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〜第6章〜ラドン編
63話
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えっとね、えっとね。
うむうむ。
ここがね、ご飯を置いておく場所なの。
なるほど、貯蔵庫か。
いっぱい・・・あるの。
ほぉ、このような地下空間では食料を集めるのも一苦労だろうに。
そ、そんなことないよ。ほら、みて。
お、おぅ・・・これは・・・。
少し離れた場所にて、小さな二つの影がウロチョロしていた。一つは幼い幼児の影で、もう一つは膝くらいの高さがある小動物の影である。
ラスによる道案内に付いていったのはウロボロスだった。つたなく、途切れ途切れにしゃべる口調でもウロボロスは急かすことなく、適度に相槌を打ちながら話を聞いている。
その様子ははたから見れば、陽気な老人と、それに構ってほしい手を引く孫のようにも見えた。
ほのぼのとした様子を面白くなさそうに見ている人物がいた。意外にもそれは、サエラであった。
「・・・」
ジーっと細く鋭い目が遠くにいるウロボロスの背中を見つめる。知らぬものが見れば睨みつけているように見えるし、彼女をよく知るものが見れば単に拗ねているようにも感じた。
そんなサエラを見て、シオンはぽんぽんと肩をたたく。サエラは現実世界に引き戻され一瞬目を開き、すぐに通常のジト目に戻す。
半目で眠たげで、それでもウロボロスが表すように刃物の鋭さがある。
「・・・何」
ボソッと小さい口を開き、鎌首をもたげた言葉が這い出てくる。
シオンに向けて放った言葉は決して彼女の細腕に噛み付くことはなく、その手に絡みつき、彼女は優しくそれを撫でた。
「何」
急に頭を撫でられたサエラは眉を八の字にし、不可解そうに小首を傾げた。
ウーロさんが撫でるとあんなに嬉しそうにするのにこの差はなんだとシオンは苦笑いをする。
「子供相手に対抗心燃やすのはやめましょーねー」
「・・・別にそんなことない」
ハッキリとした否定の言葉。けれども当の本人は顔ごと明後日の方へ向き、シオンからの視線から逃げるばかり。正直な仕草である。
嫉妬心なのか。視線を一か所に固定させている姿は羨んでいるようにも見えた。
それとも喪失感か。ウロボロスを抱えて歩くのはシオンの立ち位置だったが、いつも一緒にいるのはサエラだった。
ずるい、うらやましい、子供じみた慎ましい独占欲。本人の知らぬまま生み出した感情の行き場は視線であり、姉であるシオンはサエラの視線で何を考えているのか察しがついた。
「うふふ、二人は仲がいいのね」
口元に手を当て、上品に笑うのは白い髪と赤い目をしたシング族の女性。ウロボロスが目覚めて初めて見たあの女性であった。
その手には図太い円状の細長い棒を握っていて、もう片方の手には黒曜石製の黒い刃物状の石器を握っている。
シング族の女性はつるりとした比較的平らな表面を持つ石の上に棒を乗せると、黒曜石の石器をそれに押し当てた。
棒が二つに裂け、中からピンク色の柔らかい肉が出てくる。これは彼女らシング族が主食としている食べ物らしく、地上でいう燻製塩漬け肉・・・いわゆるハムに近いものである。
地下では食べ物は限定され、タンパク質などはモグラやミミズのような土壌動物から獲得しているらしい。
一見豚のボンレスハムのように見えるこの肉塊も実はミミズだそうで、子供でも容易に捕れる獲物なのでほとんどの食卓に並ぶと言う。
シオンとサエラは、シング族の女性から食べ物の説明と手伝いをすることにしたそうだ。なかなか広い空間がある小屋の中で、シオンら二人とシング族の女性五名によるお料理教室なるものが開かれていた。
