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〜第6章〜ラドン編
73話「爬蜻蛉」
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ボロスフライという名の巨大モンスターは空気を切るように翼が変化しているようだ。羽根自体の筋肉は非常に少なく、ほぼ甲殻と骨のみで構成されており、背中と根本の部分が異常に発達しているようだ。ドラゴンよりワイバーンのような発達の仕方である。
だがそれもそのはず。なぜなら滑空して迫ってくるボロスフライは体重の軽い若いドラゴンよりもはやい速度で迫ってきているからだ。
物体の速さはそのまま衝突する対象へのダメージに変わる。ボロスフライ自体の体の硬さはわからんが、あれほどの質量が衝突してきたら防御を固めた集会所と言えど吹き飛んでしまうかもしれん。
全長20メートル前後。かなりの巨体だ。
迎撃するにはガルムの風魔法か、魔女の呪術か。
「キィィィイイ!ギィィィィィィィィッ!!」
だがそれよりももっと確実な方法があった。ティの巨大化である。スプリガンである彼女は自分の体を際限なく・・・魔力がある限り巨大化させることが可能なのだ。
ティはぼろすボロスフライに対抗するつもりか、その体を同じく20メートルくらいまで肥大させた。集会所はおろか、我らも踏みつぶされるかと思った。
ティは10メートルや20メートルなど人間が取り決めた正確な長さは知らないだろう。あくまでサイズを似せたのは本能からか。やはり魔法が普及するこの世でも体の大きさというのは強力な武器らしい。大口で吠えるティはワイバーンにも劣らない迫力をもっていた。
「ひぃっ!?な、なんなのですかあれは!」
「スプリガンだねぇ・・・にしてはぁ、ちょっと強そうな気もぉ・・・」
伯爵もクルーウも一瞬で巨大化したティを見て困惑したセリフを吐いていた。それもそうだな。まさか竜か亜竜の遺伝子を継いでいるという可能性など一切ないだろう。
「ギィィィィィッ!」
ティは体に比例して肥大化した触腕を大振りに振り回し、それは手の長さだけで体の半分・・・10メートル近くあり、急速接近してくるボロスフライの顔に向けて勢いよく振り下ろした。
「ジュグッ!?」
ティの触腕はボロスフライの顔の側面に激突し、首が変な風に曲がった。180度ほど捻じれた。そこらの生き物なら即死ものだろう。
ボロスフライは小さく鳴き声を上げると首の向きと同じように体を傾けて地面に激突し、そのまま方羽を削りながら滑って行った。
「ギィィィィィィ」
ティが勝利の雄たけびを上げた。なるほど単純な力勝負ではティが上らしい。それもそうか、ボロスフライはどういうわけかドラゴンに酷似した見た目をしているが、構造はワイバーンのように軽量化されているようだ。防御面では紙装甲といっても過言ではないのやもしれん。
「バカな!?我が先祖が作りし人工の竜が・・・!」
ふむ、伯爵は魔法の研究や生物の改造などの知識はあるようだが、戦闘に関しては無知もいいところであるようだ。
しかし人工の竜か。姿形を似せているだけなら良いのだが・・・どうやらそれだけではないらしい。
首をへし折られたボロスフライは爬虫類と大差ない6本の足で立ち上がり、折れた首を筋肉を使って元に戻した。
骨がないのやもしれん。
「ジュラァァァァァァッ!!」
ボロスフライが叫ぶ。それは威嚇ではなく、自身を鼓舞するためのようにも見えた。
なぜならボロスフライの魔力が活発的に体内を循環し始めたからだ。尻尾の先端に無数の球体が生え、例えるならブドウのように膨らみ始める。
「キュガァァァ!」
「ジョー!ジョー!!」
「ギギキッ!!」
ブドウのようだが、それは甘い果実ではない。膨れ切った水風船のように弾け、中から人と虫を掛け合わせた姿を持つ異形が現れたのである。
遠目から見たら猫背の人間に見えるが、背から生えるトンボの羽が怪物であることを誤魔化せない。
口の先端は2、30センチはあろう針が伸びていて、纏う魔力から推測してアレで血液を吸引するのだろう。
バンパイアではなく、モスキートと呼称した方が良いかもしれない。
「なにあれ」
「知らないです。図鑑でも見たこともないですよ」
サエラの問いにシオンは答えられなかった。歩く辞書も同然のシオンも知らんとなると、やはり伯爵によって生み出されたオリジナルの魔物ということか。
確かに、自然界にいるような生き物とは思えん。
なぜならモスキートは誕生した瞬間に翼を動かし、こちらに向かってきたからだ。
幼年期どころか青年期すらない。生まれた瞬間にはもう成体とは、まるで戦うためにのみ生まれたような存在である。
哀れだが、襲ってくるのであれば容赦はせん。
「我がボロスフライを仕留めてくる」
「え、ちょ!?」
シオンの制止する声を置いていき、我はモスキートを量産するボロスフライの元へ飛び立った。
ボロスフライは飛んでくる子竜の姿を見て、歓喜したように口を大きく開ける。まるで我が来ることを待ち望んでいたかのように。
「ジュラァァァァア!」
