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〜第6章〜ラドン編
60話
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「うぅ・・・」
ピチャピチャと雫が落ちる反響音の中に、喉を擦るような少女の呻き声が聞こえてくる。
周囲は真っ暗で、光源など一切見当たらない。唯一もぞもぞと動く人形が動いたのが輪郭で少しだけわかるくらいだ。
緑色の髪をした少女・・・シオンの閉じられた大きな目が開いた。布で視界を隠したような暗さに、思わずまだ目を瞑っているのかと勘違いをおこしかける。
目元をゴシゴシとさすり、ようやく暗闇の中にいることを理解した。
「ここは・・・?」
「んっ」
キョロキョロと無駄とわかっていても周囲の状況を把握しようとしていると、隣から聞き慣れた妹の声が耳に入る。
手探りで声の出所を探ると、筋肉質ながらも細い腕を掴むことができた。触った感触だと、怪我はしていないようだ。
「サエラ!起きてください!」
「・・・目ぇ、悪くなった?」
瞬きを繰り返し、状況判断がうまくいってないのか的外れな予想を立てたサエラ。
「違いますよ。暗いんですよ」
「なるほど。そっか、私たち落ちたんだっけ」
シオンの指摘でサエラは数刻前であろう起きた出来事を思い出すことができた。何百メートルという高さを落下し、最後は温泉の元湯に巻き込まれて意識を失ったのだ。
落下しても生きているのは、水がクッションになったのかもしれない。
「ウーロさーん!ガルムさーん!メアリーさーん!」
「ベタ、ガマ。いる?」
他のメンバーの名前を叫んでみるが、反応はない。洞窟らしく、声が跳ね返って反響するだけだ。それも何度も反響しているのは、今いる場所が相当広いという証明にもなる。
明かりもない。仲間もいない。どうしたものかと頭を抱えたとき。
「キィィ・・・」
「う、うぬぅ・・・三人とも無事か?」
喉から出す裏声っぽいきしみ音状の鳴き声と、甲高くも年季を感じる喋り方をする子竜の声が聞こえてきた。
ティとウロボロスである。シオンは暗闇であるが、立ち上がって口にメガホンのように手を当てる。
ドラゴンであるウロボロスなら、この暗闇でも夜目で確認できるかもしれないと希望があったからだ。
「ウーロさん!ティちゃん!どこですかぁ!」
声が反響して、どこから聞こえてきたのかがわからない。もう一度彼らの名を呼びかけると、思わぬ場所から返事が聞こえた。
「お主らの・・・足の下」
「うわわっ!」
「踏んでたっ」
シオンとサエラは慌てて踏んでいたこんもりと盛り上がってる小山から降りた。
目を凝らしてよく見てみると、暗闇に目が慣れてきたのかどことなく爬虫類っぽい輪郭を確認することができた。
黒い影のそれはゆっくりと長い鎌首をもたげ、ランタンのように光る目を二人に向ける。
「ふむ、無事でよかった」
疲れた感じはするものの、安堵に満ちた声が聞こえる。どうやらウロボロスが2、3メートルほどの大きさのドラゴンに変身しているようだ。
疲労を滲ませる声質なのは、先の戦いで魔力を消費したからだろう。スプリガンの巨大化の魔法に使う魔力をひねり出したらしい。
「きぃ」
「おぉ、ティも大丈夫か。やれやれ、風呂だというのに肝が冷えたぞ」
まだウロボロスの背中に乗っているティの声も聞けて、ウロボロスは軽い冗談を吐いた。
そして次第に小型のワイバーン程度のサイズから、いつもの子竜の姿へと身体を縮めていく。いよいよ魔力が限界らしい。喋る口に元気がない。
「もしかして、ウーロさんがクッションに?」
「無理させた。ごめん」