もっとも、完成品がシング族の食卓に並ぶので遊んではいられない。それでも丁寧な教えによって料理が苦手な姉妹たちもそれなりに形にすることができたらしい。
「ずっと一緒に育ってきましたからね」
シング族の女性にシオンはニコニコと人当たりのいい笑顔で返す。すると別のシング族が声を出す。
「あたしは姉妹とかいねぇケドさ、兄貴と弟がいんだよ。でもいっつも喧嘩ばっかで全然仲良くねぇぞ」
「男と女では違うでしょう」
別のシング族も会話に加わる。どうやらこの部族でも、女性のおしゃべりというのは共通の特徴らしい。
「ところで、シオンちゃん、サエラちゃん」
馬鈴薯のような地底栽培された植物を水洗いしていた女性が顔を上げる。姉妹は黒曜石という新感覚の刃物の扱いに苦戦しつつ、一度手を止めて言葉の続きを待つ。
「あのドラゴンさん・・・ウ―ロさんといったかしら?あの子は二人にとってどういう存在なの?」
「ペットです」
「おじいちゃん」
「「え?」」
お互いの言葉が重なり、しかしハモらなかったことで二人の視線が重なった。ペットと言ったのがシオンで、おじいちゃんと言ったのがサエラである。
するととたんにシオンの表情が「ほほぉ~ん?」と挑発的なにやけ顔を作り、サエラは虫を見るような歪めた表情をして顔をそらす。
「なるほどー?だからですかぁ。昔からおじいちゃんっ子でしたもんねぇ?」
「・・・黙れ」
ボソッと強い口調でサエラが呟くがシオンは止まらない。普段からからかわれている意趣返しもある。シオンはシング族の女性たちを巻き込む形で話をつづけた。
「この子ってば、ラスちゃんとウ―ロさんが仲良くしてるのに嫉妬しちゃってて・・・」
「あらあら」
「そういや、さっきからずっとあいつら見てるよな」
「ツンツンしてると思ったら、かわいいところもあんのね。アナタ」
「・・・去ね」
サエラの顔はもう真っ赤であった。
うむうむ。
ここがね、ご飯を置いておく場所なの。
なるほど、貯蔵庫か。
いっぱい・・・あるの。
ほぉ、このような地下空間では食料を集めるのも一苦労だろうに。
そ、そんなことないよ。ほら、みて。
お、おぅ・・・これは・・・。
少し離れた場所にて、小さな二つの影がウロチョロしていた。一つは幼い幼児の影で、もう一つは膝くらいの高さがある小動物の影である。
ラスによる道案内に付いていったのはウロボロスだった。つたなく、途切れ途切れにしゃべる口調でもウロボロスは急かすことなく、適度に相槌を打ちながら話を聞いている。
その様子ははたから見れば、陽気な老人と、それに構ってほしい手を引く孫のようにも見えた。
ほのぼのとした様子を面白くなさそうに見ている人物がいた。意外にもそれは、サエラであった。
「・・・」
ジーっと細く鋭い目が遠くにいるウロボロスの背中を見つめる。知らぬものが見れば睨みつけているように見えるし、彼女をよく知るものが見れば単に拗ねているようにも感じた。
そんなサエラを見て、シオンはぽんぽんと肩をたたく。サエラは現実世界に引き戻され一瞬目を開き、すぐに通常のジト目に戻す。
半目で眠たげで、それでもウロボロスが表すように刃物の鋭さがある。
「・・・何」
ボソッと小さい口を開き、鎌首をもたげた言葉が這い出てくる。
シオンに向けて放った言葉は決して彼女の細腕に噛み付くことはなく、その手に絡みつき、彼女は優しくそれを撫でた。
「何」
急に頭を撫でられたサエラは眉を八の字にし、不可解そうに小首を傾げた。
ウーロさんが撫でるとあんなに嬉しそうにするのにこの差はなんだとシオンは苦笑いをする。
「子供相手に対抗心燃やすのはやめましょーねー」
「・・・別にそんなことない」