何故だろうな。普段の我なら集会所の屋根にいたまま遠距離攻撃に徹していただろう。だがこやつを見ていると一対一でやり合わねばならん気がするのだ。
「ゴガァァァァッ!!」
ボロスフライに応えるため、我も大きく咆哮を鳴らした。
次回は水曜日のお昼です
だがそれもそのはず。なぜなら滑空して迫ってくるボロスフライは体重の軽い若いドラゴンよりもはやい速度で迫ってきているからだ。
物体の速さはそのまま衝突する対象へのダメージに変わる。ボロスフライ自体の体の硬さはわからんが、あれほどの質量が衝突してきたら防御を固めた集会所と言えど吹き飛んでしまうかもしれん。
全長20メートル前後。かなりの巨体だ。
迎撃するにはガルムの風魔法か、魔女の呪術か。
「キィィィイイ!ギィィィィィィィィッ!!」
だがそれよりももっと確実な方法があった。ティの巨大化である。スプリガンである彼女は自分の体を際限なく・・・魔力がある限り巨大化させることが可能なのだ。
ティはぼろすボロスフライに対抗するつもりか、その体を同じく20メートルくらいまで肥大させた。集会所はおろか、我らも踏みつぶされるかと思った。
ティは10メートルや20メートルなど人間が取り決めた正確な長さは知らないだろう。あくまでサイズを似せたのは本能からか。やはり魔法が普及するこの世でも体の大きさというのは強力な武器らしい。大口で吠えるティはワイバーンにも劣らない迫力をもっていた。
「ひぃっ!?な、なんなのですかあれは!」
「スプリガンだねぇ・・・にしてはぁ、ちょっと強そうな気もぉ・・・」
伯爵もクルーウも一瞬で巨大化したティを見て困惑したセリフを吐いていた。それもそうだな。まさか竜か亜竜の遺伝子を継いでいるという可能性など一切ないだろう。
「ギィィィィィッ!」
ティは体に比例して肥大化した触腕を大振りに振り回し、それは手の長さだけで体の半分・・・10メートル近くあり、急速接近してくるボロスフライの顔に向けて勢いよく振り下ろした。
「ジュグッ!?」
ティの触腕はボロスフライの顔の側面に激突し、首が変な風に曲がった。180度ほど捻じれた。そこらの生き物なら即死ものだろう。
ボロスフライは小さく鳴き声を上げると首の向きと同じように体を傾けて地面に激突し、そのまま方羽を削りながら滑って行った。
「ギィィィィィィ」
ティが勝利の雄たけびを上げた。なるほど単純な力勝負ではティが上らしい。それもそうか、ボロスフライはどういうわけかドラゴンに酷似した見た目をしているが、構造はワイバーンのように軽量化されているようだ。防御面では紙装甲といっても過言ではないのやもしれん。
「バカな!?我が先祖が作りし人工の竜が・・・!」
ふむ、伯爵は魔法の研究や生物の改造などの知識はあるようだが、戦闘に関しては無知もいいところであるようだ。
しかし人工の竜か。姿形を似せているだけなら良いのだが・・・どうやらそれだけではないらしい。
首をへし折られたボロスフライは爬虫類と大差ない6本の足で立ち上がり、折れた首を筋肉を使って元に戻した。
骨がないのやもしれん。
「ジュラァァァァァァッ!!」
ボロスフライが叫ぶ。それは威嚇ではなく、自身を鼓舞するためのようにも見えた。
なぜならボロスフライの魔力が活発的に体内を循環し始めたからだ。尻尾の先端に無数の球体が生え、例えるならブドウのように膨らみ始める。
「キュガァァァ!」
「ジョー!ジョー!!」
「ギギキッ!!」
ブドウのようだが、それは甘い果実ではない。膨れ切った水風船のように弾け、中から人と虫を掛け合わせた姿を持つ異形が現れたのである。
遠目から見たら猫背の人間に見えるが、背から生えるトンボの羽が怪物であることを誤魔化せない。
口の先端は2、30センチはあろう針が伸びていて、纏う魔力から推測してアレで血液を吸引するのだろう。
バンパイアではなく、モスキートと呼称した方が良いかもしれない。
「なにあれ」
「知らないです。図鑑でも見たこともないですよ」
サエラの問いにシオンは答えられなかった。歩く辞書も同然のシオンも知らんとなると、やはり伯爵によって生み出されたオリジナルの魔物ということか。
確かに、自然界にいるような生き物とは思えん。
なぜならモスキートは誕生した瞬間に翼を動かし、こちらに向かってきたからだ。
幼年期どころか青年期すらない。生まれた瞬間にはもう成体とは、まるで戦うためにのみ生まれたような存在である。
哀れだが、襲ってくるのであれば容赦はせん。
「我がボロスフライを仕留めてくる」
「え、ちょ!?」
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ボロスフライは飛んでくる子竜の姿を見て、歓喜したように口を大きく開ける。まるで我が来ることを待ち望んでいたかのように。
「ジュラァァァァア!」
何故だろうな。普段の我なら集会所の屋根にいたまま遠距離攻撃に徹していただろう。だがこやつを見ていると一対一でやり合わねばならん気がするのだ。
「ゴガァァァァッ!!」
ボロスフライに応えるため、我も大きく咆哮を鳴らした。
次回は水曜日のお昼です
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