上 下
17 / 45

16話 ノアディアの過去/番の理

しおりを挟む
私が産まれた時の事は、今でも鮮明に覚えている。
多くの者に歓迎され、喜ばれ。




辺りを確認しようと見回し、使用人達と視線が合う。

その途端、彼らは私にひれ伏した。




私が産まれて初めて知った感情は、孤独だった。

老若男女問わず、私に膝を突く。王でさえも私をうやま謙遜けんそんした。

だが、ただ一人、産みの親である男・・・母だけが私に他の感情を教えてくれた。

恐怖を、嫌悪を、驚きを。悲しみを・・・怒りを。
期待を、喜びを、信頼を、そして、親愛を。
だが、恋情だけは教えてくれはしなかった。





が死んだ日、王は狂った。





私は母の肉体を生き返らせた。魂はもう消えていた。

蘇生後、以前とは異なる反応を見せる妻が偽物であることを、王は理解していた。

それでも私をとがめはしなかった。
むしろ感謝をされ、濁った瞳で私に尊敬の意を向ける。泣き顔が歪む。

やがて王は私が誰であるか、自分が誰であるかを忘れた。毎日心の死んだ番のかたわらに居る。成立のしない会話を永遠と続ける。

見ていられない。





わたしは王さまなのかい?
───ええ、そうですよ。国王様。
わたしはこれからどうなるのだい?
───どう、したいですか?
わたしは、ずっと一緒にいたんだ。愛する者と。
───私は、王としての貴方を尊敬していました。
わたしはおまえのなんだったんだろうな。不思議だ。
───私は、貴方を生かしたいです。
わたしは、もうどうしようもないのだよ。私の、愛する、愛する



愛する、愛する────



王を、殺した。





死ぬと悟ったが見せた表情は、笑顔だった。そして最期に謝罪され、私の事も愛していたと告げられた。

何故、もっと早く気が付かなかったのだろうか。
父もまた、私を愛していた事に。

ただ他の者達と同様に尊敬しているのではなく、私の生き方を尊重していただけだという事に。

泣き叫び悔悟かいごしたとしても、もう手遅れだ。
私を人として愛してくれる者はもういない。
産まれた時に味わった孤独に包まれてゆく。私は父と母に望まれて産まれてきたというのに、私は二人に報いる事が出来なかった。

広がる鮮血と涙に、息が苦しくなる。消滅させた心臓を復元させようと試みる。

心臓の音は消えたままだ。それが意味する事は理解出来ていた。

一人になってしまう。私の判断によって。
人を殺めて正しいだなんて愚かな考えを持たなければ。唇を噛む。

重い影が心に残る。





そうして私は今、二人の死体を操作して国を管理している。

私は運命の番を恐れていた。
番が死ぬ事も。愛に溺れる事も。親の様に狂ってしまう事も。

悲惨で過酷な運命の在り方を。

私は齢5歳にして、私の運命の番という者が現れないように、本来この世界に来ることのない魂を呼び寄せることにした。彼女達は強い意志を持っている事がうかがえたので、きっと私の運命を変えてくれる事だろう。

それからというものの、私は音も色も感じず、全ての事象に興味を失いながらも続いていく日々に厭悪えんおしていた。





だがしかし、非情にも彼と巡り会ってしまった。

彼に出会ってしまえば歯車は止まらない。

高鳴る胸の鼓動は、言いようのないほど求める本能は、どうしようもない。





恋をした。
そして恋情を知り、愛を知った。

運命の番という概念を捻じ曲げようとし、歪んだ世界にしてしまったと言うのに、私はそれでも彼を求めている。

私の国の民は、番というかせに囚われている様に思えたが、実はそうではなかったみたいだ。

運命の番というのはものの例えであり、実際はただ自身の心から求める人物を呼び出し、それを運命だと錯覚し、どうしようもない程愛してしまう現象であったのだ。

そして、出会った時は必ず魔力を消費する。

つまり、これは私達の国に古代から受け継がれてきた無意識の内に発動してしまう魔法の一種だったという訳だ。

私は狂う程愛おしい。
彼の魂を。彼の全てを。
私の命が続く限り、彼の命も続けよう。

私の事で真剣になってぶつかり、初心うぶで愛らしい反応を見せてくれるのは、この世でただ一人、彼だけなのだから。

彼の姿をしていても、もしも異なる魂だと分かった時、私は絶望し、この世界を滅ぼしていただろう。
何としてでも彼をここに呼び寄せたことだろう。

彼の中身は別世界の魂だ。

私が呼び寄せてしまった哀れな魂。当時は母と父の死で混乱していたせいだろう、ろくに確認もせずこの世界にまねいてしまった。

18年間、離れ離れにさせてしまった。
愚鈍ぐどんな失態に己を滅ぼしたくなる。

今まで一人にさせてしまった分の罪滅ぼしを始めよう。ライの望むもの全てを理解し与えよう。愛する番を生涯をかけて守ると約束しよう。

愛してしまっては、後戻りはできない。
もしも裏切られたとしたら、私達二人だけの世界にしてしまえばいい。邪魔者のいない世界で共に生きればいい。

私は魔族と竜族の先祖返りだ。

焦ることはない、時間は沢山あるのだから。私にも、ライにも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱な悪役令息兄様のバッドエンドは僕が全力で回避します!