ハッキリとした否定の言葉。けれども当の本人は顔ごと明後日の方へ向き、シオンからの視線から逃げるばかり。正直な仕草である。
嫉妬心なのか。視線を一か所に固定させている姿は羨んでいるようにも見えた。
それとも喪失感か。ウロボロスを抱えて歩くのはシオンの立ち位置だったが、いつも一緒にいるのはサエラだった。
ずるい、うらやましい、子供じみた慎ましい独占欲。本人の知らぬまま生み出した感情の行き場は視線であり、姉であるシオンはサエラの視線で何を考えているのか察しがついた。
「うふふ、二人は仲がいいのね」
口元に手を当て、上品に笑うのは白い髪と赤い目をしたシング族の女性。ウロボロスが目覚めて初めて見たあの女性であった。
その手には図太い円状の細長い棒を握っていて、もう片方の手には黒曜石製の黒い刃物状の石器を握っている。
シング族の女性はつるりとした比較的平らな表面を持つ石の上に棒を乗せると、黒曜石の石器をそれに押し当てた。
棒が二つに裂け、中からピンク色の柔らかい肉が出てくる。これは彼女らシング族が主食としている食べ物らしく、地上でいう燻製塩漬け肉・・・いわゆるハムに近いものである。
地下では食べ物は限定され、タンパク質などはモグラやミミズのような土壌動物から獲得しているらしい。
一見豚のボンレスハムのように見えるこの肉塊も実はミミズだそうで、子供でも容易に捕れる獲物なのでほとんどの食卓に並ぶと言う。
シオンとサエラは、シング族の女性から食べ物の説明と手伝いをすることにしたそうだ。なかなか広い空間がある小屋の中で、シオンら二人とシング族の女性五名によるお料理教室なるものが開かれていた。
もっとも、完成品がシング族の食卓に並ぶので遊んではいられない。それでも丁寧な教えによって料理が苦手な姉妹たちもそれなりに形にすることができたらしい。
「ずっと一緒に育ってきましたからね」
シング族の女性にシオンはニコニコと人当たりのいい笑顔で返す。すると別のシング族が声を出す。
「あたしは姉妹とかいねぇケドさ、兄貴と弟がいんだよ。でもいっつも喧嘩ばっかで全然仲良くねぇぞ」
「男と女では違うでしょう」
別のシング族も会話に加わる。どうやらこの部族でも、女性のおしゃべりというのは共通の特徴らしい。
「ところで、シオンちゃん、サエラちゃん」
馬鈴薯のような地底栽培された植物を水洗いしていた女性が顔を上げる。姉妹は黒曜石という新感覚の刃物の扱いに苦戦しつつ、一度手を止めて言葉の続きを待つ。
「あのドラゴンさん・・・ウ―ロさんといったかしら?あの子は二人にとってどういう存在なの?」
「ペットです」
「おじいちゃん」
「「え?」」
お互いの言葉が重なり、しかしハモらなかったことで二人の視線が重なった。ペットと言ったのがシオンで、おじいちゃんと言ったのがサエラである。
するととたんにシオンの表情が「ほほぉ~ん?」と挑発的なにやけ顔を作り、サエラは虫を見るような歪めた表情をして顔をそらす。
「なるほどー?だからですかぁ。昔からおじいちゃんっ子でしたもんねぇ?」
「・・・黙れ」
ボソッと強い口調でサエラが呟くがシオンは止まらない。普段からからかわれている意趣返しもある。シオンはシング族の女性たちを巻き込む形で話をつづけた。
「この子ってば、ラスちゃんとウ―ロさんが仲良くしてるのに嫉妬しちゃってて・・・」
「あらあら」
「そういや、さっきからずっとあいつら見てるよな」
「ツンツンしてると思ったら、かわいいところもあんのね。アナタ」
「・・・去ね」
サエラの顔はもう真っ赤であった。
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