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第4章〜不死〜
46話「永遠に生きる者。永遠に産まれる者。」6
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「あはは、ふふふ」
「な、何ですか。急に笑い出して・・・」
不気味に笑みを浮かべ、顔の半分を手で隠したルーデス。その様子にシオンは警戒するように一歩下がった。
シオンの目的は時間稼ぎ、それとバンパイアロードに対して適度な心の傷を与えることだった。
強大な力を持ち、永遠に近い寿命を有する上位生物の最も脆い弱点は心だと、シオンはウロボロスを見て学んでいた。
ウロボロスは数千年生きているというのに、性格は子供のように純真で幼稚な一面がある。
無論生きてきた場数や溜め込んだ知識もあろう。だが決して年長者というイメージはなく、精々同世代か少し年上にしか認識できない。
そう、彼らはまだ子供なのだ。寿命という制限がなくなった彼らは子供から大人までの境界線がなくなり、精神の成長が時止まりのように止まっているのである。
故に心が傷付きやすく、簡単には吹っ切れられない。一つの物事に執着し、一度大きな変化が起きれば人格に大きく影響を受けてしまうのだ。
それがヒーローや憧れの存在ならまだいい。だが絶望のような負の感情ならどうだろう?
一つの物事に執着すればするほど、それが壊された時の精神へのダメージは計り知れないものだ。
特に人間の子供とは違い、吸血鬼や竜、精霊は長い時間しがみついていているせいで何が起こるか予想できなくなる。
それは自身の叔母であるメリーアにも同じことが言えた。
エルフは長寿で、叔母はウロボロスの素材から得れる利益に取り憑かれた。それ以外考えられなくなった。故にあのような暴挙に出たのだ。
(・・・やりすぎましたか?)
シオンは知っている。長齢種の心の弱さを。どこに槍を刺せば相手を硬直させることができるのか。
だがルーデスは、心の弱さを補ってしまう魔力の強さを手に入れてしまっていた。
「ははは、そうだ。君の言う通り、僕は彼女のものを壊してしまった・・・」
言葉に含まれる確かな懺悔。ただそれは、果たして罪を受け入れた罪人の言葉だっただろうか?
否、それは新たな答えを見つけた歓喜の言葉であった。
「なら作り直せばいい!彼女の夢も、家も、全て僕が元通りにすればいいんだ!僕にはその力がある!!」
言葉と鼓動するように、新たな結晶が身体から生え、全体の大きさを巨大化させていく。
先ほどまではリメットの壁に寄生していたような姿であったが、今ではルーデスの魔力の比率も上がり、一種の共存体のようにも見えた。
人の手だろうか?脚だろうか?人の部位を模した結晶が次々に生え、百足の足のように活発に動く。
結晶一つ一つが意思を待ち、自身の役割を見つけようと試みる。
「っ!これはっ」
「まずいな。本能で魂を統べ始めたか」
シオンの後ろに隠れるメアリーが舌打ちをした。
ゾンビの身体に寄生しようとしていた、成仏せず浮遊していた魂にルーデスの笛によって偶然集められた魂。
それらが解放されて、ゾンビの身体の代わりに結晶を手に入れたことで、急速に活性化したのだ。
意思を持たぬ魂が結晶と結晶を繋げ、一種の個体群として活動を始める。
脳であるルーデスは高笑いをあげて冒涜的な進化を受け入れた。
「ははははは!僕が彼女を!彼女の魂を救うんだ!今度こそ、守ってみせる!あはははっ!!」
「命を弄ぶ奴が何をぬかすか」
その時、支配下にある野良の魂たちが身を縮めたのを、統率者であるルーデスは感じ取った。
最上級の魂。美しく、力強く、濃密された濃い魂。
ルーデスは狂気に侵されていた頭に氷水をぶっかけられたように冷静になる。
その魂の行方を目で追うと、そこには青紫色の鱗に包まれた、巨大な竜の姿があった。
「お前は・・・あの時の子竜か?」
竜・・・ウロボロスは、尊大な態度で頷く。
「うむ、時間がないのでな。お主を倒させてもらう」
言い切るより早く、ウロボロスはパッと翼を広げた。ガルムが放っていた竜巻に劣らない暴風が吹き荒れる。
