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第2章~竜と少女たち~
4話「サエラ、怒りの救出劇①」
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目が覚めると、まず私の感覚を刺激したのは無機質な冷たさだった。
ここはどこだ・・・?私は一体何をしていたんだ・・・?
薄れた記憶、まるで霞んだ霧の中で迷子になったかのような感覚。
体がダルい。また眠ってしまおうか・・・そう思った瞬間「ズキン」と、鋭く痛みとも言えるだろう刺激が私の意識を現実に戻した。
「―――っ!?痛っつ・・・」
痛みはうなじから感じた。思わず利き手で押さえようとするも、私の手は動かない・・・いや、正確には「両腕」が。
縄で荒く、そしてきつく縛られていたのだ。とてもじゃないが私の腕力では振りほどくことはできない。
でも姉さんなら・・・んんー、でも普通にできそう・・・。
あ、そうだ。
「姉さんっ!」
そうだ、私は姉さんが生贄にされることを反対していた。だから村の集会所にも殴り込みする勢いで突撃した・・・ここまでは覚えてる。
その後は、確か・・・
私はもう悪魔にしか見えなくなった叔母の顔を思い出し、あの女が言っていた言葉を思い出す。
記憶は意識するだけで簡単に蘇るのはありがたいが、言葉にするだけで腸が煮え返りそうになるこの思いをどうにかしたい。
『アンタが何を言おうと、もう無駄だよ。シオンはもう生贄として送り出した』
ギリィっと、口の中から硬い音が聞こえてきた。無意識に歯ぎしりしていたようだ。
ここまで思い出したあとは、もうすべてが鮮明な記憶として存在していた。
姉さんがベヒモスウォールの頂上・・・名称は「竜王の巣」と呼ばれる小さな洞窟まで送られたと聞いたとき、私は叔母を説得することを止めてすぐに集会所を出て行った。
生贄のことに肯定的な人も否定的な人も、ほとんどの人が私を止めようとしたが応じる気は全くなかった。
理由は単純。頂上は、ウロボロスがいてもいなくても危険なエリアとして有名だっただからだ。
10メートルを越える巨大象型モンスターのギガントマンモス。巨大なサーベル状の犬歯が特徴的なケイブ・スミロドン。種類に限らず10頭以上の大型狼を従えることができるアルファ・ウルフ。一流の狩人が揃っても狩ることができない凶悪な魔物の生息地。
いくら狩人として働いていても子供を行かせるには危険すぎる土地だ。
首が痛むし、意識が不安定だということは、誰かが私を気絶させたということだ。私はそれを知っている。
叔母だ。
あの人は私の背後から魔法を撃って無理矢理気絶させたのだ。気絶する瞬間、叔母が小さく詠唱を唱えていたから間違いない。
叔母は私を心配して気絶させたのではない。間違いなく「竜王の巣」とやらに行かせないようにするためだ。
どれくらい意識を失っていたかはわからないが、もう既に姉さんが「竜王の巣」に到着しているなら、危険な目に会うのは想像に容易い。
一刻も早く、この縄を解かねば・・・私は縄を解く方法を探すがてら、ここがどこかを把握するために辺りを可能な限り観察する。
と言っても、何もない。私はただ無骨な牢屋の中に放り出されているだけだ。ランプもろうそくも見当たらない。
明かりは壁際に生えている小さなヒカリゴケがわずかに照らしてくれている。
冷たいのは平らな岩で敷き詰められた床のせい。寝床とも言えるのはボロ雑巾の方がまだ温かみがあると言えるだろう薄い布。あとは外に通じているのであろう鉄格子のかかった通気口。
「・・・」
扉を閉めているのは古いタイプの南京錠だけ・・・棒とヘアピンでもあれば開けることはできるけど、あまり女のとして趣味や服装を心がけていなかった私にそんな道具は持ち合わせていなかった。
