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16話 ノアディアの過去/番の理
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私が産まれた時の事は、今でも鮮明に覚えている。
多くの者に歓迎され、喜ばれ。
辺りを確認しようと見回し、使用人達と視線が合う。
その途端、彼らは私にひれ伏した。
私が産まれて初めて知った感情は、孤独だった。
老若男女問わず、私に膝を突く。王でさえも私を敬い謙遜した。
だが、ただ一人、産みの親である男・・・母だけが私に他の感情を教えてくれた。
恐怖を、嫌悪を、驚きを。悲しみを・・・怒りを。
期待を、喜びを、信頼を、そして、親愛を。
だが、恋情だけは教えてくれはしなかった。
番が死んだ日、王は狂った。
私は母の肉体を生き返らせた。魂はもう消えていた。
蘇生後、以前とは異なる反応を見せる妻が偽物であることを、王は理解していた。
それでも私を咎めはしなかった。
むしろ感謝をされ、濁った瞳で私に尊敬の意を向ける。泣き顔が歪む。
やがて王は私が誰であるか、自分が誰であるかを忘れた。毎日心の死んだ番の傍らに居る。成立のしない会話を永遠と続ける。
見ていられない。
わたしは王さまなのかい?
───ええ、そうですよ。国王様。
わたしはこれからどうなるのだい?
───どう、したいですか?
わたしは、ずっと一緒にいたんだ。愛する者と。
───私は、王としての貴方を尊敬していました。
わたしはおまえのなんだったんだろうな。不思議だ。
───私は、貴方を生かしたいです。
わたしは、もうどうしようもないのだよ。私の、愛する、愛する
愛する、愛する────
王を、殺した。
死ぬと悟った王が見せた表情は、笑顔だった。そして最期に謝罪され、私の事も愛していたと告げられた。
何故、もっと早く気が付かなかったのだろうか。
父もまた、私を愛していた事に。
ただ他の者達と同様に尊敬しているのではなく、私の生き方を尊重していただけだという事に。
泣き叫び悔悟したとしても、もう手遅れだ。
私を人として愛してくれる者はもういない。
産まれた時に味わった孤独に包まれてゆく。私は父と母に望まれて産まれてきたというのに、私は二人に報いる事が出来なかった。
広がる鮮血と涙に、息が苦しくなる。消滅させた心臓を復元させようと試みる。
心臓の音は消えたままだ。それが意味する事は理解出来ていた。
一人になってしまう。私の判断によって。
人を殺めて正しいだなんて愚かな考えを持たなければ。唇を噛む。
重い影が心に残る。
そうして私は今、二人の死体を操作して国を管理している。
私は運命の番を恐れていた。
番が死ぬ事も。愛に溺れる事も。親の様に狂ってしまう事も。
悲惨で過酷な運命の在り方を。
私は齢5歳にして、私の運命の番という者が現れないように、本来この世界に来ることのない魂を呼び寄せることにした。彼女達は強い意志を持っている事が伺えたので、きっと私の運命を変えてくれる事だろう。
それからというものの、私は音も色も感じず、全ての事象に興味を失いながらも続いていく日々に厭悪していた。
だがしかし、非情にも彼と巡り会ってしまった。
彼に出会ってしまえば歯車は止まらない。
高鳴る胸の鼓動は、言いようのないほど求める本能は、どうしようもない。
恋をした。
そして恋情を知り、愛を知った。
運命の番という概念を捻じ曲げようとし、歪んだ世界にしてしまったと言うのに、私はそれでも彼を求めている。
私の国の民は、番という枷に囚われている様に思えたが、実はそうではなかったみたいだ。
運命の番というのはものの例えであり、実際はただ自身の心から求める人物を呼び出し、それを運命だと錯覚し、どうしようもない程愛してしまう現象であったのだ。
そして、出会った時は必ず魔力を消費する。
つまり、これは私達の国に古代から受け継がれてきた無意識の内に発動してしまう魔法の一種だったという訳だ。
私は狂う程愛おしい。
彼の魂を。彼の全てを。
私の命が続く限り、彼の命も続けよう。
私の事で真剣になってぶつかり、初心で愛らしい反応を見せてくれるのは、この世でただ一人、彼だけなのだから。
彼の姿をしていても、もしも異なる魂だと分かった時、私は絶望し、この世界を滅ぼしていただろう。
何としてでも彼をここに呼び寄せたことだろう。
彼の中身は別世界の魂だ。
私が呼び寄せてしまった哀れな魂。当時は母と父の死で混乱していたせいだろう、碌に確認もせずこの世界に招いてしまった。
18年間、離れ離れにさせてしまった。
愚鈍な失態に己を滅ぼしたくなる。
今まで一人にさせてしまった分の罪滅ぼしを始めよう。ライの望むもの全てを理解し与えよう。愛する番を生涯をかけて守ると約束しよう。
愛してしまっては、後戻りはできない。
もしも裏切られたとしたら、私達二人だけの世界にしてしまえばいい。邪魔者のいない世界で共に生きればいい。
私は魔族と竜族の先祖返りだ。
焦ることはない、時間は沢山あるのだから。私にも、ライにも。平等に。
多くの者に歓迎され、喜ばれ。
辺りを確認しようと見回し、使用人達と視線が合う。
その途端、彼らは私にひれ伏した。
私が産まれて初めて知った感情は、孤独だった。
老若男女問わず、私に膝を突く。王でさえも私を敬い謙遜した。
だが、ただ一人、産みの親である男・・・母だけが私に他の感情を教えてくれた。
恐怖を、嫌悪を、驚きを。悲しみを・・・怒りを。
期待を、喜びを、信頼を、そして、親愛を。
だが、恋情だけは教えてくれはしなかった。
番が死んだ日、王は狂った。
私は母の肉体を生き返らせた。魂はもう消えていた。
蘇生後、以前とは異なる反応を見せる妻が偽物であることを、王は理解していた。
それでも私を咎めはしなかった。
むしろ感謝をされ、濁った瞳で私に尊敬の意を向ける。泣き顔が歪む。
やがて王は私が誰であるか、自分が誰であるかを忘れた。毎日心の死んだ番の傍らに居る。成立のしない会話を永遠と続ける。
見ていられない。
わたしは王さまなのかい?
