上 下
208 / 237
〜第6章〜ラドン編

66話

しおりを挟む
「とも・・・だち?。」
「意味不明。」

 首を傾げたベタとガマに、ラスは「あぅ」と気圧されて数歩下がった。ラスなりに勇気を振り絞ってお願いした要求だったのだろう。ベタとガマの疑問が、拒否からなるものだと勘違いしたようだ。ウロボロスは慌てて三人の間に入った。

「まてまてまて、ベタ、ガマ。そう言ってやるな」

「で、でも竜王様。」
「友達。何故?。」

「な、なぜと聞かれてものぅ」

 ラスの思惑を察することができないウロボロスは、純粋に疑問を浮かべるベタとガマの視線から顔を逸らした。
 ウロボロスとしては、ベタとガマが首を傾げている理由はわかる。二人にしてみれば、脅してた相手に友好関係を切り出すなど正気の沙汰ではないということだろう。
 それなのにこの少女はベタとガマと仲良くなることを望んでいる。その理由はわからない。ウロボロスも困り果て、チラッとラスの方へ向いた。

「・・・っ」

 ベタ、ガマ、ウロボロスの視線が集中されたラスはあわわと汗をかきながらも、その疑問に答えるため藁にすがるように衣服を握りしめた。

「こ、ここ、わたし以外に子供いないの。だ、だから」

「あぁ、たしかにお主以外に子は見なかったな」

 納得がいったようで、ウロボロスがポンと手を叩いて頷いた。そんなウロボロスをノアの箱舟を見るような目でラスが激しく首を上下に振る。
 中身を気にせず外見だけ見れば、ラスとレッド・キャップは同世代に見えるだろう。この地下都市は人口が少なく、ウロボロスが見る限り女性が多く、男性がほとんどいない。子も産まれにくいのかもしれない。
 なのでラスには友達と呼べる存在がいなかったのだ。それは一種の憧れのようなものだったのかもしれない。

「そ、それに、あなたたちがほんとはいい子だって、サエラお姉ちゃんが、言ってたの」

 シオンがベタとガマを連れてくる間、どうやらサエラは軽くフォローしておいてくれたらしい。影で話を聞いていたシオンは「ナイス」と呟きながらサエラを小突いた。無表情のサムズアップが返ってくる。

「どう・・かな?」

「「・・・。」。」

 ベタとガマは互いの顔を見合わせ、どうすれば良いか迷っている様子だった。そもそもベタとガマも同世代の友人というものが存在しない。
 親しい間柄といえば誰も彼もが年上で、気安さはあるが友人と言うにはどこかが違う。
 二人の視線がウロボロスの元へいくが、親代わりの竜はずっと目を閉じ鼻息を吹いた。好きにしなさいということだ。放り出された二人はおずおずとラスの方を向いた。

「・・・」

 ラスは唇を内側に噛み、緊張した顔で二人を見つめている。時折体が震えているのは怯えではなく、おそらく正座している足のせいだろう。
 ベタとガマも釣られるように正座をする。なんだこれ。なんでお見合いみたいになっておるのだ。ウロボロスは謎の重圧感を含む空気に黙り込んだ。

 しかし、ベタとガマにとってはお見合い以上の緊張を感じていた。なぜなら彼女ら自身にも友人はおらず、こうして面と向かって友達にならないかと誘われるのは初めての経験であったのだ。これならAランク級の魔物と戦った方が随分とマシだというのが二人の心情である。

 普段であるなら平然と「よろしく」と手を出せただろう。だが二人の中にはまだ威圧による精神攻撃の罪悪感が居座っており、それが彼女らの手を引いていた。
 果たして自分たちが友人になって良いのか?それはその少女に対する害にならないか。緊張が手汗となって滲む。
 硬直した両者の視線の中、ベタがボソッとか細い声でラスに言った。

「・・・了承した。」
「カタワレ。しかし・・・。」

 相方のセリフにガマが弱音を吐くが、ベタが被せるように口から言葉を吐く。

「償いとして。願いを言うように頼んだのは我ら。ならばその願いに応えるべき。」
「・・・。」

 まっすぐした視線を向けられ、言葉が詰まるガマ。だがその通りかもしれないと心の中で同意する自分もいた。
 償いとして、ラスは友人になることを望んでいる。だというのに別の願いを要求するのはお門違いだ。ギュッと小さな手を握りしめる。

「・・・わかった。」

「っ!それじゃぁ」

「我ら。ともだち。」
「・・・よろしく。」

 二人が手を差し出すと、ラスは花が咲いたような笑顔を浮かべた。普段人見知りの彼女だが、興奮したためか勢いのままベタとガマの手を掴むと、思いっきり上下に振り抱きつく勢いで近づく。

「うん・・・うん!よろしく!」

 純粋な喜びと好意を向けられ、ベタとガマは慣れていないためぎこちない表情を作る。が、ラスの手を握り返す様子から心の中で喜びはあるのだろう。
 彼女らも、年相応の子供であるのだ。
 するとベタとガマがウロボロスの方へ向き、もどかしげにしながら頭を下げる。

「竜王様。無礼。ごめんなさい。」
「ごめんなさい。」

「い、いや、我も言い過ぎた。お主らの心情をよく理解しておくべきであった」

 二人の謝罪にウロボロスもペコペコと頭を下げる。影で見ていたシオンとサエラも、ようやく騒動も終わりかと安堵の息を吐いた。が・・・、ラスの一言がその場を凍りつかせた。

「ところで、りゅうおうさまって何?」

「ウム。それは・・・」
「我らが父は偉大なる」

「すとぉぉぉおおおおおっぷ!!!」

 シオンは隠れていたことも忘れ、飛び出した。それに驚いたウロボロスは腰を悪くした。

しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。 だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!? 体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 
恋愛
男しか爵位を受け継げないために、侯爵令嬢のロザリーは、男と女の双子ということにして、一人二役をやってどうにか侯爵家を守っていた。18歳になり、騎士団に入隊しなければならなくなった時、憧れていた第二王子付きに任命されたが、だが第二王子は90日後・・隣国の王女と結婚する。 女として、密かに王子に恋をし…。男として、体を張って王子を守るロザリー。 そんなロザリーに王子は惹かれて行くが… 本篇、番外編(結婚までの7日間 Lucian & Rosalie)完結です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

英雄冒険者のお荷物は、切り札です

製作する黒猫
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれ、その日の内に城を追い出された無力の転移者シーナは、とある契約により、英雄と呼ばれるS級冒険者ユズフェルトの主となり、命を守られるだけでなく生活の面倒まで見てもらうことに。 英雄パーティーのお荷物として周囲に疎まれるが、本当はユズフェルトの切り札であることを彼しか知らない。 それを周囲が知る日は来るのか? 小説家になろうにて、先行連載中。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...