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14話 魔術師団団長の令息①

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窓辺から夕日が差し込む。

今日は休日前なので、いつもより心に余裕がある。
現在時刻は16時、放課後だ。

お嬢様ティルミア様が語っていた恋だの何だのは、もう考えない事にした。この感情の正体が恋だとしても、結果的に報われることはないだろう。いや、恋だと仮定したらの話だ。断じて認めた訳ではない。

思考がまとまらず悩みすぎて何も手が付かない状況になりそうだったので、俺は趣味に没頭することにした。





そんな訳で俺は、魔法陣についてや時間停止魔法について、詳しく書かれた書物は無いかを確かめに、図書館へと出向いた 。この学園に入学してから図書館はお気に入りの場所だ。

そういえば、放課後の図書館には、総合成績で3位の王国魔術師団団長の息子、ベイス・グローリオがいつもいる。

青色の髪と金色の瞳をした寡黙なヤツだ。長髪なのでいつも一つ結びをしている。

実技は俺の方が秀でているが、座学に関してはベイスの方が少しだけ優秀だ。
その為、ごく稀に分からなかった所についてを相談したり、一年前まではアドバイスし合ったりする仲であった。
親は伯爵だとかで、一応貴族だとか言っていた気がするが、ベイスは出生を鼻にかけていないので、いつも普通に話し掛けている。

ちなみにベイスと俺は特にライバルだとかそんな関係では無い。ベイスには他に苦手なヤツがいるらしいからな。教えてくれないけど。まぁ、大体は予想できている。

知り合い以上友人未満な俺達の関係は、ノアディアの転入を機に呆気なく崩れていった。

俺が相談しにベイスの所に行こうとすると、ノアディアが何故か「分からなかったことでもありましたか?」と聞いてきて、「別にないけど?」と言っても何が分からなかったのかを勝手に推測され、説明され・・・。俺はマウントを取られている気持ちになった。

しかし、思いのほかノアディアの説明はとても堪能たんのうで理解しやすかった。俺の幼少期に魔法を教えていた教師と教え方が似ていたこともあり、気に食わないが彼の解説は大いに参考になった。

そういう訳で、今ではすっかりベイスと話す機会は無くなった。

そういやベイスは攻略対象者の一人だと瓶底メガネ少女リリーアは言っていたな。スペックの高さから納得せざるを得ないなと一人頷く。





閑話休題、図書館に到着したので、早速目当ての書物を探す。魔法学園と呼ばれるだけあって、魔法関連の本は山ほどある。

休日や放課後は一般の人達も利用することが出来るので、様々な年代の人達がゆっくりと本を読んだり勉強をしていたりする。
前世ではあまり図書館に出向くことはなかったが、慣れると案外この穏やかな空間にいるのも悪くない。

「・・・。」

「どうかしたのか?」

「・・・何でも。」

適当な本を手に取り席に着き、魔法についての調べ物をしていると、急に攻略対象者ベイスが隣に座ってきた。
やっぱりこの時間に図書館にいるんだな。久しぶりに会話したが、相変わらず静かな声で気だるげな返答をされる。

「・・・。これ。」

そう一言言ってベイスが差し出してきたのは、丁度探していた内容と合致する本だった。タイトルは「魔法と魔法陣の関連性」というものと、「時を止める竜族」というものだ。

「お。ありがと。」

どちらとも隣国であるデウギウスの古代文字で執筆されていたので、それを調べる辞書も探さないとな、と思い、席から離れようとする。

「・・・。はい。」

ズイッ。と押し付けてきたそれは、探そうとしていた辞書だった。

「えっ。あ、ありがとう。」

「・・・。」

何だ、お前は図書館の精霊か?それとも気配りの天才なのか?

「そういえばベイスって、いつも休日オシャレなカフェでケーキ食べているよな。あんなに食って太らないのか?」

久しぶりに会話でもするかと思い、いつも疑問に思っていたことを口に出す。

「・・・!?何故それを・・・。」

「俺が自炊している事は知っているだろ?いつもは親に頼んで食材を学校まで送ってもらっているんだが、たまに城下町へ買い出しに行く時があってな。その時いつもカフェにいるな、って。」

「・・・。」

顔を赤くしてうつむいてしまった。

「もしかして聞かれたくなかったことだったか!?あっ・・・ごめん。お詫びに今度ケーキ作ってやるから機嫌直せよな。」

予想外に大きな声で言葉を切り出してしまったので、声のボリュームを下げてお詫びについてを話す。

すると、勢いよく顔をあげて笑顔を輝かせながらこちらを見てきた。

「・・・いいのか?」

「まぁ、丁度お菓子作りしようってクラスメイトから誘われていたからな。もののついでだ。」

悪役令嬢ことティルミア様からしつこくお菓子を作ろうと誘われるので、それを言い訳にして安心させる。

ノアディアと違ってベイスの年相応の反応を見て安心してしまう。気にしていなかったが、前世を合わせたら同年代のヤツらよりも俺の方が年上なんだよな。

だからクラスメイトに対しては弟や妹に接するみたいに気楽でいられるので、普通に話せる。

だが、ノアディアは俺よりも大人で誠実な対応をする上、いつも皆とは違う次元にいるみたいな雰囲気を醸し出している。そんなところも気に食わなかったから、つい意地を張ってしまうのだ。大人気ないな。

ちゃっちゃとベイスが探してくれた本を借りて、俺は次の目的地へと急ぐ。
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