今の羽ばたきで、結晶の中にいた魂が何個がかき消された。残った魂も怯えてしまう。
ルーデスは感じる。ここで殺さないといけない。なんとしても、と。
その願いが叶うかはともかく、ウロボロスはルーデスに向かって飛んで行った。
「ウーロさん!!」
シオンの声もウロボロスは置いていく。巨大な翼で飛行するのが、予想よりはるかに早い。
竜王の迫力にルーデスは気圧されるが、そんな彼を動かしたのは愛する女性を救いたいと思う、呪いに近い願いだった。
使い物にならない魂がを魔力へ変え、結晶を蒸発させて多大な熱量を溜め込む。
そして迫り来る巨竜に対し極太の、それこそ竜すら消し飛ばせるくらいの光線をウロボロスに向かって発射した。
「消し飛べっ!!!」
紫色の光線が、松明以上の光を放ちながらウロボロスに向かう。このブレスとは違う特殊な攻撃は、空気抵抗も重力にも影響を受けず、文字通り光の速さでウロボロスに迫った。
「ぐぅおあっ!」
ルーデスに向かってイノシシのように真っ直ぐ飛んでいたウロボロスは、光線を避けることができずに直撃を受けてしまう。
当たった部位は片方の翼。一瞬で大穴を開けた翼に身体全体のバランスが崩れ、激痛が神経を巡って脳を焼く。
意識が一瞬ぶっ飛ぶ。頭の中が真っ白になり、激痛が邪魔してうまく四肢を動かせない。
力が抜け、墜落しそうになったウロボロス。その耳に親し慣れた声が届かなければ、そのまま意識を失っていたかもしれない。
彼は無意識の内に、視線を遥か下にいる仲間たちへと向けていた。
「ーーっ!!ー!」
「ー!」
「「ー。」」
光線に焼かれた肉の音や、空気が鼓膜を揺らすせいで上手く聞き取れなかった。
シオンが何かを叫び、サエラは一言だけポツリと言い、レッド・キャップが鎖をぐるぐると回している。
ガルムは何も言っていないが、真っ直ぐと空を見上げる瞳は間違いなくウロボロスを映していた。
何も聞こえやしないが、間違いなく自分を応援して当たるのが理解できた。
消えそうな意識を、無理矢理踏みとどまらせる。
「ぐ、ぐぬぬっ!」
「はははっ!竜って言っても大したことないじゃないか!このまま僕の魔力にしてやる!!」
そう言ってルーデスはさらに光線を放つ勢いを増した。
すでに宙をえがく光芒はウロボロスの翼を貫き、地面まで到達している。
このまま光線の勢いを増やせば、いずれ胴体まで到達するだろう。勝利を確信したルーデスが口を裂いて笑った。が、なぜか自分と同じように不敵に笑う何者かに注目が引かれた。
「ふふ、クフフフ」
なぜ笑っている?とルーデスは疑問を隠せなかった。近く前に翼を焼かれたのに、なぜ余裕がまだあるのか。
その答えを見つける前に、ルーデスの思考が無理矢理変更せざるおえない変化が目の前で起きた。
「なにっ!?」
松明よりも周囲を照らしていた紫色の光線の光が、白銀色に輝く光に置き換わる。
その光の発生源は、今なお光線を喰らっているウロボロスからであった。
鱗の隙間からゆらゆらと揺れる陽炎が立ち上がり、翼を焼いていた光線が逆に白い炎に飲み込まれる。
ウロボロスの全身が、白銀色の炎に包まれていたのだ。正確には身体そのものから炎が上がっているのだが。
「太陽・・・」
誰かが呟いた。そう感じても仕方がないだろう。
まるでウロボロスが太陽がなったかのように、辺りの一角が真昼のごとく明るさに照らされているのだから。
「ガァァァァァァアッ!!」
炎・・・業火をまとったウロボロスが、高らかに吠えた。
「くっ!」
地を揺らすほどの大音量。全方位に放たれた魔力によって、ルーデスの光線はかき消された。
ウロボロスは自身にダメージを与えていた光線が消えたことを察すると、失った翼の代わりに炎で象り、大きく翼を動かし急上昇する。
接近してくる白銀の竜に、結晶が道を阻もうと飛び出す。が、業火をまとったウロボロスには意味をなさない。
結晶が蒸発し、あっという間にルーデスの元へとウロボロスが飛び込んできた。
そして接触。ルーデスに太陽と化したウロボロスが直撃する。
溢れんばかりの魔力の光が周囲を照らした。ルーデスの魔力とウロボロスの炎が結合し、リメットを白で包む。
「!?」
