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〜第6章〜ラドン編

69話

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 水も滴るなんとやら。しかし今は対人に向けた言葉ではなく風景に向けた言葉であった。筒状の洞窟通路の壁は蒸気で湿っており、壁を舐める水が流れながらヒカリゴケの明かりを反射している。
 湿気った空気だが、冷えているお陰で居心地自体は悪くはない。少なくとも地上に繋がっているあの通路よりはマシだ。

「うわ、靴がビチョビチョだ」

「絶対我を降ろすなよ」

「この飼い慣らされたドラゴンめ・・・」

 ガルムが濡れた地面に苦情を上げるが、我はガルムの肩にしがみついているので問題ない。奴の足が濡れようが我には関係ないし。

「この先か?」

「さあの」

 グダグタ言っても仕方がないといった諦めのためか、ガルムの口から足の気持ち悪さの実況は止まった。
 まぁリメットのダンジョン「魔物の口」にも水生魔物の出現するエリアがあるようだし、嫌でも慣れているのかもしれん。

 それそうと、我らの目的地である廃墟へはまだ着かない。そもそも行き方がわからないのだから迷っても仕方ないのだが、一応目星だけは付けておいた。
 たぶんガルムたちの見つけた廃墟は、シング族の生活範囲とそれほど離れていないと思う。

 シング族の住む集落は元々あった廃墟を活用していたらしいが、あれほどの規模の街が地下に点々としているとは思えない。
 完全な予想だが元々一つの巨大都市で、何かしらの要因で地中深く沈み、瓦礫や地割れで分断されてしまったのではないかと我は考えている。

 なのでシング族の集落から距離的にあまり離れず、周辺の洞窟を移動していけばたどり着けると思う。
 実際、その予想は的中した。しばらく歩いていると広い空洞に辿り着き、見渡せば瓦礫に埋もれた人工物が目に映った。

 間違いない。街だ。ここも命の気配を感じない静かな場所となっている。

「ここか?」

「たぶんな・・・どこも似た建築物ばっかでわかんねぇけど」

 全てが石の彫刻のような冷たい街並み。シング族の集落は住みやすいよう多少手を加えられていたが、今いるこの場所にはそれすらない。苦手な雰囲気だ。

「早く調査して終わりにしよう。ここにはあまり長居しとぅない」

「怖いのか?」

「嫌な予感がするだけだ」

「おぉ、天下の竜王様にもこえーもんがあるのか」

「なんだと小僧」

 軽口を叩きつつ、奥へと進んでいく。やはり数千年という昔の時代に作られたものなのだろうか。もしかしたら我が生まれるよりも前・・・戦前かもしれない。
 そうなると一万年近く昔のものということだから違うか。

「たーしかこの辺だと思うんだけどなぁ」

 キョロキョロ辺りを見渡してガルムが呟く。どうやらドンピシャ、ドラゴンの彫像を発見したのはこのゴーストタウンで間違いないようだ。
 お主ら我らの滞在地の隣で迷子しとったのか・・・。

「ふむ、ここからは別行動でもとろうか?」

「大丈夫かよお前」

 心配してくるガルムの視線に我はなんともないといった顔で返す。

「ま、この辺に生き物の気配はしないしのぅ」

それが不気味なのだが。少なくとも襲われる心配はないだけマシだ。我はサエラと違って幽霊だのが怖いというわけではないからの。

「そーだな。じゃ手分けするか」

「ウム。では我はこの建物を調べるとしよう」

 夕飯までに帰らねばならんからの。なるべく早く見つけなければ。
 我は少し縦に長い長方形の建物へ足を踏み入れた。
 中には少量のヒカリゴケが生えているのでそう暗くはない。ダンジョンを探索している気分で先へ進んでみる。

「・・・マジか」

 我は今日は運がいいのか悪いのか、建物の階段を登ることなく目当ての物を見つけてしまった。
 ガルムたちが言っていた我の石像。額のひし形状の紋様は無いが、蛇に似た長い身体にアンバランスな大きな羽はまさしく成体の我そのものであった。
 その完成度は今にも動き出しそうなほどである。

「ふむ」

 やはり成体の我はカッコ良いと自画自賛する。早く元の姿に戻りたいものである。そうすれば空だって自由に飛び回れるし、皆を背に乗せることもできよう。
 何より今の我より数段パワーが上がる利点もある。まぁ、我がウロボロスとバレる可能性も上がる訳だが・・・。

 とりあえず我は彫像に登り、何か変わった点がないか探してみる。何故我を知る者がここに彫像を作ったのか?どういった意味が込められているのか?暇潰しではあるが気にはなる。

「・・・なんもないのぅ」

 しかし我の期待に応えてくれることはなかった。本当にただの像である。魔法陣でも書かれているかと期待したが、そう都合よくはいかぬか。
 ちぇ、つまらぬな。大きさが何十倍もある石像から飛び降り、我は物言わぬ像に向かって半目を向けた。

 仕方ない。ガルムでも呼んで首でも落としてもらうかな。ドラゴンの頭の彫刻を土産なんかにすれば、トールマンは喜びそうだ。流石に全身は持っていけん。

 さて、と外に向かって歩こうとした。我はほんの少し、なんとなく後ろに振り返った。
 別に石像が動いたとか、物音がしたからというわけではない。もう1度目に入れとこうかくらいの気持ちであった。
 だからそこに、我と同じくらいの生物が立っているのを視界に収めた瞬間、腰が抜けるくらい驚いた。

「うおおおおおおお!?」

 おしっこ漏れるかと思った。
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