松原硝子
BL
三枝貴人は総合病院で働くゲーム大好きの医者。 ある日貴人は乙女ゲームの制作会社で働いている同居中の妹から依頼されて開発中のBLゲーム『シークレット・ラバー』をプレイする。 ゲームは「レイ・ヴァイオレット」という公爵令息をさまざまなキャラクターが攻略するというもので、攻略対象が1人だけという斬新なゲームだった。 プレイヤーは複数のキャラクターから気に入った主人公を選んでプレイし、レイを攻略する。 一緒に渡された設定資料には、主人公のライバル役として登場し、最後には断罪されるレイの婚約者「アシュリー・クロフォード」についての裏設定も書かれていた。 ゲームでは主人公をいじめ倒すアシュリー。だが実は体が弱く、さらに顔と手足を除く体のあちこちに謎の湿疹ができており、常に体調が悪かった。 両親やごく親しい周囲の人間以外には病弱であることを隠していたため、レイの目にはいつも不機嫌でわがままな婚約者としてしか映っていなかったのだ。 設定資料を読んだ三枝は「アシュリーが可哀想すぎる!」とアシュリー推しになる。 「もしも俺がアシュリーの兄弟や親友だったらこんな結末にさせないのに!」 そんな中、通勤途中の事故で死んだ三枝は名前しか出てこないアシュリーの義弟、「ルイス・クロフォードに転生する。前世の記憶を取り戻したルイスは推しであり兄のアシュリーを幸せにする為、全力でバッドエンド回避計画を実行するのだが――!?

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました! スパダリ(本人の希望)な従者と、ちっちゃくて可愛い悪役令息の、溺愛無双なお話です。 ハードな境遇も利用して元気にほのぼのコメディです! たぶん!(笑)

異世界に転生してもゲイだった俺、この世界でも隠しつつ推しを眺めながら生きていきます~推しが婚約したら、出家(自由に生きる)します~

kurimomo
BL
俺がゲイだと自覚したのは、高校生の時だった。中学生までは女性と付き合っていたのだが、高校生になると、「なんか違うな」と感じ始めた。ネットで調べた結果、自分がいわゆるゲイなのではないかとの結論に至った。同級生や友人のことを好きになるも、それを伝える勇気が出なかった。 そうこうしているうちに、俺にはカミングアウトをする勇気がなく、こうして三十歳までゲイであることを隠しながら独身のままである。周りからはなぜ結婚しないのかと聞かれるが、その追及を気持ちを押し殺しながら躱していく日々。俺は幸せになれるのだろうか………。 そんな日々の中、襲われている女性を助けようとして、腹部を刺されてしまった。そして、同性婚が認められる、そんな幸せな世界への転生を祈り静かに息を引き取った。 気が付くと、病弱だが高スペックな身体、アース・ジーマルの体に転生した。病弱が理由で思うような生活は送れなかった。しかし、それには理由があって………。 それから、偶然一人の少年の出会った。一目見た瞬間から恋に落ちてしまった。その少年は、この国王子でそして、俺は側近になることができて………。 魔法と剣、そして貴族院など王道ファンタジーの中にBL要素を詰め込んだ作品となっております。R指定は本当の最後に書く予定なので、純粋にファンタジーの世界のBL恋愛(両片思い)を楽しみたい方向けの作品となっております。この様な作品でよければ、少しだけでも目を通していただければ幸いです。 GW明けからは、週末に投稿予定です。よろしくお願いいたします。

ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが

BL
 俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。  ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。 「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」  モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?  重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。 ※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。 ※第三者×兄(弟)描写があります。 ※ヤンデレの闇属性でビッチです。 ※兄の方が優位です。 ※男性向けの表現を含みます。 ※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。

弟に殺される”兄”に転生したがこんなに愛されるなんて聞いてない。

浅倉
BL
目を覚ますと目の前には俺を心配そうに見つめる彼の姿。 既視感を感じる彼の姿に俺は”小説”の中に出てくる主人公 ”ヴィンセント”だと判明。 そしてまさかの俺がヴィンセントを虐め残酷に殺される兄だと?! 次々と訪れる沢山の試練を前にどうにか弟に殺されないルートを必死に進む。 だがそんな俺の前に大きな壁が! このままでは原作通り殺されてしまう。 どうにかして乗り越えなければ! 妙に執着してくる”弟”と死なないように奮闘する”兄”の少し甘い物語___ ヤンデレ執着な弟×クールで鈍感な兄 ※固定CP ※投稿不定期 ※初めの方はヤンデレ要素少なめ

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

BLゲームの世界に転生!~って、あれ。もしかして僕は嫌われ者の闇属性!?~

七海咲良
BL
「おぎゃー!」と泣きながら生まれてきた僕。手足はうまく動かせないのに妙に頭がさえているなと思っていたが、今世の兄の名前を聞いてようやく気付いた。  あ、ここBLゲームの世界だ……!! しかも僕は5歳でお役御免の弟!? 僕、がんばって死なないように動きます!

処理中です...