ルーデスに接触したウロボロスは、ルーデスの魔力を感じていた。ルーデスに刻まれた意思が、思考が、記憶が、ウロボロスの身体に流れ込んでくる。
「私はこの美しい花を誰でも見て、育てられるようにしたいんです」
「いい夢だと僕は思うよ」
「ルーデスさんの夢は何ですか?」
「僕は・・・僕は」
「誰かの笑顔を守れるようになりたい」
「・・・ルーデス」
どんなに残酷で残忍な吸血鬼となっても、そうなる前は普通の青年だった。
夢があり、恋をして、生きていたのだ。
ウロボロスは全てを包みあげ、そして燃やし尽くす業火の中で、ルーデスの最後の言葉を聞いた。
「どうして・・・僕にはお前みたいな力がないんだ」
それはバンパイアロードではなく、ルーデスとしての言葉のように思えた。
「っ!ウーロさん!」
「・・・ウーロさん」
怪物のように盛り上がった結晶が白き炎によって燃やされる。燃えカスが空気に溶け、それは次第に土や水、空に混ざって自然の魔力へと変換されていく。
紫色をした光の粒が、雨のように漂う。その中に、何十倍ともある質量が翼をはためかせた。
バサバサと、それは少しづつ地表へ近づいていく。その翼の持ち主を見て、サエラとシオンは安堵の息を漏らした。
「流石。竜王様。」
「宴。宴。」
互いの手を握り、ダンスをするようにステップするレッド・キャップ。
他の皆も、ウロボロスの無事を確認して一息つけたようだ。
「・・・伝説ってデマじゃねぇんだな」
「ワン!」
「やつかれは疲れた・・」
「全く、みんな気を抜きすぎよ」
仲間たちが会話する様子。ウロボロスはそれを見て口元をわずかに緩めた。
背後からはリメットに張り付いた笛とルーデスの魔力から生み出されし結晶が、油のように炎によって浄化されていく。次第に元の美しいアメジストのような外壁に戻っていく。
白い炎はそれこそ朝日のように眩しいが、その炎の裏からさらに眩しい光が立ち昇る。
「朝日・・・」
「あっ・・・」
まるで生き残った皆を祝福するかのような、いつもと同じ太陽の光。それを浴びたシオンから黒い霧のような瘴気が少しづつ霧散していく。
陽の光によって、残っていた不純物を取り除いたのだ。吸血鬼に噛まれた傷も、わずかに香っていた花の香りとともに消えてしまう。
「・・・」
夜が明けた。
「な、何ですか。急に笑い出して・・・」
不気味に笑みを浮かべ、顔の半分を手で隠したルーデス。その様子にシオンは警戒するように一歩下がった。
シオンの目的は時間稼ぎ、それとバンパイアロードに対して適度な心の傷を与えることだった。
強大な力を持ち、永遠に近い寿命を有する上位生物の最も脆い弱点は心だと、シオンはウロボロスを見て学んでいた。
ウロボロスは数千年生きているというのに、性格は子供のように純真で幼稚な一面がある。
無論生きてきた場数や溜め込んだ知識もあろう。だが決して年長者というイメージはなく、精々同世代か少し年上にしか認識できない。
そう、彼らはまだ子供なのだ。寿命という制限がなくなった彼らは子供から大人までの境界線がなくなり、精神の成長が時止まりのように止まっているのである。
故に心が傷付きやすく、簡単には吹っ切れられない。一つの物事に執着し、一度大きな変化が起きれば人格に大きく影響を受けてしまうのだ。
それがヒーローや憧れの存在ならまだいい。だが絶望のような負の感情ならどうだろう?
一つの物事に執着すればするほど、それが壊された時の精神へのダメージは計り知れないものだ。
特に人間の子供とは違い、吸血鬼や竜、精霊は長い時間しがみついていているせいで何が起こるか予想できなくなる。
それは自身の叔母であるメリーアにも同じことが言えた。
エルフは長寿で、叔母はウロボロスの素材から得れる利益に取り憑かれた。それ以外考えられなくなった。故にあのような暴挙に出たのだ。
(・・・やりすぎましたか?)
シオンは知っている。長齢種の心の弱さを。どこに槍を刺せば相手を硬直させることができるのか。
だがルーデスは、心の弱さを補ってしまう魔力の強さを手に入れてしまっていた。
「ははは、そうだ。君の言う通り、僕は彼女のものを壊してしまった・・・」
言葉に含まれる確かな懺悔。ただそれは、果たして罪を受け入れた罪人の言葉だっただろうか?
