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〜第6章〜ラドン編
74話「ヘル・シング・ドラクラ」
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ズドォォォン!
わかりやすい破壊音が集会所全体を揺らし、その轟音に隠れるかのようにシング族たちの小さな悲鳴が上がった。
揺れた地面に釣られて転ばないよう、重い物や柱に机、何かに捕まって耐える。
ようやく揺れが収まり、皆が安堵の息を吐いても、今度は耳をつんざく怪物の雄叫びが聞こえた。
一体外で何が起きている。シング族の長トールマンは見えない天井に阻まれた外を見るように細い目で睨んだ。
大量のヤゴが洞窟の天井から出現したのは数十分前のこと。それまではおそらく魔法であろう特殊な音が聞こえていたが、今では怪獣でも暴れているのではないかと思うほどの轟音が幾度もなく鳴り響いている。
『ジュラァァァァァ!!』
まただ。文献などの情報でしかないが、言い表すなら竜の咆哮としか思えない雄叫びが聞こえてくる。
なぜだろうか、聞いたこともないはずなのに昔から聞いてきたような懐かしい感情が沸くのである。
ヤゴにはなかった、恐怖ではない感情。こっちへ来てとでも言われているような。
「お、お父さん・・・」
気が付けば、たった一人の娘が自身の服を握っていた。不安そうな表情はガタガタと震え、手には手汗が滲んでいる。
ラスは怯えている。トールマンは鉄壁のように表情を動かさないが、内心は慌てていた。
娘が怯えている。どうしたらいい?
「心配は必要ない。彼らは強いのだから」
ゴツゴツした無骨な手でラスの頭を撫でる。己の手はどこもかしこも豆や傷だらけで、石のように硬い。けれどもラスは安堵したように服を握る手の力を緩めた。
ラスが誘拐された時は焦りに焦った。集落を探し回ったことはもちろん、生活域の外である迷路のような洞窟も歩き回った。
だがラスを見つけることはできなかった。だからウロボロスたちがラスを連れてきた時は、顔にこそ出せなかったが感謝の気持ちで一杯一杯だった。
娘を誘拐した犯人はわからない。もしかしたらあのヤゴたちの親玉がラスを狙っているのか。
何もわからないのだ。トールマンは己の無力さを恥じる。
それから数十分後、集会所が崩れるのではと懸念するほどの揺れも音も収まり、周囲は異様な静けさに包まれた。
勝ったのか、負けたのか。窓もふさがれ、完全に外の情報を取り込めなくなったシング族たちは不安にかられた表情でドアを眺めていた。
「長、どうしましょう?」
この集落では珍しい男性のシング族がトールマンを見上げて尋ねる。
「・・・私が外を見てこよう。お前たちは中で待機してーー」
「その必要はないよ」
甲高い、子供のような声。反射的に振り返るとそこには・・・
「ウーロ、殿?」
ウロボロスに酷似した子竜・・・ヨルムンガンドがニコリと笑ってトールマンを見据えた。
少し忙しく、更新が遅れます。
次回は水曜日のお昼です
わかりやすい破壊音が集会所全体を揺らし、その轟音に隠れるかのようにシング族たちの小さな悲鳴が上がった。
揺れた地面に釣られて転ばないよう、重い物や柱に机、何かに捕まって耐える。
ようやく揺れが収まり、皆が安堵の息を吐いても、今度は耳をつんざく怪物の雄叫びが聞こえた。
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「お、お父さん・・・」
気が付けば、たった一人の娘が自身の服を握っていた。不安そうな表情はガタガタと震え、手には手汗が滲んでいる。
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娘が怯えている。どうしたらいい?
「心配は必要ない。彼らは強いのだから」
ゴツゴツした無骨な手でラスの頭を撫でる。己の手はどこもかしこも豆や傷だらけで、石のように硬い。けれどもラスは安堵したように服を握る手の力を緩めた。
ラスが誘拐された時は焦りに焦った。集落を探し回ったことはもちろん、生活域の外である迷路のような洞窟も歩き回った。
だがラスを見つけることはできなかった。だからウロボロスたちがラスを連れてきた時は、顔にこそ出せなかったが感謝の気持ちで一杯一杯だった。
娘を誘拐した犯人はわからない。もしかしたらあのヤゴたちの親玉がラスを狙っているのか。
何もわからないのだ。トールマンは己の無力さを恥じる。
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「その必要はないよ」
甲高い、子供のような声。反射的に振り返るとそこには・・・
「ウーロ、殿?」
ウロボロスに酷似した子竜・・・ヨルムンガンドがニコリと笑ってトールマンを見据えた。
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