そもそも、持っていたとしても没収されているのは間違い無いだろう。服はいつもの作業服ではなく麻袋で作ったであろう簡易的なものに着替えさせられている。
盗賊が使う解錠スキルの類でもなければここから脱出するのは不可能だ。
あまりに厳しい現状に、私は小さく舌打ちを漏らす。
「だからって・・・諦めない・・・っ!」
今この瞬間でも、姉さんの命が危険に晒されているかもしれない。そう思う限り、私は抵抗をやめるつもりはなかった。
と言っても両手の自由は奪われ、道具も皆無。手入れの行き届いていないオンボロの牢屋だとしても、脱出するのは極めて困難だろう。
だとしたら・・・鉄格子のある通気口から脱出すべきか。さすがに通気口の中に見張りはいないだろうし、一度外に出れればこっちのものだ。
通気口までの距離は5メートル・・・スキルと魔法を併用すればギリギリ届くかもしれない。
けど、私は起き上がりながら牢屋の外を睨みつける。私の見えない場所に見張りはいるはずだ、無詠唱ができない私じゃ魔法を使った瞬間に監視にバレる。
ただ通気口に届けばいいというわけじゃない。そこからなんとかして鉄格子を開けなければならない作業が待っているのだ。できるだけ音を立てずに、そっと・・・。
私がスキルを発動させようとした、その時だった。
「さ、サエラ・・・か?そこにいるのは・・・」
今にも息絶えそうな老人の声が、私の耳に届いたのだ。
「っ!?誰!!」
私は声が聞こえた方に振り向き、周囲には聞こえない程度の鋭い声と強い警戒を謎の人物に向けた。
しばらくするとそれは、半透明となって徐々に姿を現し、最後はボロ布に包まれた無残な姿を晒け出した。
その人物は、私がよく知っている人物だった。
「お、叔父さん!?」
見るに堪えない姿となったその人は・・・私と姉さんを育ててくれた叔父だった。
暗いせいでよくは見えないが、顔は至る所が殴られたのか血と痣だらけになっていて、ボロ布からはみ出した足は間接の部分に包帯が巻かれている。ただ、血が滲んでる部分を見ればそれが腱を切断した後だというのはすぐにわかった。
叔父の変わり果てた姿に驚いた私は、見張りがいることも忘れて側に駆け寄る。
「叔父さん・・・どうしてそんなっ」
今日の朝までいつもの元気な姿だったのに・・・
「ゴホッ・・・やはりサエラか、ということは・・・シオンは・・・」
叔父さんは事情を知っているようだった。私は拳を握りしめ、叔父さんの察しているだろう結末に頷いた。
「姉さんは・・・頂上に・・・」
「そ・・うか、すまんな、サエラ、儂は止めることができなかった」
叔父さんが悔しさと悲しさを練り混ぜたかのような表情でそう言った。
姉さんを生贄として送り出すことに一番に反対したのは叔父さんだったのだろう。でも、だからってこんな傷・・・放っておけば死んでしまうような外傷を負わせる必要がどこにあったんだ!!
悪いのは叔父さんじゃない。そう言いたかったのに、うまく口を動かすことができなかった。出たのはうめき声に近い嗚咽だけ。
私は溢れ出る自分の涙にさえ気づかず、叔父さんの手を握った。悲しかった。憎たらしかった。私の大事な二人を傷つけるあのクソババアが憎たらしくてしょうがなかった。
しばらく叔父さんは、そんな私を力なく見ているとこんなことを言い出した。
「・・・サエラ、お前に、ウロボロスの真実を、教えておく・・・」
「もう・・・やめてよ、聞きたくない・・・そんな話っ!!」
「聞きなさいサエラ。」
叔父さんの今までにない厳しい口調に、一瞬ビクリと驚いた。だけど頬を撫でる手は、いつもの叔父さんの優しく温かい手だった。
口をつぐみ、黙って叔父さんに頷く。
それを見て満足げに頷く叔父さんは、伝説と呼ばれるウロボロスと、この村の竜の巫女姫の真実について教えてくれた。
ここはどこだ・・・?私は一体何をしていたんだ・・・?