───ええ、そうですよ。国王様。
わたしはこれからどうなるのだい?
───どう、したいですか?
わたしは、ずっと一緒にいたんだ。愛する者と。
───私は、王としての貴方を尊敬していました。
わたしはおまえのなんだったんだろうな。不思議だ。
───私は、貴方を生かしたいです。
わたしは、もうどうしようもないのだよ。私の、愛する、愛する
愛する、愛する────
王を、殺した。
死ぬと悟った王が見せた表情は、笑顔だった。そして最期に謝罪され、私の事も愛していたと告げられた。
何故、もっと早く気が付かなかったのだろうか。
父もまた、私を愛していた事に。
ただ他の者達と同様に尊敬しているのではなく、私の生き方を尊重していただけだという事に。
泣き叫び悔悟したとしても、もう手遅れだ。
私を人として愛してくれる者はもういない。
産まれた時に味わった孤独に包まれてゆく。私は父と母に望まれて産まれてきたというのに、私は二人に報いる事が出来なかった。
広がる鮮血と涙に、息が苦しくなる。消滅させた心臓を復元させようと試みる。
心臓の音は消えたままだ。それが意味する事は理解出来ていた。
一人になってしまう。私の判断によって。
人を殺めて正しいだなんて愚かな考えを持たなければ。唇を噛む。
重い影が心に残る。
そうして私は今、二人の死体を操作して国を管理している。
私は運命の番を恐れていた。
番が死ぬ事も。愛に溺れる事も。親の様に狂ってしまう事も。
悲惨で過酷な運命の在り方を。
私は齢5歳にして、私の運命の番という者が現れないように、本来この世界に来ることのない魂を呼び寄せることにした。彼女達は強い意志を持っている事が伺えたので、きっと私の運命を変えてくれる事だろう。
それからというものの、私は音も色も感じず、全ての事象に興味を失いながらも続いていく日々に厭悪していた。
だがしかし、非情にも彼と巡り会ってしまった。
彼に出会ってしまえば歯車は止まらない。
高鳴る胸の鼓動は、言いようのないほど求める本能は、どうしようもない。
恋をした。
そして恋情を知り、愛を知った。
運命の番という概念を捻じ曲げようとし、歪んだ世界にしてしまったと言うのに、私はそれでも彼を求めている。
私の国の民は、番という枷に囚われている様に思えたが、実はそうではなかったみたいだ。
運命の番というのはものの例えであり、実際はただ自身の心から求める人物を呼び出し、それを運命だと錯覚し、どうしようもない程愛してしまう現象であったのだ。
そして、出会った時は必ず魔力を消費する。
つまり、これは私達の国に古代から受け継がれてきた無意識の内に発動してしまう魔法の一種だったという訳だ。
私は狂う程愛おしい。
彼の魂を。彼の全てを。
私の命が続く限り、彼の命も続けよう。
私の事で真剣になってぶつかり、初心で愛らしい反応を見せてくれるのは、この世でただ一人、彼だけなのだから。
彼の姿をしていても、もしも異なる魂だと分かった時、私は絶望し、この世界を滅ぼしていただろう。
何としてでも彼をここに呼び寄せたことだろう。
彼の中身は別世界の魂だ。
私が呼び寄せてしまった哀れな魂。当時は母と父の死で混乱していたせいだろう、碌に確認もせずこの世界に招いてしまった。
18年間、離れ離れにさせてしまった。
愚鈍な失態に己を滅ぼしたくなる。
今まで一人にさせてしまった分の罪滅ぼしを始めよう。ライの望むもの全てを理解し与えよう。愛する番を生涯をかけて守ると約束しよう。
愛してしまっては、後戻りはできない。
もしも裏切られたとしたら、私達二人だけの世界にしてしまえばいい。邪魔者のいない世界で共に生きればいい。
私は魔族と竜族の先祖返りだ。
焦ることはない、時間は沢山あるのだから。私にも、ライにも。平等に。
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