寝っ転がるウロボロスの背中を二人は労わって撫でる。下手したら大穴の底に叩きつけられて死んでいたかもしれないのだ。無理してまで守ってくれたウロボロスを優しく触る。
「うーぬ。しかし他の連中が見えんな。はぐれてしまったか?」
最高戦力というか、メイン火力といって申し分ないSランカーたちの姿を探すウロボロス。
残念ながら予想通りはぐれてしまったらしい。近くに匂いは感じられない。
「・・・ここ、地脈の一部かな?通路状の洞窟みたい」
サエラが岩壁を触る。魔力のパルスを広げて周囲の確認を行ったのだ。
坂はなく、平坦な横に広がる洞窟。モグラが堀った地下通路のような道だ。落下してそのまま底に落ちたのではなく、どこか入り組んだ隙間に入ってしまったらしい。
ウロボロスが「ふむ」と一呼吸入れた。
「とりあえず進むとしよう。我は夜目で前が見えるし、サエラが補助できる。全員手を繋げば移動できるはずだ」
「でも、どっちに行くんですか?」
シオンの質問に唸るウロボロス。どちらが出口に近いのか・・・匂いも風向きも何もない状況では、判断材料を見つけることはできない。
うーむと悩んでいると、どこからかカランコロンと何かが倒れる音が聞こえた。
「・・・こっち」
サエラが呟く。小太刀を木の枝に見立てて、倒れた方に向かおうという古典的な作戦を実行したらしい。
確かに道に迷った時は有効だし、なんの根拠もないが一向に進展しないよりははるかにマシだ。
しかし、倒れた方向が悪かった。
「そっちは壁だぞ」
「・・・」
指摘され、ピタッと動きを止めるサエラ。するとまたカランと石の上を転がる音が聞こえ、おそらく何食わぬ顔をしてるであろうサエラがまた同じセリフを吐いた。
「こっち」
「・・・うん、そうだな。そうしようか」
果たしてこんなやり方で脱出できるのか。ウロボロスはいるかわからない曖昧な神に祈るしかできなかった。
「やっぱりこっちかもしれない」
「またか」
「だってどうしても壁の方向いちゃう」
「我に貸せ」
「この先すげぇ不安なんですけど」
「キィィ」
ピチャピチャと雫が落ちる反響音の中に、喉を擦るような少女の呻き声が聞こえてくる。
周囲は真っ暗で、光源など一切見当たらない。唯一もぞもぞと動く人形が動いたのが輪郭で少しだけわかるくらいだ。
緑色の髪をした少女・・・シオンの閉じられた大きな目が開いた。布で視界を隠したような暗さに、思わずまだ目を瞑っているのかと勘違いをおこしかける。
目元をゴシゴシとさすり、ようやく暗闇の中にいることを理解した。
「ここは・・・?」
「んっ」
キョロキョロと無駄とわかっていても周囲の状況を把握しようとしていると、隣から聞き慣れた妹の声が耳に入る。
手探りで声の出所を探ると、筋肉質ながらも細い腕を掴むことができた。触った感触だと、怪我はしていないようだ。
「サエラ!起きてください!」
「・・・目ぇ、悪くなった?」
瞬きを繰り返し、状況判断がうまくいってないのか的外れな予想を立てたサエラ。
「違いますよ。暗いんですよ」
「なるほど。そっか、私たち落ちたんだっけ」
シオンの指摘でサエラは数刻前であろう起きた出来事を思い出すことができた。何百メートルという高さを落下し、最後は温泉の元湯に巻き込まれて意識を失ったのだ。
落下しても生きているのは、水がクッションになったのかもしれない。
「ウーロさーん!ガルムさーん!メアリーさーん!」
「ベタ、ガマ。いる?」
他のメンバーの名前を叫んでみるが、反応はない。洞窟らしく、声が跳ね返って反響するだけだ。それも何度も反響しているのは、今いる場所が相当広いという証明にもなる。
明かりもない。仲間もいない。どうしたものかと頭を抱えたとき。
「キィィ・・・」
「う、うぬぅ・・・三人とも無事か?」