薄れた記憶、まるで霞んだ霧の中で迷子になったかのような感覚。
体がダルい。また眠ってしまおうか・・・そう思った瞬間「ズキン」と、鋭く痛みとも言えるだろう刺激が私の意識を現実に戻した。
「―――っ!?痛っつ・・・」
痛みはうなじから感じた。思わず利き手で押さえようとするも、私の手は動かない・・・いや、正確には「両腕」が。
縄で荒く、そしてきつく縛られていたのだ。とてもじゃないが私の腕力では振りほどくことはできない。
でも姉さんなら・・・んんー、でも普通にできそう・・・。
あ、そうだ。
「姉さんっ!」
そうだ、私は姉さんが生贄にされることを反対していた。だから村の集会所にも殴り込みする勢いで突撃した・・・ここまでは覚えてる。
その後は、確か・・・
私はもう悪魔にしか見えなくなった叔母の顔を思い出し、あの女が言っていた言葉を思い出す。
記憶は意識するだけで簡単に蘇るのはありがたいが、言葉にするだけで腸が煮え返りそうになるこの思いをどうにかしたい。
『アンタが何を言おうと、もう無駄だよ。シオンはもう生贄として送り出した』
ギリィっと、口の中から硬い音が聞こえてきた。無意識に歯ぎしりしていたようだ。
ここまで思い出したあとは、もうすべてが鮮明な記憶として存在していた。
姉さんがベヒモスウォールの頂上・・・名称は「竜王の巣」と呼ばれる小さな洞窟まで送られたと聞いたとき、私は叔母を説得することを止めてすぐに集会所を出て行った。
生贄のことに肯定的な人も否定的な人も、ほとんどの人が私を止めようとしたが応じる気は全くなかった。
理由は単純。頂上は、ウロボロスがいてもいなくても危険なエリアとして有名だっただからだ。
10メートルを越える巨大象型モンスターのギガントマンモス。巨大なサーベル状の犬歯が特徴的なケイブ・スミロドン。種類に限らず10頭以上の大型狼を従えることができるアルファ・ウルフ。一流の狩人が揃っても狩ることができない凶悪な魔物の生息地。
いくら狩人として働いていても子供を行かせるには危険すぎる土地だ。
首が痛むし、意識が不安定だということは、誰かが私を気絶させたということだ。私はそれを知っている。
叔母だ。
あの人は私の背後から魔法を撃って無理矢理気絶させたのだ。気絶する瞬間、叔母が小さく詠唱を唱えていたから間違いない。
叔母は私を心配して気絶させたのではない。間違いなく「竜王の巣」とやらに行かせないようにするためだ。
どれくらい意識を失っていたかはわからないが、もう既に姉さんが「竜王の巣」に到着しているなら、危険な目に会うのは想像に容易い。
一刻も早く、この縄を解かねば・・・私は縄を解く方法を探すがてら、ここがどこかを把握するために辺りを可能な限り観察する。
と言っても、何もない。私はただ無骨な牢屋の中に放り出されているだけだ。ランプもろうそくも見当たらない。
明かりは壁際に生えている小さなヒカリゴケがわずかに照らしてくれている。
冷たいのは平らな岩で敷き詰められた床のせい。寝床とも言えるのはボロ雑巾の方がまだ温かみがあると言えるだろう薄い布。あとは外に通じているのであろう鉄格子のかかった通気口。
「・・・」
扉を閉めているのは古いタイプの南京錠だけ・・・棒とヘアピンでもあれば開けることはできるけど、あまり女のとして趣味や服装を心がけていなかった私にそんな道具は持ち合わせていなかった。
そもそも、持っていたとしても没収されているのは間違い無いだろう。服はいつもの作業服ではなく麻袋で作ったであろう簡易的なものに着替えさせられている。