否、それは新たな答えを見つけた歓喜の言葉であった。
「なら作り直せばいい!彼女の夢も、家も、全て僕が元通りにすればいいんだ!僕にはその力がある!!」
言葉と鼓動するように、新たな結晶が身体から生え、全体の大きさを巨大化させていく。
先ほどまではリメットの壁に寄生していたような姿であったが、今ではルーデスの魔力の比率も上がり、一種の共存体のようにも見えた。
人の手だろうか?脚だろうか?人の部位を模した結晶が次々に生え、百足の足のように活発に動く。
結晶一つ一つが意思を待ち、自身の役割を見つけようと試みる。
「っ!これはっ」
「まずいな。本能で魂を統べ始めたか」
シオンの後ろに隠れるメアリーが舌打ちをした。
ゾンビの身体に寄生しようとしていた、成仏せず浮遊していた魂にルーデスの笛によって偶然集められた魂。
それらが解放されて、ゾンビの身体の代わりに結晶を手に入れたことで、急速に活性化したのだ。
意思を持たぬ魂が結晶と結晶を繋げ、一種の個体群として活動を始める。
脳であるルーデスは高笑いをあげて冒涜的な進化を受け入れた。
「ははははは!僕が彼女を!彼女の魂を救うんだ!今度こそ、守ってみせる!あはははっ!!」
「命を弄ぶ奴が何をぬかすか」
その時、支配下にある野良の魂たちが身を縮めたのを、統率者であるルーデスは感じ取った。
最上級の魂。美しく、力強く、濃密された濃い魂。
ルーデスは狂気に侵されていた頭に氷水をぶっかけられたように冷静になる。
その魂の行方を目で追うと、そこには青紫色の鱗に包まれた、巨大な竜の姿があった。
「お前は・・・あの時の子竜か?」
竜・・・ウロボロスは、尊大な態度で頷く。
「うむ、時間がないのでな。お主を倒させてもらう」
言い切るより早く、ウロボロスはパッと翼を広げた。ガルムが放っていた竜巻に劣らない暴風が吹き荒れる。
今の羽ばたきで、結晶の中にいた魂が何個がかき消された。残った魂も怯えてしまう。
ルーデスは感じる。ここで殺さないといけない。なんとしても、と。
その願いが叶うかはともかく、ウロボロスはルーデスに向かって飛んで行った。
「ウーロさん!!」
シオンの声もウロボロスは置いていく。巨大な翼で飛行するのが、予想よりはるかに早い。
竜王の迫力にルーデスは気圧されるが、そんな彼を動かしたのは愛する女性を救いたいと思う、呪いに近い願いだった。
使い物にならない魂がを魔力へ変え、結晶を蒸発させて多大な熱量を溜め込む。
そして迫り来る巨竜に対し極太の、それこそ竜すら消し飛ばせるくらいの光線をウロボロスに向かって発射した。
「消し飛べっ!!!」
紫色の光線が、松明以上の光を放ちながらウロボロスに向かう。このブレスとは違う特殊な攻撃は、空気抵抗も重力にも影響を受けず、文字通り光の速さでウロボロスに迫った。
「ぐぅおあっ!」
ルーデスに向かってイノシシのように真っ直ぐ飛んでいたウロボロスは、光線を避けることができずに直撃を受けてしまう。
当たった部位は片方の翼。一瞬で大穴を開けた翼に身体全体のバランスが崩れ、激痛が神経を巡って脳を焼く。
意識が一瞬ぶっ飛ぶ。頭の中が真っ白になり、激痛が邪魔してうまく四肢を動かせない。
力が抜け、墜落しそうになったウロボロス。その耳に親し慣れた声が届かなければ、そのまま意識を失っていたかもしれない。
彼は無意識の内に、視線を遥か下にいる仲間たちへと向けていた。
「ーーっ!!ー!」
「ー!」
「「ー。」」
光線に焼かれた肉の音や、空気が鼓膜を揺らすせいで上手く聞き取れなかった。
シオンが何かを叫び、サエラは一言だけポツリと言い、レッド・キャップが鎖をぐるぐると回している。
ガルムは何も言っていないが、真っ直ぐと空を見上げる瞳は間違いなくウロボロスを映していた。
何も聞こえやしないが、間違いなく自分を応援して当たるのが理解できた。
消えそうな意識を、無理矢理踏みとどまらせる。
「ぐ、ぐぬぬっ!」
「はははっ!竜って言っても大したことないじゃないか!このまま僕の魔力にしてやる!!」
そう言ってルーデスはさらに光線を放つ勢いを増した。
すでに宙をえがく光芒はウロボロスの翼を貫き、地面まで到達している。