喉から出す裏声っぽいきしみ音状の鳴き声と、甲高くも年季を感じる喋り方をする子竜の声が聞こえてきた。
ティとウロボロスである。シオンは暗闇であるが、立ち上がって口にメガホンのように手を当てる。
ドラゴンであるウロボロスなら、この暗闇でも夜目で確認できるかもしれないと希望があったからだ。
「ウーロさん!ティちゃん!どこですかぁ!」
声が反響して、どこから聞こえてきたのかがわからない。もう一度彼らの名を呼びかけると、思わぬ場所から返事が聞こえた。
「お主らの・・・足の下」
「うわわっ!」
「踏んでたっ」
シオンとサエラは慌てて踏んでいたこんもりと盛り上がってる小山から降りた。
目を凝らしてよく見てみると、暗闇に目が慣れてきたのかどことなく爬虫類っぽい輪郭を確認することができた。
黒い影のそれはゆっくりと長い鎌首をもたげ、ランタンのように光る目を二人に向ける。
「ふむ、無事でよかった」
疲れた感じはするものの、安堵に満ちた声が聞こえる。どうやらウロボロスが2、3メートルほどの大きさのドラゴンに変身しているようだ。
疲労を滲ませる声質なのは、先の戦いで魔力を消費したからだろう。スプリガンの巨大化の魔法に使う魔力をひねり出したらしい。
「きぃ」
「おぉ、ティも大丈夫か。やれやれ、風呂だというのに肝が冷えたぞ」
まだウロボロスの背中に乗っているティの声も聞けて、ウロボロスは軽い冗談を吐いた。
そして次第に小型のワイバーン程度のサイズから、いつもの子竜の姿へと身体を縮めていく。いよいよ魔力が限界らしい。喋る口に元気がない。
「もしかして、ウーロさんがクッションに?」
「無理させた。ごめん」
寝っ転がるウロボロスの背中を二人は労わって撫でる。下手したら大穴の底に叩きつけられて死んでいたかもしれないのだ。無理してまで守ってくれたウロボロスを優しく触る。
「うーぬ。しかし他の連中が見えんな。はぐれてしまったか?」
最高戦力というか、メイン火力といって申し分ないSランカーたちの姿を探すウロボロス。
残念ながら予想通りはぐれてしまったらしい。近くに匂いは感じられない。
「・・・ここ、地脈の一部かな?通路状の洞窟みたい」
サエラが岩壁を触る。魔力のパルスを広げて周囲の確認を行ったのだ。
坂はなく、平坦な横に広がる洞窟。モグラが堀った地下通路のような道だ。落下してそのまま底に落ちたのではなく、どこか入り組んだ隙間に入ってしまったらしい。
ウロボロスが「ふむ」と一呼吸入れた。
「とりあえず進むとしよう。我は夜目で前が見えるし、サエラが補助できる。全員手を繋げば移動できるはずだ」
「でも、どっちに行くんですか?」
シオンの質問に唸るウロボロス。どちらが出口に近いのか・・・匂いも風向きも何もない状況では、判断材料を見つけることはできない。
うーむと悩んでいると、どこからかカランコロンと何かが倒れる音が聞こえた。
「・・・こっち」
サエラが呟く。小太刀を木の枝に見立てて、倒れた方に向かおうという古典的な作戦を実行したらしい。
確かに道に迷った時は有効だし、なんの根拠もないが一向に進展しないよりははるかにマシだ。
しかし、倒れた方向が悪かった。
「そっちは壁だぞ」
「・・・」
指摘され、ピタッと動きを止めるサエラ。するとまたカランと石の上を転がる音が聞こえ、おそらく何食わぬ顔をしてるであろうサエラがまた同じセリフを吐いた。
「こっち」
「・・・うん、そうだな。そうしようか」
果たしてこんなやり方で脱出できるのか。ウロボロスはいるかわからない曖昧な神に祈るしかできなかった。
「やっぱりこっちかもしれない」
「またか」
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