中村さん最近飲み会参加してるらしいよ…”
“珍しくない?とうとう嫁探し?
てか、だったら今週末のうちらの飲み会にも来るって事?
好みレベル相当高そうだけど…”
個室から出て、同じ部署の女の子がメイクを直している鏡前のシンクで手を洗っていると
「そうらしい。だからコッチも1人増やしてくれってさ…って事で小林さん、今週末来てくれるよね?」
「えぇっ!?」
珍しく大きな声を出していました。
「彼氏居ないんだよね?」
「あれ?別れちゃったの?」
「イヤ…別れたけど…今週末は…」
普段断る事をしない私ですが、それだけはどうしても断らなければ…
「叔父の葬儀で…金曜日には実家に帰らないと…」
「そうなんだ…残念…」
「大変なのにごめんね~」
こちらこそ壮大にごめんなさい
咄嗟とは言え
いない叔父さんを殺してしまいました
きっとバチが当たるに違いありません…
「小林さん明日一緒にランチしない?」
「そうそう、いつも小林さんお弁当だから、明日は外一緒に行こうよ」
「ありがとう」
そう言ってトイレから出ると、大きく肩を撫で下ろしていました。
やっと日常に戻ったというのにどういう事でしょう
彼女達とはとても良い関係で仕事が出来ているので心が痛むし
人間関係が希薄な中村さんだから安心出来ていたのに
酒の席でうっかり余計な事を話してはしまわないかと気が気ではありません。
かと言って、こちらから“どういう事ですか?”と聞く程の事でも
そんな関係でもないですし
こうなったらより正確な“嫁を見つけた中村さん”情報を入手するまで安心出来そうな気がしませんでした。
自分のデスクに座って
『どうか中村さんにとても可愛くて良い嫁が見つかりますように…』
そう心で唱え一息ついて、頼まれた資料を作る為、キーボードを叩き始めましたが…
カタカタ…カタカタ…
『あんなヤツに可愛くて良い嫁ってあり得なくない…?』
カタカタカタ…
『っつーか可愛くて良い嫁が見つかったら、むしろその可愛くて良い嫁が可愛そうじゃね…?』
カタ…
『すみません!訂正します!
どうか中村さんに丁度いい、バカな嫁が見つかりますように!』
カタカタカタカタ…カタカタカタカタ…
キーボードを叩く指は、やっと調子を取り戻しました。
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