盗賊が使う解錠スキルの類でもなければここから脱出するのは不可能だ。
あまりに厳しい現状に、私は小さく舌打ちを漏らす。
「だからって・・・諦めない・・・っ!」
今この瞬間でも、姉さんの命が危険に晒されているかもしれない。そう思う限り、私は抵抗をやめるつもりはなかった。
と言っても両手の自由は奪われ、道具も皆無。手入れの行き届いていないオンボロの牢屋だとしても、脱出するのは極めて困難だろう。
だとしたら・・・鉄格子のある通気口から脱出すべきか。さすがに通気口の中に見張りはいないだろうし、一度外に出れればこっちのものだ。
通気口までの距離は5メートル・・・スキルと魔法を併用すればギリギリ届くかもしれない。
けど、私は起き上がりながら牢屋の外を睨みつける。私の見えない場所に見張りはいるはずだ、無詠唱ができない私じゃ魔法を使った瞬間に監視にバレる。
ただ通気口に届けばいいというわけじゃない。そこからなんとかして鉄格子を開けなければならない作業が待っているのだ。できるだけ音を立てずに、そっと・・・。
私がスキルを発動させようとした、その時だった。
「さ、サエラ・・・か?そこにいるのは・・・」
今にも息絶えそうな老人の声が、私の耳に届いたのだ。
「っ!?誰!!」
私は声が聞こえた方に振り向き、周囲には聞こえない程度の鋭い声と強い警戒を謎の人物に向けた。
しばらくするとそれは、半透明となって徐々に姿を現し、最後はボロ布に包まれた無残な姿を晒け出した。
その人物は、私がよく知っている人物だった。
「お、叔父さん!?」
見るに堪えない姿となったその人は・・・私と姉さんを育ててくれた叔父だった。
暗いせいでよくは見えないが、顔は至る所が殴られたのか血と痣だらけになっていて、ボロ布からはみ出した足は間接の部分に包帯が巻かれている。ただ、血が滲んでる部分を見ればそれが腱を切断した後だというのはすぐにわかった。
叔父の変わり果てた姿に驚いた私は、見張りがいることも忘れて側に駆け寄る。
「叔父さん・・・どうしてそんなっ」
今日の朝までいつもの元気な姿だったのに・・・
「ゴホッ・・・やはりサエラか、ということは・・・シオンは・・・」
叔父さんは事情を知っているようだった。私は拳を握りしめ、叔父さんの察しているだろう結末に頷いた。
「姉さんは・・・頂上に・・・」
「そ・・うか、すまんな、サエラ、儂は止めることができなかった」
叔父さんが悔しさと悲しさを練り混ぜたかのような表情でそう言った。
姉さんを生贄として送り出すことに一番に反対したのは叔父さんだったのだろう。でも、だからってこんな傷・・・放っておけば死んでしまうような外傷を負わせる必要がどこにあったんだ!!
悪いのは叔父さんじゃない。そう言いたかったのに、うまく口を動かすことができなかった。出たのはうめき声に近い嗚咽だけ。
私は溢れ出る自分の涙にさえ気づかず、叔父さんの手を握った。悲しかった。憎たらしかった。私の大事な二人を傷つけるあのクソババアが憎たらしくてしょうがなかった。
しばらく叔父さんは、そんな私を力なく見ているとこんなことを言い出した。
「・・・サエラ、お前に、ウロボロスの真実を、教えておく・・・」
「もう・・・やめてよ、聞きたくない・・・そんな話っ!!」
「聞きなさいサエラ。」
叔父さんの今までにない厳しい口調に、一瞬ビクリと驚いた。だけど頬を撫でる手は、いつもの叔父さんの優しく温かい手だった。
口をつぐみ、黙って叔父さんに頷く。
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