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第2章~竜と少女たち~

6話「救出②」

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 サエラという娘を看病し1時間ほど経過したくらいか、サエラはカッ!と目を限界まで見開くと、とてつもない速さで飛び上がったのだ。

「姉さん!?」

 うむ。元気だな。
 しかし姉思いな妹よのぉ、この娘も。飛び起きてまず最初に言う言葉が姉さん・・・か。良い姉妹ではないか。
 うむうむと、我が微笑まし気に見ておると、キョロキョロと辺りを見渡していたサエラと目があった。

 鋭い目つきだ。刃物のように鋭く、無闇に触れるなとでも言う意思の表れにも見える。
 シオンとは真逆だな。おそらく全く正反対な性格なのだろう。
 それなのにこれだけでも仲が良いのだろうとわかるのは、多分二人がお互いを思い合っているからこそなのだろうな。

 支え合える人がいると言うのはどれほど素晴らしいことか。二人にはこれからも、この仲を大事にしてほしいと思ってしまう。

「・・・あなたは?」

 サエラは氷のような無表情のまま、我の瞳を見つめ返した。我を覗く瞳の中に、警戒心があるのは容易に察することができた。
 未知の相手に対して生まれた警戒心を解くことは容易ではないし、正しい判断だ。だからこそ、できるだけこちらから譲歩してらやんとな。

「ウロボロスだ」

 我は嘘をつくことはなく正直に答えた。どうせシオンと合流させたら我の正体もバレるのだし。
 そんな我の答えに対しサエラは、ジーッと我の顔を見つめてくる。そんな我を見つめちゃいやよ?である。

「・・・そう、あなたが」

 サエラは納得したのかコクンと頷いた。
 これには驚きである。随分とアッサリと我の言葉を信じたものだ。
 シオンも我がウロボロスということをすぐには信じなかったものだが、これは色々と事情を把握していると見て良いのだろうか?

「あの、私の姉さんを知ってますか?緑色の髪にホワットした感じの人で・・・」

「お主の看病をすると言っていたのだがな?小腹が空いたらしくて今食料を漁りに行っている」

 我がそう言うと、サエラはあからさまにホッとした様子を見せてくる。ふむふむ、貢物と一緒に生贄にされたシオンを助けに来たと言うわけで間違いなさそうだな。というかそれ以外の理由が見当たらない。
 そしてどうしたことか、サエラは我にペコリと頭を下げてきたのだ。
 ・・・?

「む?どうした急に」

「ありがとうございますウロボロス様。あなたは私達に良い思いなど抱いていないでしょう。にも関わらず、姉の命を見逃していただいて・・・」

「・・・とりあえず頭を上げぇい」

 我は呆れたため息を吐き、そうするよう言った。
 サエラは我の言葉に拒むことなく素直に頭を上げた。よく見て見ると、目元に小さな涙を浮かばせているではないか。
 ふむ、こやつもこやつで大変だったのだろうな。

「サエラよ、シオンから話は聞いておる。お主がレッテル出身者だと言うことは知っているし、我も思うところはある。」

 まぁ良い印象はない。レッテル・・・・にはな。

「だが、お主らはレッテル出身というだけで、我に何かしてきたわけではないだろう?むしろシオンからは大量の食料を譲ってもらって随分と助かったものだ。お主らが気にすることではない」

「・・・ですけど・・」

「それに、今は我より話したい相手がいるだろう?」

 我が意味ありげに背後を指差すと、しばらくして言葉の意味がわかったサエラは肯定するように頷いた。
 足音でシオンが貢物置き場から戻ってくるのが大体分かる。歩く速度がやけに遅いな、サエラに食わせる分も持ってくるつもりなのだろう。
 そういえば、あの大量の貢物を運んだのもシオンだったな。あんな大量の物資を背負って山道を歩く体力は凄まじいと思う。

「あ、サエラ!!よかった、気がついたんですね!」

「姉さんこそ、本当によかった」

 氷のように動かない無表情が、シオンの笑顔を見た瞬間溶けるように緩んだ。限界まで張っていた気も大分ゆるんだことだろう。
 姉であるシオンはサエラを目にした瞬間、大量の食料を両手で抱え込んでいるくせにサエラの元へ大急ぎで近づいていく。危ない危ない、転んだらどうするつもりだ。
 我の心配をよそに、シオンは軽快な足取りでサエラに迫っていく。しかし迫られる側からしたらたまったものじゃないだろうな。なんせ転べばその物量は自分に流れ落ちてくるのだから。
 ほれ、地味にサエラがビビっておる。

「全くどうしたんですか、そんな服に足の怪我。わたしが回復魔法を使わなかったら大変なことになってましたよ?」

 山盛りの食料を無事下ろし、シオンはサエラの身を案じるように頬を撫でた。
 うむ。シオンの言う通り、サエラの足の怪我はかなり深かった。おそらく矢に射抜かれたのだろうが、怪我したにも関わらず最低限の治療も施されていなかったのだ。
 その後も酷使した跡もあり、正直傷口がかなりえぐい事になっておったぞ。
 シオンがいて良かった。驚くべきことに、彼女はなんと回復魔法を使いこなすことができたのだ。

 回復魔法とは、文字通り損傷した体を回復、再生させることができる魔法である。その効果は使う術者によるが、最低でも止血程度の能力があると言われているらしい。
 まぁ我の「リザレクション」の下位互換とも呼べるべき魔法だろう。シオンは才能があったのか、サエラの傷を跡に残すことなく治療した。

 何とかなって良かったが、問題はまだ残っている。誰が、サエラに怪我を負わせたのかだ。

「・・・レッテルから出るときにやられた。村の上層部・・・村長や叔母さんは、本気でウロボロス様を殺すつもり」

「勇者を使って・・・か」

 我は二人に聞こえない程度の小さな声で「ふぅ」とため息を付き、頭をカリカリと掻いた。
 どれだけの犠牲を払ってでも、あの者たちは我の素材を手に入れるつもりなのか?たとえシオンとサエラを殺してでも?
 そこからサエラが今レッテルで起きていることを続けて教えてくれた。

「叔父さんが・・・」

 シオンが悲しげにその人のことを声に漏らした。
 その老エルフはサエラたちに味方してくれたらしい。が、逃がすだけで精一杯だったようだ。
 サエラを逃がすこと自体もリスクが大きかったハズだ。事実サエラは足に深手を負ってしまった。なんとかシオンとサエラが合流できたから良かったものの、正直かなり危険な賭けだったろうに。ここにたどり着く前にモンスターに襲われ逃げ切れない可能性もあったわけだし。
 それに、自身の危険も・・・。

「・・・感謝しないとですね・・・」

「・・・うん」

 それ以上は何も言わず、シオンはサエラを抱きしめた。おそらく叔父とやらは・・・最悪の場合もうすでに始末されているのだろう。
 生きていたとしても、どれほどの苦痛を味わされているのか。
 そしてこの少女たちは、どんな恐怖を味わったのだろう?先日まで平和だった村で、急に知り合いや親戚が自分たちを殺しにかかってきているのは・・・。

「・・・」

 我には想像することしかできない。何度も死を経験した我だが、その苦しみだけは理解することができなかった。
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