このまま光線の勢いを増やせば、いずれ胴体まで到達するだろう。勝利を確信したルーデスが口を裂いて笑った。が、なぜか自分と同じように不敵に笑う何者かに注目が引かれた。
「ふふ、クフフフ」
なぜ笑っている?とルーデスは疑問を隠せなかった。近く前に翼を焼かれたのに、なぜ余裕がまだあるのか。
その答えを見つける前に、ルーデスの思考が無理矢理変更せざるおえない変化が目の前で起きた。
「なにっ!?」
松明よりも周囲を照らしていた紫色の光線の光が、白銀色に輝く光に置き換わる。
その光の発生源は、今なお光線を喰らっているウロボロスからであった。
鱗の隙間からゆらゆらと揺れる陽炎が立ち上がり、翼を焼いていた光線が逆に白い炎に飲み込まれる。
ウロボロスの全身が、白銀色の炎に包まれていたのだ。正確には身体そのものから炎が上がっているのだが。
「太陽・・・」
誰かが呟いた。そう感じても仕方がないだろう。
まるでウロボロスが太陽がなったかのように、辺りの一角が真昼のごとく明るさに照らされているのだから。
「ガァァァァァァアッ!!」
炎・・・業火をまとったウロボロスが、高らかに吠えた。
「くっ!」
地を揺らすほどの大音量。全方位に放たれた魔力によって、ルーデスの光線はかき消された。
ウロボロスは自身にダメージを与えていた光線が消えたことを察すると、失った翼の代わりに炎で象り、大きく翼を動かし急上昇する。
接近してくる白銀の竜に、結晶が道を阻もうと飛び出す。が、業火をまとったウロボロスには意味をなさない。
結晶が蒸発し、あっという間にルーデスの元へとウロボロスが飛び込んできた。
そして接触。ルーデスに太陽と化したウロボロスが直撃する。
溢れんばかりの魔力の光が周囲を照らした。ルーデスの魔力とウロボロスの炎が結合し、リメットを白で包む。
「!?」
ルーデスに接触したウロボロスは、ルーデスの魔力を感じていた。ルーデスに刻まれた意思が、思考が、記憶が、ウロボロスの身体に流れ込んでくる。
「私はこの美しい花を誰でも見て、育てられるようにしたいんです」
「いい夢だと僕は思うよ」
「ルーデスさんの夢は何ですか?」
「僕は・・・僕は」
「誰かの笑顔を守れるようになりたい」
「・・・ルーデス」
どんなに残酷で残忍な吸血鬼となっても、そうなる前は普通の青年だった。
夢があり、恋をして、生きていたのだ。
ウロボロスは全てを包みあげ、そして燃やし尽くす業火の中で、ルーデスの最後の言葉を聞いた。
「どうして・・・僕にはお前みたいな力がないんだ」
それはバンパイアロードではなく、ルーデスとしての言葉のように思えた。
「っ!ウーロさん!」
「・・・ウーロさん」
怪物のように盛り上がった結晶が白き炎によって燃やされる。燃えカスが空気に溶け、それは次第に土や水、空に混ざって自然の魔力へと変換されていく。
紫色をした光の粒が、雨のように漂う。その中に、何十倍ともある質量が翼をはためかせた。
バサバサと、それは少しづつ地表へ近づいていく。その翼の持ち主を見て、サエラとシオンは安堵の息を漏らした。
「流石。竜王様。」
「宴。宴。」
互いの手を握り、ダンスをするようにステップするレッド・キャップ。
他の皆も、ウロボロスの無事を確認して一息つけたようだ。
「・・・伝説ってデマじゃねぇんだな」
「ワン!」
「やつかれは疲れた・・」
「全く、みんな気を抜きすぎよ」
仲間たちが会話する様子。ウロボロスはそれを見て口元をわずかに緩めた。
背後からはリメットに張り付いた笛とルーデスの魔力から生み出されし結晶が、油のように炎によって浄化されていく。次第に元の美しいアメジストのような外壁に戻っていく。
白い炎はそれこそ朝日のように眩しいが、その炎の裏からさらに眩しい光が立ち昇る。
「朝日・・・」
「あっ・・・」
まるで生き残った皆を祝福するかのような、いつもと同じ太陽の光。それを浴びたシオンから黒い霧のような瘴気が少しづつ霧散していく。
陽の光によって、残っていた不純物を取り除いたのだ。吸血鬼に噛まれた傷も、わずかに香っていた花の香りとともに消えてしまう。
「・・・」
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