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3話 追いかける狼

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おばあさんのお見舞いをした翌日、いつもの様に両親の経営しているパン屋のお手伝いをしていた。

しかし、お昼頃焼き上がったパンを棚に陳列していると、急にグレイが来店してきた。
何か買うのかなとじっと見ていたら、彼に手を握られてどこかへ連れていかれそうになってしまった。

手を繋がれてビックリしてしまい、逃げようとしたが物凄く睨まれて怖くなり、大人しく着いていくことにした。

店内でお客様のお会計をしているお母さんは、連れていかれる息子を楽しげに眺めるだけで助けてはくれなかった。挙句の果てに、お店は任せなさいと言われてしまった。酷い。

────そして今、お店の裏口にいるのだが・・・。

「おい、エル。てめぇ昨日はよくも逃げやがったな。」

「ひぃぃっ、お金は持ってません。」

開口一番に、ドスの効いた声で脅されてしまった。その上グレイに壁ドンされている状況だ。壁が少しへこんでいるので壁ドンじゃなくて壁ドゴかな。怖い怖い怖い。

もしかして、カツアゲされてるのかな。お金なんて持ってないよ。

「金だァ?そんなモンいらねぇよ。それよりなんで逃げた。」

「な、なんでって、用事があって。」

「オレと会えて嬉しいんじゃねェのかよ?」

再び壁ドゴされる。日本だったら器物損壊罪で逮捕されちゃうよ。やめてよ。

「勘弁して下さいぃ・・・。」

「・・・ッチ。」

あまりの破壊力に思わず泣いてしまったら舌打ちをされた。もうお家・・・いや、お店に帰りたい。

「泣くなって。その顔見たくない。・・・心臓に悪ィ。」

そう言って手で涙を拭いてくれた。今日はハンカチ、持ってきてなかったのかな。

「ご、ごめ────」





「泥棒だ!!」

「捕まえろ!!」

謝ろうとした瞬間、大通りから騒がしい声が聞こえてきた。チラッ、と声のする方を見てみると、泥棒と呼ばれているのは体格のいい若い男で、追いかけているのは警察官達騎士達のようだった。

どこかで窃盗事件でもあったのだろうか。

「ッチ、やかましいな。おい、こっち来い、エル。」

大丈夫かなと騎士と泥棒を交互に見ていたら、急遽、狙いを定めたかのように自分に向かって泥棒が勢いよく走ってきた。

「うわっ、えっ、なになに!?」

「泥棒がナイフ持ってるぞ!」

「ったく、邪魔。」

ナイフをこちらへ向けて泥棒が突撃してくる。

しかし、グレイはナイフを持った泥棒の左手に蹴りを一撃入れ、肘を掴み左腕を背中にまわし、左膝で肩に体重をかけて、泥棒の身動きを取れなくさせた。

ナイフを持った相手に臆することなく軽々と制するグレイに見とれてしまう。

「おおー、凄い!!」

拍手をして賞賛する。手際のいい動きからして、毎日鍛えていたりするのだろうか。昔は自分と同じくらい弱かったのに、やっぱり5年も経てば人って変わっちゃうのか。

グレイの成長を少し寂しく感じている内に、騎士達はグレイに感謝を述べ、泥棒を捕らえて連行してくれた。





「・・・これくらいできて当たりめぇだろ。」

泥棒が連行されて行くのを見ながらぶっきらぼうに言うグレイ。耳がほんのりと赤くなっているので、褒められて嬉しかったのだろう。

見た目や喋り方は変わっていても、ふとした仕草は昔のままみたいだ。

「そうでもないよ、凄いよ!」

褒めていたら彼は下を向いてしまったので、昔のように耳を触ったり頭を撫でたりする。身長が高いので背伸びをして頑張って撫で回す。

グレイは撫でられるのがとても好きだったっけ。今も変わっていないといいんだけど。

「・・・って、テメェ!!そうやって昔からいつでもどこでも撫でくり回しやがって!!誰も見てない場所でそういうことはやれって言ってんだろ!?」

「ひぃっ!ダメだったの!?ごめんなさいごめんなさい・・・もう撫でませんから。」

怒られてしまった。やっぱり5年の間にグレイの性格変わっちゃったのかな。小さい時は毎日撫でてもいいよって言ってくれて嬉しかったのに。

「撫でるななんて言ってねェだろ!!!」

「うぐ・・・うう。」

本日3度目の壁ドゴをされてしまい、反射的に目に涙が浮かんでしまう。

「っだから、泣くなって・・・すまん。」

グレイは目を逸らして犬耳を後ろに倒し、ションボリとしてしまった。

「言いてぇことがあるんだけどよ、エル、オレと────」

「エル!大丈夫か!部下から連絡を受けたんだ・・・が・・・。」

グレイが真剣そうに何かを言いかけたが、兄が心配してやって来て、会話をさえぎってしまった。

「ここで何をやっている!グレーシィ!恐喝でもしているのか!?いい度胸してるじゃないか、牢にぶち込んでやる!」

イライラした様子で足音を響かせながら兄はグレイに近寄る。
このままではグレイが本当に捕まってしまいそうなので、グレイと兄の間に割り込んで、今にも喧嘩し出しそうな雰囲気を制止する。・・・グレイ、お店の壁ちょっと壊しちゃったし、確かに恐喝っぽいことしたし、でも、だからと言って捕まって欲しくはないし。

「お兄ちゃん、冗談でも言い過ぎだよ。・・・それで、グレイは何を言いたかったの?」

兄の暴走ですっかり涙が引っ込んだので、グレイに話を続けるように催促する。

「あー。いや、また今度言うから気にすんな。タイミング悪ぃし出直す。」





何を言いたかったのだろうと怪訝に思ったが、逆上した兄を落ち着かせている間にグレイはどこかへ行ってしまっていた。

また今度・・・今度会う時は怒鳴られないといいな。
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